
紹介する論文
Sick of sexism? Ambivalent sexism, work–family conflicts, and physical health of working mothers.
邦題(編集部訳): 性差別にうんざり? 両価的性差別、ワークファミリー・コンフリクト、そして働く母親の身体的健康
結論
上司の敵意的な性差別は、仕事と家庭の双方の葛藤を高めて働く母親の身体的な不調と結びついていました。一方、保護的で好意的に見える性差別は、仕事から家庭への葛藤を弱める反面、家庭から仕事への葛藤は強めるという相反する働きを示しました。良かれと思った配慮が別の負担を生みうるため、支援は本人の意向を確かめて設計する必要があります。
働く母親が職場で受ける性差別には、攻撃的なものと、保護的で一見好意的なものの二種類があります。幼い子どもを育てる母親を時期をずらして追った調査では、前者は仕事と家庭の葛藤をどちらも高め、身体的な不調につながっていました。後者は仕事から家庭への葛藤を和らげる一方、家庭から仕事への葛藤はむしろ強めるという、相反する二つの経路を示しています。
この論文の要点
- 上司の敵意的な性差別は、仕事と家庭の葛藤を介して母親の健康の悪さと結びついていました
- 保護的な性差別は葛藤を和らげる面と強める面の両方を持ち、影響は一方向ではありません
- 伝統的な性別役割をどう捉えるかによって、性差別が葛藤に及ぼす程度は変わります
研究の問い
働く母親は、職場で性別に基づく偏見にさらされ続けています。ただし偏見は攻撃的な形だけではありません。両価的性差別という考え方では、女性の能力を低く見て否定的に扱う敵意的性差別と、女性を守るべき存在として気遣う慈悲的性差別という、一見正反対の二つの態度が同時に存在するとされます。後者は好意的に見えるため問題として認識されにくく、上司の善意の配慮が働く母親に何をもたらすのかははっきりしていませんでした。本研究は、上司のこれら二つの振る舞いが、仕事と家庭の間で生じるワークファミリー・コンフリクトを通じて、働く母親の身体的健康にどうつながるのかを問うています。
調べ方
5歳未満の幼い子どもを育てる働く母親719名を対象に、時間差をおいた3時点の調査が行われました。上司の敵意的性差別と慈悲的性差別の受け止め、仕事から家庭への葛藤と家庭から仕事への葛藤、そして身体的健康の状態を時期をずらして測定し、性差別が葛藤を介して健康につながるという媒介の関係を検証しています。あわせて、伝統的な性別役割をどの程度支持するかというジェンダー役割志向を調整要因として組み込み、性差別と葛藤の結びつきが母親自身の役割観によって変わるかを確かめました。
わかったこと
上司の敵意的性差別は、想定どおり一貫した経路をたどりました。仕事から家庭への葛藤と家庭から仕事への葛藤の双方を高め、それを介して身体的健康の悪さと結びついていました。攻撃的な扱いが負荷や緊張として持ち帰られ、家庭生活まで乱していく流れです。
一方、慈悲的性差別は向きの異なる二つの働きを示しました。仕事から家庭への葛藤に対してはこれを弱める方向に働き、その分だけ健康にはプラスに作用する部分がありました。しかし家庭から仕事への葛藤に対しては逆にこれを強め、健康の悪化につながる部分もありました。善意に見える配慮は、ある負担を和らげながら同時に別の葛藤を生むという二面性を持つわけです。
さらに、働く母親自身のジェンダー役割志向によって、性差別と葛藤の結びつきの強さは変わりました。全体として、著者らの立てた仮説はおおむね支持されています。
人事・研修担当への示唆
- 上司の敵意的性差別は健康リスクにつながります。攻撃的な発言だけでなく、母親への担当外しや軽視も管理職研修の題材に含めましょう
- 「子どもがいるから負担を減らそう」という配慮も両価的性差別の一面です。仕事量を調整する前に本人の希望を必ず確認してください
- 配慮の効果を点検するときは、仕事から家庭への葛藤だけでなく、家庭から仕事への葛藤が増えていないかも面談で聞き取りましょう
読むときの注意点
時期をずらした調査ではありますが、示されているのは変数どうしの関連であり、因果関係が確定したわけではありません。対象は幼い子どもを育てる働く母親に限られ、父親や子どものいない女性にそのまま当てはまるとは限りません。調査が行われた国や業種といった文脈の情報は抄録では明記されていないため、自社への当てはめは慎重に行ってください。
キーワード解説
- 両価的性差別
- 両価的性差別とは、女性を見下す敵意的な態度と、女性を守るべき存在として扱う好意的な態度が同時に存在するという考え方のことです。
- 敵意的性差別
- 敵意的性差別とは、女性の能力や地位を低く見積もり、否定的・攻撃的に扱う形であらわれる性別に基づく偏見のことです。
- 慈悲的性差別
- 慈悲的性差別とは、女性を守るべき弱い存在とみなし、一見好意的な配慮や気遣いという形であらわれる性別に基づく偏見のことです。
- 仕事から家庭への葛藤
- 仕事から家庭への葛藤とは、仕事上の時間や負担が、家庭での役割を果たすことを妨げてしまっている状態のことです。
- 家庭から仕事への葛藤
- 家庭から仕事への葛藤とは、家庭での責任や負担が、仕事上の役割を果たすことを妨げてしまっている状態のことです。
- ジェンダー役割志向
- ジェンダー役割志向とは、男女それぞれが担うべき役割について、伝統的な考え方をどの程度支持しているかという個人の価値観のことです。
- 身体的健康
- 身体的健康とは、疲労感や痛み、体調不良の少なさなど、からだの面での状態の良し悪しを指す健康の側面のことです。
よくある質問
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Q慈悲的性差別は結局よいものなのですか?
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A一概にはよいと言えません。この研究では、上司の保護的な配慮が仕事から家庭への葛藤を弱める一方で、家庭から仕事への葛藤はむしろ強めていました。負担を減らす面と別の葛藤を生む面が同居するため、配慮そのものより本人の意向に沿っているかが問われます。
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Q働く母親への配慮はどう設計すればよい?
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A本人に確認せず一律に仕事量や役割を減らす形は避けたほうがよいでしょう。この研究は、良かれと思った配慮が家庭から仕事への葛藤を高めうることを示しています。何を減らし何を続けたいかを面談で聞き取り、選択できる形にすることが現実的です。
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Q性差別が健康にまで影響するのはなぜ?
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A職場での扱いが仕事と家庭のあいだの葛藤を経由するためです。この研究では、上司の敵意的性差別が仕事から家庭への葛藤と家庭から仕事への葛藤の双方を高め、それを介して身体的健康の悪さと結びついていました。健康問題は個人の体力の話に留まりません。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


