研修は求職行動を抑える、ただし地域の制度環境しだい

研修は求職行動を抑える、ただし地域の制度環境しだい (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Institutional isomorphism at the regional level: a multilevel analysis with training, work engagement and community workers’ job search

Guanghuai Zheng, Tiantian Liu, Jingxuan Yi, Yean Wang / Personnel Review (2026年) / DOI: 10.1108/pr-07-2024-0659

邦題(編集部訳): 地域レベルの制度的同型化——研修、ワーク・エンゲイジメント、コミュニティワーカーの求職行動に関するマルチレベル分析

結論

地域福祉の担い手を対象にした全国調査の分析から、研修を受けている職員ほど他の働き口を探す動きが弱く、その間をワーク・エンゲイジメントが橋渡ししていることが示されました。ただし効き方は一定ではなく、他組織をまねる動きや専門職規範が強い地域では効果が増し、規制に従う圧力が強い地域では弱まります。研修の設計は、置かれた地域や制度の事情とセットで考える必要があるということです。

研修は人材の定着に効くのか。中国の社会工作機関(地域福祉サービスを担う組織)を対象にした全国調査の分析から、研修は職員の求職行動を抑え、その経路として仕事への活力や没頭を示すワーク・エンゲイジメントが働くことが確認されました。さらに、その抑制効果は地域に広がる制度のあり方によって強まりも弱まりもすることが示されています。

この論文の要点

  • 研修を受けている職員ほど、他の働き口を探す動きが弱いという関係が示されました
  • その間をワーク・エンゲイジメントが媒介していました
  • 模倣的・規範的な同型化は効果を強め、強制的な同型化は弱めます

研究の問い

人事施策は合理的に設計すれば同じように効く——長らくそう考えられてきました。しかし近年は、組織が周囲の組織や規範に似ていく制度的同型化という視点から、人事施策のあり方が外部環境に左右されると指摘されています。とはいえ、制度的同型化を調整要因として扱い、人事施策が狙った成果につながる内部のしくみそのものが環境によって変わるのかを検証した実証研究は、ほとんどありませんでした。本研究は、人と仕事の適合の理論と新制度派の考え方を組み合わせ、研修が求職行動を抑えるしくみを、地域・組織・個人という三つの層で捉え直そうとしています。

調べ方

分析には、中国で実施された社会工作機関(地域福祉サービスを担う組織)を対象とする全国調査のデータが用いられています。41地域の215機関、2,971名のコミュニティワーカーが対象です。地域・組織・個人という入れ子の構造をふまえたマルチレベル分析により、研修と求職行動の関係、その間をつなぐワーク・エンゲイジメントの媒介、そして地域レベルの制度環境による調整が同時に検討されました。

わかったこと

まず、研修を受けている職員ほど求職行動が弱いという関係が確認されました。研修そのものが直接引き止めるというより、研修を通じて仕事への向き合い方が変わることが効いています。実際、ワーク・エンゲイジメントがこの関係を媒介しており、研修によって仕事に必要な力や見通しが得られ、その結果として仕事に打ち込めるようになり、外に目を向けにくくなるという道筋が支持されました。

次に、この抑制の強さは地域によって異なりました。周囲の組織のやり方をまねる動きが強い地域(模倣的同型化)や、専門職としての規範が浸透している地域(規範的同型化)では、研修の抑制効果はより強く現れます。一方、外部からの要求に従う圧力が強い地域(強制的同型化)では、抑制効果は弱まりました。

つまり、同じ研修を実施しても、地域に広がる制度の性質しだいで定着への効き方が変わる、というのが本研究の中心的な主張です。

人事・研修担当への示唆

  • 研修の評価は受講満足度や定着率だけでなく、仕事への活力や没頭が高まったかを併せて測りましょう
  • 同業他組織の実践や専門職の基準を研修内容に取り込み、その根拠を受講者に示しましょう
  • 外部から求められて実施する必須研修ほど、日々の業務との結びつきを丁寧に説明しましょう

読むときの注意点

対象は中国の社会工作機関で働く職員であり、他の業種や国にそのまま当てはまるとは限りません。示されているのは変数どうしの関係であり、研修が求職行動を減らしたという因果の向きまで断定できるわけではありません。地域の制度環境をどう測ったかなど設計の細部は抄録では明記されていないため、実務に取り入れる前に原典の確認をおすすめします。

キーワード解説

制度的同型化
制度的同型化とは、組織が周囲の組織や社会の規範に合わせるうちに、互いに似た形や慣行へ収れんしていく現象のことです。
模倣的同型化
模倣的同型化とは、先行きが読みにくいときに、うまくいっている他組織のやり方をまねることで生じる同型化のことです。
規範的同型化
規範的同型化とは、専門職の教育や職業団体が広める「あるべきやり方」に沿うことで生じる同型化のことです。
強制的同型化
強制的同型化とは、法規制や資金の出し手など、力を持つ相手からの要求に従うことで生じる同型化のことです。
ワーク・エンゲイジメント
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対して活力を感じ、熱意を持ち、没頭している前向きな心理状態のことです。
求職行動
求職行動とは、在職中の人が他の働き口の情報を集めたり応募したりする、転職に向けた一連の動きのことです。
人と仕事の適合
人と仕事の適合とは、本人の能力や欲求と、仕事が求めるものや与えるものとが、どれだけかみ合っているかの度合いのことです。
マルチレベル分析
マルチレベル分析とは、個人・組織・地域のように入れ子になったデータを、層ごとの影響を分けて扱う統計手法のことです。

よくある質問

Q
研修をすれば社員の離職は防げますか?
A
この研究では、研修を受けている職員ほど他の働き口を探す動きが弱いという関係が示されました。ただし効き方の強さは地域の制度環境によって変わっており、どこでも同じように効くわけではない点に注意が必要です。
Q
研修が定着につながる理由は何ですか?
A
仕事に活力と熱意を持ち没頭している状態、つまりワーク・エンゲイジメントの高まりが橋渡しになっていました。研修で仕事に必要な力が身につき、仕事への向き合い方が変わることが、外に目を向けにくくすると解釈されています。
Q
制度的同型化とは何ですか?
A
組織が周囲の組織や制度に合わせて似た形になっていく現象です。他組織をまねる模倣的、専門職の規範に沿う規範的、規制などに従う強制的の三つに分けられ、本研究では前の二つが研修の効果を強め、強制的なものは弱めていました。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

タイトルとURLをコピーしました