女性取締役の選任が続くと、海外進出はM&Aより自前設立に傾く

女性取締役の選任が続くと、海外進出はM&Aより自前設立に傾く (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Greenfield versus M&A: The Influence of Female Director Appointment and the Moderating Effect of Board Composition

Hsiang‐Lan Chen, Wen‐Tsung Hsu, Hsiu-Jung Tsai / The Journal of Applied Behavioral Science (2026年) / DOI: 10.1177/00218863261478348

邦題(編集部訳): グリーンフィールドかM&Aか:女性取締役の選任が及ぼす影響と取締役会構成の調整効果

結論

女性取締役の選任が進んだ後、企業は海外に出る際、既存企業を買うM&Aよりも、自社でゼロから拠点をつくるグリーンフィールドを選びやすくなっていました。ただしこの傾向は取締役会の顔ぶれ次第で、女性が取締役会議長だと強まり、現任取締役の国際経験が豊富だと弱まります。誰を取締役会に迎えるかが、必要になる人材配置の形まで変えうるということです。

取締役会に新しく女性取締役が加わると、企業の海外進出の仕方そのものが変わるかもしれません。台湾の製造業企業を対象とした本研究では、女性取締役の選任が進んだ後、海外進出でM&Aよりもグリーンフィールドが選ばれやすくなる傾向が示されました。しかもその傾向は、取締役会議長が女性か、既存メンバーに国際経験があるかによって強弱が変わります。

この論文の要点

  • 女性取締役の選任が進んだ後、グリーンフィールド志向が強まる傾向
  • 取締役会議長が女性だと、その傾向はさらに強まる
  • 現任取締役の国際経験が豊富だと、逆にM&A寄りに戻る

研究の問い

企業が海外に出るとき、ゼロから拠点をつくるグリーンフィールドを選ぶのか、それとも既存企業を買うM&Aを選ぶのか。この進出形態の判断は、投じる資金も、必要になる人材のそろえ方も大きく変わる重い意思決定です。近年、取締役会に女性取締役を迎える動きが広がっていますが、新しく加わった人がもつリスクの取り方、物事の見方、蓄えてきた知識の違いが、企業の戦略の向きを変えるのではないかという議論があります。本研究は、女性取締役の選任が進出形態の選択と結びつくのか、そしてその結びつきが取締役会の顔ぶれによって強まったり弱まったりするのかを検証しました。

調べ方

対象は台湾の製造業企業です。抄録によれば2,009件の観測値を用いて、女性取締役の選任が進んだ後に、その企業が海外進出でグリーンフィールドとM&Aのどちらを選びやすくなるかを分析しています。あわせて、取締役会議長が女性であるかどうか、そして現任の取締役がもつ国際経験の豊富さが、この関係をどう変えるかという調整効果も検討しています。分析手法の詳細や対象期間については、抄録では明記されていません。

わかったこと

第一に、女性取締役の選任がより多く行われた後、企業は海外市場に入る際、M&Aではなくグリーンフィールドを選ぶ傾向が強まっていました。他社を買って一気に取り込むより、自社で一から立ち上げる進出形態が選ばれやすくなる、という関係です。

第二に、この傾向は取締役会議長が女性である場合により強く出ていました。著者らの説明では、女性の議長は新しく加わった女性取締役を支持し、その人たちが取締役会の議論のなかで存在感を持てるよう後押ししやすいためです。つまり、新任者の意見が実際に決定へ届くかどうかは、議長という役割の影響を受けます。

第三に、現任取締役の国際経験が豊富な取締役会では、逆にグリーンフィールドが選ばれる可能性は下がりました。海外での経験を積んだメンバーがいると、買収後の統合や実行をやり切れる見通しが立ちやすく、M&Aという選択肢が現実的なものとして扱われるためだと説明されています。

人事・研修担当への示唆

  • 取締役や幹部の登用計画を立てる際、顔ぶれの変化が事業戦略の選び方にも及ぶ前提で議論する
  • 新任メンバーの意見が実際に議論へ乗るよう、議長役に発言機会を配分する運営ルールを設ける
  • 海外拠点を自前で立ち上げる方針なら、現地採用と育成の人事リソースを早期に見積もる

読むときの注意点

対象は台湾の製造業企業に限られ、他の国や業種、非製造業にそのまま当てはまるとは限りません。また示されているのは選任と選択の関連であって、女性取締役が加わったから進出形態が変わったという因果関係が証明されたわけではありません。効果の大きさや対象期間も抄録では明記されていません。

キーワード解説

グリーンフィールド
グリーンフィールドとは、海外進出の際に既存企業を買わず、自社で新しく拠点や現地法人をゼロから立ち上げる方式のことです。
M&A
M&Aとは、他社を買収したり合併したりすることで、すでにある事業・設備・人材を自社に取り込む手法のことです。
進出形態
進出形態とは、企業が海外市場に入る際にどの入り方を選ぶかという選択のことで、自前設立か買収かなどの区別を指します。
女性取締役
女性取締役とは、企業の取締役会の構成員として選任された女性のことで、経営の重要方針を決める議決に加わる立場です。
取締役会議長
取締役会議長とは、取締役会の進行を担う役職のことで、議題の扱い方や発言の順序を通じて議論の方向に影響を与えます。
国際経験
国際経験とは、海外での勤務や事業運営などを通じて individual が蓄えた、異なる市場で仕事を進めるための知識と経験のことです。
調整効果
調整効果とは、ある要因と結果の関係の強さや向きが、第三の条件によって変わることを指す考え方のことです。

よくある質問

Q
女性取締役が増えると海外戦略は変わりますか?
A
本研究では、女性取締役の選任が進んだ後に、海外進出でM&Aよりグリーンフィールドが選ばれやすくなる傾向が示されました。ただし関連が確認されたということであり、因果関係が証明されたわけではありません。
Q
取締役会議長が女性だと何が違うのですか?
A
議長が女性である場合、グリーンフィールドが選ばれる傾向はより強く出ていました。著者らは、女性の議長が新任の女性取締役を支持し、取締役会の議論のなかで存在感を持てるよう後押ししやすいためだと説明しています。
Q
この結果を日本企業に当てはめてよいですか?
A
対象は台湾の製造業企業なので、そのまま一般化はできません。ただし「取締役会の顔ぶれが戦略の選び方に影響しうる」「新任者の発言が議論に届くかは運営次第」という点は、多くの組織で検討する価値があります。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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