感情労働は「要件・制御・表出」の三要素で捉え直す

感情労働は「要件・制御・表出」の三要素で捉え直す (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Emotional Labor at a Crossroads: Where Do We Go from Here?

Alicia A. Grandey, Allison S. Gabriel / Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior (2015年) / DOI: 10.1146/annurev-orgpsych-032414-111400

邦題(編集部訳): 岐路に立つ感情労働——ここからどこへ向かうのか

結論

感情労働の研究は、概念の輪郭があいまいなこと、そうであろうと想定されただけで検証されていないプロセスが残ること、方法論が停滞していることという行き詰まりを抱えていると整理されました。著者らは感情労働を、感情要件・感情制御・感情表出という三つの要素が動的に結びついたものとして捉え直します。人事にとっては、表情の指導より先に、職務が求める感情の中身と支援の設計を点検することが出発点になります。

仕事の役割として感情を整える「感情労働」は、組織行動や組織心理学の中で確かな位置を占めるようになりました。一方で、概念のあいまいさ、未検証のまま前提とされたプロセス、方法論の停滞といった行き詰まりも生じています。著者らは感情労働を、感情要件・感情制御・感情表出という三つの要素の動的な統合として捉え直し、研究の新しい道筋を示しました。

この論文の要点

  • 感情労働は感情要件・感情制御・感情表出の統合として捉え直されます
  • 概念のあいまいさ、未検証のプロセス、方法論の停滞が課題とされます
  • 個人と組織の調整要因が、影響の出方を左右すると整理されました

研究の問い

感情労働、つまり仕事の役割の一部として自分の感情を整える働き方は、概念として提唱されて以来、組織行動や組織心理学の主要なテーマとして定着してきました。しかし研究が加速するにつれて、いくつかの行き詰まりも見えてきたと著者らは指摘します。構成概念の輪郭があいまいなまま使われていること、そうであろうと想定されただけで実際には検証されていないプロセスが残っていること、そして方法論が同じ型にとどまっていることです。この論文は、新しく研究に加わる人に方向を示し、経験を積んだ研究者には次の一手を提案するために書かれました。

調べ方

著者らは、感情労働に関する理論的な視点とこれまでの証拠を、次の四つの領域に分けて整理しています。すなわち、(a) 構成概念の発展と測定、(b) 慢性的な要因と瞬間ごとの要因、(c) 従業員のウェルビーイングの予測、(d) 組織の業績への影響です。新たにデータを集めた実証研究ではなく、既存の理論と知見をレビューし、今後の研究が進むべき道筋を描くことを目的としています。対象となった研究の本数や分析手法といった具体的な数値は、抄録では明記されていません。

わかったこと

著者らは、感情労働を単一の行動ではなく、三つの要素が動的に結びついたものとして捉え直すことを提案します。三つとは、職務が求める感情要件、それに合わせて自分の気持ちを整える感情制御、そして実際に相手へ示される感情表出です。これらを分けて考えることで、「何が求められているか」「どう調整しているか」「結果として何が伝わったか」を混同せずに議論できるようになります。

また、感情労働がいつ、誰にとって負担になるのかを左右する条件として、個人の側と組織の側の両方の調整要因が取り上げられています。同じ要件のもとでも、担当者の特性や職場の状況によって、ウェルビーイングへの影響は一様ではないと整理されています。

さらに、働く人の健康や幸福への影響と、組織の業績への影響は別々に検討する必要があること、そして測定と方法論を刷新することが次の進展の鍵になることが示されました。

人事・研修担当への示唆

  • 接客の表情マニュアルを作る前に、職務が求める感情要件を言語化し、裁量や休憩とセットで設計しましょう
  • 離職やバーンアウトの兆候は個人の資質ではなく、感情労働を伴う職務設計の問題として点検してください
  • 研修は「笑顔の作り方」に偏らせず、感情制御の負担を減らす場面設計と上司の支援を併せて見直しましょう

読むときの注意点

この論文は個別のデータを分析した実証研究ではなく、理論と既存の知見を整理したレビューです。示されているのは今後の研究の方向づけであり、特定の施策の効果を保証するものではありません。著者ら自身、概念のあいまいさや未検証のプロセスが残ると述べています。日本の職場にどこまで当てはまるかについては、抄録では触れられていません。

キーワード解説

感情労働
感情労働とは、仕事の役割の一部として、求められる感情を示せるよう自分の気持ちを整えて働くことです。
感情要件
感情要件とは、その職務において示すことが期待される感情の内容や表し方についての決まりや期待のことです。
感情制御
感情制御とは、自分が感じている感情や、その表れ方を意識的に調整しようとするはたらきのことです。
感情表出
感情表出とは、表情や声、言葉づかいとして実際に相手へ伝わる感情の表れのことです。
調整要因
調整要因とは、ある要因が結果に及ぼす影響の強さや向きを変える、別の条件のことです。
ウェルビーイング
ウェルビーイングとは、心身の健康や仕事上の満足感を含む、働く人の良好な状態のことです。
構成概念
構成概念とは、直接には目に見えないため、定義と測定の方法を定めたうえで扱う研究上の概念のことです。

よくある質問

Q
感情労働とは何ですか?
A
仕事の役割の一部として、求められる感情を示せるよう自分の気持ちを整えて働くことを指します。この論文では、職務が求める感情要件、気持ちを整える感情制御、実際に相手へ伝わる感情表出という三つの要素が動的に結びついたものとして捉え直されています。
Q
感情労働はいつ負担になりますか?
A
一律に負担になるわけではなく、個人の側と組織の側の調整要因によって影響の出方が変わると整理されています。同じ要件のもとでも、担当者の特性や職場の状況次第でウェルビーイングへの影響は異なります。具体的な条件ごとの数値は抄録では明記されていません。
Q
この論文は現場で何に使えますか?
A
職務が求める感情の中身を言語化し、それを支える裁量や休憩、上司の支援とセットで設計する視点が得られます。働く人の健康と組織の業績は別々に検討すべきとされているため、成果指標と負担指標を分けて把握することが実務的な出発点になります。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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