質的研究

権力を持つ男性が「うちは実力主義」と見る理由は資源の充足感

女性が権力ある地位に就きにくいのはなぜか。この研究は、権限そのものではなく、権限に見合う資源が伴っているかどうかに注目します。男性は権限が大きいほど自社を実力主義的だと捉えやすく、その背景には、役割を果たすだけの資源が自分にはあるという認識の男女差がありました。資源が足りているという感覚は、実力主義の見方を通じて公平性向上の取り組みへの支持を弱めていました。

キャリアショックが行動を促すのは会社派遣の駐在員

海外赴任にはトラブルや転機がつきものです。本研究は、そうした予期せぬ出来事が国際的なキャリアの持続性にどう関わるかを、質的調査と量的調査を組み合わせて検討しました。その結果、ショックを感じたときにキャリアを切り開く行動が強まる関係は、会社から派遣された駐在員でより強く見られました。主体性は本人の資質だけでなく、周囲の支援の在り方に条件づけられている可能性が示されています。

女性起業家の正当性は宗教の再解釈から始まる

アラブ首長国連邦の女性起業家は、国の女性活躍推進や国家発展という大きな物語に自分の事業を重ね、起業家としての正当性を語りによって築いていました。同時に彼女たちは、イスラームの教えとビジネス倫理を自ら読み直し、女性が事業を営むことは倫理的で社会的責任のある行いだと位置づけていました。外向きの説得の前に、内側での解釈のやり直しがあったのです。

実務家向け雑誌を内容分析すると現場の関心が見える

人材開発の研究と現場の間には隔たりがあると言われ続けてきました。本論文は、実務家向けに発行されている雑誌そのものを分析対象に据え、内容分析の手順を組み立てて示します。学術的な枠組みを持ち込まず、その媒体の論理に沿って読むことで、通常の文献レビューでは見えない現場の関心や優先順位を継続的に追跡できる、というのが著者らの主張です。

撤退できないのは意思決定ではなく、日々の会話の積み重ね

複数あった選択肢が、いつのまにか一本の失敗しつつある道へ絞り込まれていく。本研究はその過程を、個人の判断の誤りとしてではなく、メンバー同士のやり取りのなかで結びつきが強まっていく過程として描き直しました。人はアイデアを握りしめるだけでなく、次第にそのアイデアの側に握られていく。実務家の実感に近いこの見方が、抜け出せないチームを理解する手がかりになります。

気候アクティビズムは事業と両立する形だけがキャリアに報われる

社内で気候変動に取り組む専門職の活動は、どんな形なら評価され、どんな形なら見過ごされるのか。本研究は、専門サービス企業で働くコンサルタントらへの聞き取りから、活動の進め方には三つの型があり、事業と両立しやすい形ほどキャリア上の見返りを得やすいことを示しました。抵抗的な活動は評価されにくく、社内の変化は小幅なものにとどまりやすいと論じられています。

負の感情を扱う仕事では深層演技が表層演技より働き手を傷つける

感情労働の研究では長く、感情を偽る表層演技のほうが有害で、本心から感情をつくり出す深層演技は害が小さいと考えられてきました。この研究は債権回収という職種を深く掘り下げ、その前提が負の感情を扱う場面では成り立たない可能性を示します。顧客の苦境が働き手自身のつらい記憶を呼び起こし、湧き上がった真正な感情がそのまま痛みになっていました。

女性の適応支援より、ジェンダー障壁を直接取り除く実践が効く

人里離れた過酷な現場に出向く地球科学の仕事で、女性はどのように壁を越えているのでしょうか。この研究は、男女の地球科学者への67件の半構造化インタビューから、現場の物理的な条件と周囲との社会的な関係の両方に根ざしたジェンダー障壁と、女性が取る戦略を描き出しました。環境に自分を合わせる対応は障壁を温存しやすく、障壁そのものに働きかける対応と、それを直接扱う組織慣行のほうが効果的でした。

職場から家庭への圧力は一方通行、支えたのは親族と仲間だった

ワークライフバランスの研究は、役割の境界が引きやすく制度も比較的あてになる環境を前提にしてきました。この研究は、長期の任務や予測できない勤務、支援の行き届かなさが続くナイジェリア軍の現場で聞き取りを行い、仕事と家庭の影響が双方向ではなく構造的に偏っていることを描き出します。公式な支援が弱いところでは、親族や仲間、地域の助け合いといった文化に根ざした資源が、その偏りを部分的に受け止めていました。

危機が続く環境では『退く・戻る』の周期が生存を支える

紛争が続く地域で事業を営む起業家たちは、危機から「立ち直る」のでも「成長する」のでもなく、繰り返す危機と資源不足のなかで事業と暮らしを続けること自体を目指していました。本研究は、そうしたレジリエンス(逆境に対処する力)が、いったん退き、また関わり直し、やり方を変えるという周期として現れることを示します。ただしその生存は、本人の健康や事業の成長、人とのつながりを差し出すことと引き換えでした。