
紹介する論文
Leisure under lock: cognitive activation and motivation erosion as mechanisms undermining experiential quality of leisure time
邦題(編集部訳): 閉ざされた余暇:余暇時間の体験の質を損なうメカニズムとしての認知的活性化と動機づけの侵食
結論
その日にやり残した仕事や先の業務量の見込みが大きい日ほど、夜の余暇を楽しく意味あるものとして過ごせていないことが、14日間の日誌調査で示されました。背景には、仕事の先行きを悪く考えてしまう「認知」の経路と、余暇をうまく過ごせる自信が下がる「意欲」の経路の両方がありました。休み方を支援するときは、頭の切り替えだけでなく意欲の面にも目を向ける必要があります。
仕事を終えても夜に心から休めない。その理由は「仕事のことを考えてしまう」ことだけではないようです。本研究は、やり残した仕事や見込まれる業務量が、仕事の先行きへの否定的な予想を強めると同時に、余暇を充実させられるという自信を下げていることを示しました。この2つを通じて夜の余暇の質が下がっていることが、日々の記録から明らかになっています。
この論文の要点
- 未完了タスクや見込まれる業務量が多い日ほど、夜の余暇の楽しさ・意味・没頭が低い傾向がありました
- 経路は2つあり、仕事の先行きを悪く考える認知の経路と、余暇への自信が下がる意欲の経路です
- 心理的柔軟性が高い人は、未完了タスクによって余暇への自信が下がりにくくなっていました
研究の問い
多くの人は毎日、仕事の役割と、家庭や趣味など仕事以外の役割を行き来しています。これまでの研究では、仕事のストレス要因が仕事に関する考えを呼び起こし、仕事から私生活への気持ちの切り替えを妨げることが示されてきました。しかし、切り替えがうまくいかない理由は「考えてしまう」ことだけなのでしょうか。著者らは、余暇を楽しもうとする意欲や自信がすり減るという動機づけ(やる気)の面も同じくらい重要ではないかと考えました。そこで、認知の経路と意欲の経路を並べて検討し、仕事の負担が夜の余暇の質をどのように損なうのかを明らかにしようとしました。
調べ方
分析の計画を事前に登録したうえで、14日間にわたる日誌調査を行いました。参加者には毎日、朝と仕事終わりに回答してもらいました。測ったのは、その日の未完了タスク、見込まれる業務量、仕事の先行きへのネガティブな予期、余暇に関する自己効力感、夜の余暇の質です。分析対象は179人、1,849件の日単位データで、日ごとの変化と個人差を同時に扱える多層の統計モデルで分析しました。あわせて、職務関与、特性としてのマインドフルネス、心理的柔軟性という個人の特徴によって、これらの関係が変わるかも検討しています。
わかったこと
分析の結果、著者らが立てた仮説はすべて支持されました。未完了タスクが多い日や、見込まれる業務量が多い日ほど、仕事の先行きへのネガティブな予期が強まっていました。同時に、余暇に関する自己効力感(余暇をうまく過ごせるという自信)も低くなっていました。そしてこの2つがそれぞれ、夜の余暇の質の低さと結びついていました。仕事の負担は「頭が仕事から離れない」という認知の経路だけでなく、「余暇を充実させる気力や自信がしぼむ」という意欲の経路を通じても、私生活の時間に影響していると考えられます。
個人差については、心理的柔軟性(つらい考えや感情を抱えたままでも、自分が大切にしたい行動を選べる力)が高い人ほど、未完了タスクによる余暇への自信の低下が小さいことがわかりました。職務関与やマインドフルネスによって関係が変わったかどうかの詳しい結果は、抄録では明記されていません。
人事・研修担当への示唆
- 終業前に「やり残したこと」と「翌日の段取り」を書き出す時間を設け、未完了タスクを気持ちの上で持ち帰らない運用を試す
- 休み方の研修では、仕事を忘れるコツだけでなく、余暇の過ごし方を計画して自信を持てるよう支える内容も加える
- 心理的柔軟性を育てるプログラムを、ストレス対策やウェルビーイング施策の選択肢として検討する
読むときの注意点
日誌調査で日々の関連を捉えた研究であり、実験のように因果関係を確定したものではありません。回答はすべて本人の自己報告です。対象者の職種・業種・国などは抄録では明記されていません。調整要因として抄録で具体的に述べられているのは心理的柔軟性に関する1つの関係だけです。また、研修や施策の効果を直接確かめた研究でもありません。
キーワード解説
- 未完了タスク
- 未完了タスクとは、その日の勤務時間内に終えられず、翌日以降に持ち越された仕事のことです。
- 自己効力感
- 自己効力感とは、ある行動や課題を自分ならうまくやり遂げられるという見込みや自信のことです。
- 心理的柔軟性
- 心理的柔軟性とは、つらい考えや感情を無理に消そうとせず受け止めながら、自分が大切にしたい価値に沿った行動を選べる力のことです。
- 日誌調査
- 日誌調査とは、参加者に一定期間、毎日決まったタイミングで短い質問に答えてもらい、日ごとの変化を捉える調査方法のことです。
- 余暇の質
- 余暇の質とは、自由時間をどれだけ楽しく、意味があり、夢中になれるものとして体験できたかの度合いのことです。
- ネガティブな予期
- ネガティブな予期とは、これから先の出来事について、悪い展開や困難を思い浮かべて考えてしまう心の働きのことです。
- 職務関与
- 職務関与とは、仕事が自分にとってどれだけ重要で、自分自身と深く結びついていると感じているかの度合いのことです。
- マインドフルネス
- マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に評価を加えずに注意を向けている心の状態や、そうした状態になりやすい傾向のことです。
よくある質問
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Q仕事を持ち越すと、なぜ余暇を楽しめなくなるの?
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Aこの研究によると、やり残した仕事や先の業務量の見込みは、仕事の先行きを悪く考えさせるだけではありません。余暇をうまく過ごせるという自信も下げます。この2つの経路が重なることで、夜の余暇が楽しく意味のあるものになりにくいと考えられます。
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Q仕事が終わっても休めない社員にどう支援すればいい?
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A頭を仕事から切り離す工夫(終業前にやり残しを書き出すなど)に加えて、余暇を充実させる自信を支える視点が役立つ可能性があります。この研究は意欲の経路も重要だと示しています。ただし、特定の施策の効果を検証した研究ではありません。
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Q心理的柔軟性は仕事とプライベートの切り替えに役立つ?
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Aこの研究では、心理的柔軟性が高い人ほど、やり残した仕事によって余暇への自信が下がりにくいことが示されました。ただし、日々のデータに見られた関連であり、柔軟性を高めれば必ず切り替えが改善すると確かめたわけではありません。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


