障害者雇用の認証や社員ネットワークがあっても、求人広告の包摂的施策は少ない

障害者雇用の認証や社員ネットワークがあっても、求人広告の包摂的施策は少ない (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Hybrid Regulation and Employer Signalling of Disability Inclusion in UK Job Adverts

Nicolas Bacon, Kim Hoque, Jafar Sabbah / Human Resource Management Journal (2026年) / DOI: 10.1111/1748-8583.70068

邦題(編集部訳): ハイブリッド規制と、英国の求人広告における雇用主の障害者インクルージョンのシグナリング

結論

英国の求人広告を分析したところ、政府の障害者雇用認証「Disability Confident」に参加する組織や、障害のある社員のネットワークを持つ組織では、一部の障害者向け採用・定着施策を広告に載せる傾向が見られました。ただし、そうした組織でも記載はまれでした。人事にとっては、認証の取得や社内組織の設置と、採用の現場で実際の施策を示すことは別の問題だと認識しておく必要があります。

英国で、障害者雇用に関する政府の認証制度に参加していたり、障害のある社員のネットワークを持っていたりする組織は、一部の障害者向け採用・定着施策を求人広告に載せる傾向がありました。しかし、そうした組織でも記載はまれでした。認証や社内組織があることが実際の取り組みにつながっているのか、それとも対外的な見せ方にとどまっているのかが問われています。

この論文の要点

  • 認証参加組織やネットワークを持つ組織は、一部の障害者向け施策を求人広告に多く載せていた
  • ただし差が見られたのは一部の施策だけで、記載そのものも全体的にまれだった
  • 制度への参加が実質的な取り組みを伴うのか、外向けの象徴的な合図なのかが問われている

研究の問い

英国のように市場の自由を重視する国(リベラル市場経済)では、平等に関するルールづくりに雇用主が深く関わるようになっています。国が企業と一緒に制度を設計する仕組みや、労働組合の代わりに社内の当事者グループが声を上げる仕組みなど、雇用主が主導する「ハイブリッド規制」が広がってきました。しかし、こうした仕組みに参加している組織が、障害のある人の採用や定着を支える取り組みを実際に行っているのかは、十分に確かめられていませんでした。そこで本研究は、求人広告に書かれた内容を手がかりに、この点を検証しています。

調べ方

英国の求人広告132,456件について、雇う側(需要側)の個票データを分析しました。取り上げた仕組みは2つです。1つは、政府が雇用主と共同でつくった認証制度「Disability Confident」です。参加した組織は、認証を得ることで障害者に配慮した取り組みを対外的に示せます。もう1つは、障害のある社員が社内で集まる従業員障害者ネットワークです。これら2つの有無と、広告に障害者の採用・定着を支える施策が書かれているかどうかの関係を調べました。

わかったこと

分析の結果、Disability Confidentに参加する組織や、従業員障害者ネットワークを持つ組織の求人広告では、障害者インクルージョン(障害のある人を職場の一員として受け入れる取り組み)につながる採用・定着施策の一部が、そうでない組織より多く書かれていました。ただし、すべての施策でこの傾向が見られたわけではありません。どの施策で差が出たのかは、抄録では明記されていません。

さらに重要なのは、差が見られた施策であっても、実際に広告に載っていた頻度は低かった点です。認証や社内ネットワークがあっても、求人広告の段階で具体的な取り組みを示す例は多くありませんでした。

著者らはこの結果をもとに、雇用主主導のハイブリッド規制が組織の実質的な取り組みを伴っているのか、それとも主に外部の関係者に向けた象徴的なシグナリング(外から見えにくい姿勢を伝える合図)なのか、という疑問を投げかけています。なお、この結果は関連を示したもので、制度への参加が施策を生んだという因果関係を示したものではありません。

人事・研修担当への示唆

  • 自社が障害者雇用の認証を取得しているなら、求人広告に具体的な配慮や定着支援の内容まで書かれているかを点検しましょう。
  • 従業員障害者ネットワークの意見を、求人票の文言や選考時の配慮の案内づくりに反映させる仕組みを設けましょう。
  • 認証ロゴや制度参加の表示だけで満足せず、採用・定着の実際の運用と対外的な発信が一致しているかを定期的に確認しましょう。

読むときの注意点

本研究は求人広告の記載内容を分析したもので、組織の内部で実際に行われている取り組みそのものを測ったわけではありません。広告に書かれていなくても、施策が存在する可能性があります。また、対象は英国の制度と求人広告であり、法制度や労使関係が異なる他国にそのまま当てはまるとは限りません。結果は関連を示すもので、因果関係は示していません。

キーワード解説

ハイブリッド規制
ハイブリッド規制とは、国による法規制や労使の交渉といった従来の枠組みに、雇用主が主体的に関わって形づくる新しい規制の形のことです。
リベラル市場経済
リベラル市場経済とは、企業どうしの調整を主に市場での競争や契約に委ね、労使の協調や国の介入が比較的弱い経済のあり方のことです。
障害者インクルージョン
障害者インクルージョンとは、障害のある人が職場から排除されず、一員として能力を発揮しながら働き続けられる状態をつくる取り組みのことです。
シグナリング
シグナリングとは、外から見えにくい自社の特徴や方針を、表示や発信を通じて求職者や取引先などに伝えようとすることです。
従業員障害者ネットワーク
従業員障害者ネットワークとは、障害のある社員やその支援者が社内で集まり、情報交換や経営への提言を行う自主的なグループのことです。
認証制度
認証制度とは、一定の基準を満たした組織を行政や第三者が認め、その事実を対外的に示せるようにする仕組みのことです。
求人広告
求人広告とは、企業が募集する職種や仕事内容、労働条件などを求職者に知らせるために公開する情報のことです。

よくある質問

Q
障害者雇用の認証がある企業は求人広告で配慮を示している?
A
英国の研究では、政府の障害者雇用認証に参加する組織の求人広告に、一部の障害者向け採用・定着施策が多く書かれる傾向が見られました。ただし、すべての施策で差があったわけではなく、記載のある広告自体もまれでした。認証の有無だけで実際の取り組みを判断するのは難しいといえます。
Q
社内の障害者ネットワークは採用に役立ちますか?
A
本研究では、従業員障害者ネットワークを持つ組織の求人広告に、一部の採用・定着施策が多く書かれる傾向がありました。ただし記載の頻度は全体として低く、ネットワークが施策を生んだという因果関係も示されていません。ネットワークの声を求人の内容に生かす工夫が求められます。
Q
企業の障害者インクルージョンは見せかけなのですか?
A
この研究は見せかけだと断定してはいません。認証や社内ネットワークがあっても求人広告での施策の記載が少ないことから、実質的な取り組みを伴っているのか、主に外部向けの象徴的なシグナリングなのか、という問いを投げかけています。広告に書かれていない施策が存在する可能性もあります。

原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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