HRアナリティクスは今のままでは期待に応えられない

HRアナリティクスは今のままでは期待に応えられない (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

HR and analytics: why HR is set to fail the big data challenge

David Angrave, Andy Charlwood, Ian Kirkpatrick, Mark Lawrence, Mark Stuart / Human Resource Management Journal (2016年) / DOI: 10.1111/1748-8583.12090 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): HRとアナリティクス:なぜHRはビッグデータの課題に応えられないのか

結論

この論文は、ビッグデータやHRアナリティクスがHRを戦略的機能に押し上げるという楽観論に異議を唱えます。今のやり方のままでは変革は起きず、むしろHRが経営の意思決定から遠ざかり、従業員の利益を損なう恐れさえあると論じます。人事担当にとっては、データ活用を「導入すれば効く道具」ではなく、手法と関わり方から鍛え直すべき課題として捉え直す必要があるという指摘です。

HRアナリティクスは、HRの未来を保証する「必須能力」として語られがちです。しかしこの論文は、その楽観論をそのまま受け入れることに異議を唱えます。HRという職能が可能性と落とし穴の両方を理解し、実務と戦略の両面でよりよい手法づくりに踏み込まない限り、現在のHRアナリティクスの実践が組織を変えることはないと論じています。

この論文の要点

  • HRアナリティクスの変革力をめぐる楽観論に、正面から異議を唱えた論考です
  • 現行の実践のままでは、組織を変える成果は生まれにくいと指摘します
  • 最悪の場合、HRの戦略的影響力の喪失と従業員の不利益を招きます

研究の問い

近年、ビッグデータやHRアナリティクスへの期待が急速に高まってきました。データを扱う力を身につければHRは戦略的な管理機能としての地位を確保でき、組織の業績も良い方向に変わる——そうした語り口が広く共有されています。しかし、その前提は本当に成り立つのでしょうか。この論文は、こうした楽観的な見立てをそのまま受け入れてよいのかという問題意識から出発します。期待だけが先行し、可能性と限界の見極めが置き去りにされているのではないか、という懸念が背景にあります。

調べ方

この論文は、大規模なデータ収集や統計分析を行った実証研究ではなく、HRアナリティクスをめぐる楽観的な議論を批判的に検討する論考です。この分野が持つ可能性と欠点の両面を取り上げ、HRという職能が現状のまま関わり続けた場合に何が起こりうるかを論じます。具体的な調査対象や分析手続きについては、抄録では明記されていません。

わかったこと

著者らの中心的な主張は、HRアナリティクスを「持っていれば安心な能力」とみなす見方が楽観的すぎるという点にあります。データを扱う体制を整えれば、それだけでHRが戦略的な位置を確保でき、組織の業績も改善するという筋書きは、そのまま受け取るべきではないとされます。

鍵になるのは、HRという職能の側の関わり方です。この分野の可能性と落とし穴の両方を理解したうえで、実務のレベルでも戦略のレベptルでも踏み込み、より優れた手法やアプローチを自ら育てていくこと。それがなければ、現在行われているHRアナリティクスの実践が変革をもたらすことはないだろう、と論じられます。

さらに著者らは、より厳しい可能性にも触れます。今の傾向が続けば、HRは取締役会レベルの戦略的な影響力から締め出されたまま固定されかねません。しかも、それは組織に大きな利益をもたらさないばかりか、従業員の利益を積極的に損なう結果につながる恐れがあるとされています。

人事・研修担当への示唆

  • 分析ツールの導入自体を目的にせず、何を意思決定に反映させるのかを先に定めましょう
  • 指標や手法の妥当性を自分たちで検証し、外部の売り文句を鵜呑みにしない体制をつくりましょう
  • 従業員の利益を損なわないか、データ活用の設計段階で必ず点検する手順を組み込みましょう

読むときの注意点

この論文は特定のデータを分析した実証研究ではなく、既存の楽観論に対する批判的な議論です。示されているのは検証済みの因果関係ではなく、著者らの論証に基づく見通しである点に注意が必要です。また、HRアナリティクスは変化の速い領域であり、論考が想定する状況と現在の実践には差がある可能性があります。

キーワード解説

HRアナリティクス
HRアナリティクスとは、人事に関わるデータを収集・分析し、採用や配置、育成などの意思決定に活かそうとする取り組みのことです。
ビッグデータ
ビッグデータとは、従来の方法では扱いきれないほど大量で多様なデータ群と、それを analyze する技術や考え方の総称のことです。
戦略的
戦略的とは、日々の業務処理にとどまらず、組織の長期的な方向性や競争力に関わる意思決定に結びつく性質のことです。
取締役会
取締役会とは、企業の重要な経営方針を決定する合議機関で、経営の最上位の意思決定の場のことです。
従業員の利益
従業員の利益とは、雇用の安定や公正な処遇、プライバシーの保護など、働く人の側が守られるべき権利や便益のことです。
職能
職能とは、組織の中で特定の専門領域を担う機能や部門のことで、人事部門もその一つに数えられます。
手法
手法とは、データの集め方や分析の進め方など、結論を導くまでの手続きの取り決めのことです。

よくある質問

Q
HRアナリティクスを導入すれば人事は戦略部門になれますか?
A
この論文は、そうした期待に慎重な立場をとります。ツールを導入するだけでは戦略的な位置は得られず、むしろ現状の傾向が続けば経営レベルの影響力から遠ざかる可能性があると論じています。
Q
なぜHRアナリティクスは失敗すると言われるのですか?
A
HRという職能がこの分野の可能性と落とし穴の両方を理解せず、手法やアプローチの改善に主体的に関わらないまま進めているためだと論じられています。関わり方が変わらなければ変革は起きない、という指摘です。
Q
データ活用は従業員にとって不利になりますか?
A
この論文は、現在の傾向が続いた場合に従業員の利益が損なわれる恐れがあると警告しています。データ活用を設計する段階で、働く人の側への影響を点検することが重要になります。

原論文のライセンス: cc-by-nc-nd。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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