
紹介する論文
Resolving the Performance Feedback Puzzle: CEO Psychopathy, Heterogeneous Emotional Responses to Aspiration Gaps, and Risk-Taking
邦題(編集部訳): 業績フィードバックのパズルを解く——CEOのサイコパシー、期待水準ギャップへの異質な感情反応、そしてリスクテイキング
結論
業績が期待水準に届かないときにリスクを取るのかどうかは、CEOのサイコパシー傾向によって向きが変わることが示されました。傾向が低いCEOは不振時に攻めて好調時に守る一方、傾向が高いCEOは反対の動き方をします。経営者の個人特性が戦略判断の向きを左右するため、トップ層の選抜や意思決定の仕組みづくりで人の特性を軽視できないことを示す結果です。
業績が目標に届かないとき、企業は思い切った投資に踏み切るのか、それとも守りに入るのか。この研究は、どちらが起きるかがCEOのサイコパシー傾向という個人差によって変わると論じ、フィンランド企業を追った長期データで確かめました。同じ業績フィードバックでも、経営者によって正反対の反応が生まれるという結論です。
この論文の要点
- 同じ業績の落ち込みでも、CEOによってリスクの取り方は正反対になります
- サイコパシー傾向が低いCEOは、不振時に攻め好調時に守る動きでした
- 傾向が高いCEOは、不振時に動きが鈍り好調時に大胆になりました
研究の問い
業績が期待水準に届かない会社はどう動くのでしょうか。企業行動理論は、不振を解くべき問題と捉えた経営陣が新しい手を探すためリスクテイキングが増えると考えます。反対に脅威硬直の考え方では、危機に直面した組織はかえって既存のやり方に固執すると説明します。業績が期待を上回る場合も、満足化を重視する立場は冒険を控えると予測し、スラック探索の立場は余力が挑戦を後押しすると予測します。つまり同じ業績フィードバックについて、理論の予測が食い違ってきたわけです。本研究は、状況が個人の特性を呼び起こすという特性活性化理論を手がかりに、CEOのサイコパシー傾向こそが反応の分かれ目ではないかと考えました。
調べ方
著者らは、フィンランド企業を長期にわたって追跡したデータを用い、企業ごとの変わりにくい違いを取り除く固定効果モデルで分析しました。CEOのサイコパシー傾向は、企業の業績とは切り離して集められた大規模な心理測定にもとづく指標で捉えています。そのうえで、業績と期待水準のギャップがリスクテイキングとどう結びつくか、さらにその結びつきがサイコパシー傾向の高低でどう変わるかを検証しました。標本の規模や指標の具体的な作り方は、抄録では明記されていません。
わかったこと
サイコパシー傾向が低いCEOのもとでは、業績が期待水準を下回るほどリスクテイキングが強まり、逆に業績が期待を上回ると抑えられる関係がみられました。これは、不振を解決すべき課題として受け止めて新しい選択肢を探る問題探索と、目標を満たせばそれ以上の冒険を控える満足化との組み合わせにあたります。
ところが、サイコパシー傾向が高いCEOでは関係が反転しました。業績が振るわない局面ではむしろ動きが小さくなり、脅威硬直に近い姿を示す一方、業績が期待を上回る局面では余力を元手に大胆な投資へ向かう、スラック探索に近い動きが強まります。著者らは、脅威の手がかりと報酬の手がかりへの感じ方の違いが異なる感情反応を生み、それが行動の向きを分けると説明しています。四つの理論は互いに争う予測ではなく、状況と特性の組み合わせで立ち上がる行動パターンとして整理し直されました。
人事・研修担当への示唆
- 不振時に守るか攻めるかはトップの個人差で割れます。業績フィードバックの場は反応の癖を前提に設計しましょう
- 経営層の人材選抜では、実績だけでなく脅威や報酬への感じ方の違いも評価の観点に加えて検討しましょう
- 好調時ほど大胆になるタイプには、投資判断の歯止めとなる決裁ルールを事前に用意しておくと安全です
読むときの注意点
観察データにもとづく分析であり、CEOの特性が行動を引き起こしたと断定できるものではありません。用いられた指標は心理測定によるもので、臨床的な診断とは異なります。対象はフィンランド企業に限られ、他の国や制度環境でも同じ関係がみられるかは分かりません。標本の規模や効果の大きさは抄録では明記されていません。
キーワード解説
- 業績フィードバック
- 業績フィードバックとは、自社の業績を目標や他社と照らし合わせ、うまくいっているかどうかを経営陣が判断する情報のことです。
- 期待水準
- 期待水準とは、これくらいは達成したいと経営陣が考える業績の目安で、過去の実績や同業他社を手がかりに形づくられる基準のことです。
- リスクテイキング
- リスクテイキングとは、結果が読みにくい投資や新規事業に資源を投じ、成果の振れ幅が大きくなる選択をする企業行動のことです。
- 特性活性化理論
- 特性活性化理論とは、人の性格特性はいつでも同じように現れるのではなく、関連する手がかりのある状況で初めて行動に表れると考える理論のことです。
- 問題探索
- 問題探索とは、業績が目標に届かない状態を解決すべき問題として受け止め、組織が新しい手段や選択肢を探し始める動きのことです。
- 脅威硬直
- 脅威硬直とは、危機や脅威に直面した組織や個人が、目を向ける情報の幅を狭め、慣れたやり方に固執してしまう反応のことです。
- スラック探索
- スラック探索とは、業績に余裕が生まれたときに、その余力を使って新しい試みや実験に踏み出す組織の動きのことです。
- サイコパシー傾向
- サイコパシー傾向とは、他者への共感が薄く、脅威に動じにくい一方で報酬や刺激に強く引かれるといった心理特性の強さのことです。
よくある質問
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Q業績が悪いと企業はリスクを取りますか?
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A一律には言えません。本研究では、サイコパシー傾向が低いCEOのもとでは業績不振の局面でリスクテイキングが強まる一方、傾向が高いCEOではむしろ動きが鈍る関係が示されました。会社の反応はトップの個人差に左右されるという整理です。
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Qサイコパシー傾向が高い経営者は問題ですか?
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A本研究は良し悪しを判定していません。示されたのは、業績フィードバックへの反応の向きが変わるという点です。好調時に踏み込みやすく不振時に慎重になる傾向は、局面によって強みにも弱みにもなり得ると読むのが妥当です。
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Q特性活性化理論とはどんな考え方ですか?
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A性格特性は常に行動に出るのではなく、それを呼び起こす状況の手がかりがあって初めて表れるという考え方です。本研究では、業績と期待水準のギャップがその手がかりとして働き、CEOごとの感じ方の違いを行動に変えると論じられています。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


