
紹介する論文
Not just invited to the party, but also asked to dance: how inclusive work practices foster organizational commitment over time
邦題(編集部訳): パーティーに招かれるだけでなく、踊りにも誘われること——包摂的な職場実践はいかにして時間をかけて組織コミットメントを育むのか
結論
包摂的リーダーシップと機会向上型HR施策は、従業員が仕事に有意味感を抱くことを後押しし、それを経由して2年後の情緒的コミットメントの高さと結びついていました。ただし上司の包摂的な関わりが効いていたのは、プロアクティブ性が平均的か高い人でした。人事・研修担当にとっては、包摂の取り組みを『意味づけ』まで届ける設計が要点になります。
多様な人を『招く』だけでなく、実際に活躍の場へ誘うことは組織への愛着につながるのか。この研究は、上司の包摂的な振る舞いと成長機会を広げるHR施策が、まず仕事の有意味感を高め、そこを通じて2年後の情緒的コミットメントに結びつくことを示しました。さらに、上司の包摂的な関わりの効果は、自ら動くタイプの人ほど表れやすいことも分かりました。
この論文の要点
- 上司の包摂的な関わりと成長機会を広げるHR施策は、仕事の有意味感と正の関係にありました
- その有意味感を経由して、2年後の情緒的コミットメントの高さに結びついていました
- 包摂的リーダーシップの効果は、プロアクティブ性が低めの人では明確に確認されませんでした
研究の問い
多様な人材を迎え入れる取り組みは広がっていますが、採用して『その場にいる』状態をつくるだけでは、組織への愛着は生まれにくいのではないか——本研究はこの問題意識から出発します。土台にあるのは、人は集団に溶け込みたい欲求と、自分らしさを認められたい欲求の両方が満たされたときに居心地よく働けるとする最適弁別性理論です。著者らは、上司の包摂的リーダーシップと、学びや成長の機会を広げる機会向上型HR施策という二つの実践に注目し、それらがどのような道筋をたどって、また誰にとって、長期的な情緒的コミットメントを高めるのかを問いました。
調べ方
オランダで働く従業員251名を対象に、2年の間隔をあけた2時点の調査データを集めています。代表性を意識して集められたサンプルで、先に測定した包摂的リーダーシップ・機会向上型HR施策・プロアクティブ・パーソナリティと、時間をおいて測定した情緒的コミットメントとの関係を、パス解析という複数の変数のつながりを同時に検討する手法で分析しました。有意味感は両者をつなぐ媒介役として、プロアクティブ性は効果の強さを左右する調整役として位置づけられています。
わかったこと
まず、上司の包摂的リーダーシップと機会向上型HR施策のどちらも、仕事に対する有意味感と正の関係にありました。包摂は『居場所がある』という感覚にとどまらず、自分の仕事に意味を感じられる状態と結びついていたことになります。
次に、包摂的リーダーシップと有意味感の関係は、誰にでも同じように現れたわけではありませんでした。プロアクティブ性が平均的か高い人では明確に正の関係が見られた一方、プロアクティブ性が低めの人では統計的にはっきりした関係が確認されませんでした。なお、機会向上型HR施策の側で同じような個人差が生じたかどうかは、抄録では明記されていません。
そして、包摂的リーダーシップと機会向上型HR施策はいずれも、有意味感を経由して2年後の情緒的コミットメントに結びついていました。著者らはこの結果を、包摂の効果を誰にでも一律に及ぶものとみなしてきた従来の前提を問い直すものと位置づけています。
人事・研修担当への示唆
- 1on1では発言を促すだけでなく、その仕事が誰の役に立つかを言葉にして返し、有意味感を支えましょう
- 研修や異動の機会は一部に偏らせず、機会向上型HR施策として全員に開かれた形で設計しましょう
- 自ら動きにくい人には包摂的リーダーシップだけに頼らず、役割や機会を具体的に提示して後押ししましょう
読むときの注意点
2時点の調査データに基づく分析であり、原因と結果の向きを厳密に確かめた実験ではありません。相関を因果と読み替えないよう注意が必要です。対象はオランダで働く人たちで、他の国や職種でも同じ形になるかは分かりません。効果が確認された条件も限定的で、プロアクティブ性が低めの人への打ち手は別途考える必要があります。
キーワード解説
- 包摂的リーダーシップ
- 包摂的リーダーシップとは、上司が一人ひとりの違いを尊重し、意見や参加を歓迎する姿勢を示すことで、部下が安心して自分らしく貢献できる状態をつくる関わり方のことです。
- 機会向上型HR施策
- 機会向上型HR施策とは、能力を発揮する場を広げるための人事施策で、権限委譲や参加の機会、配置や情報共有の仕組みなどを整える取り組みのことです。
- 有意味感
- 有意味感とは、自分の仕事には価値があり、誰かの役に立っていると感じられる心理状態のことです。働く動機や継続意欲を支える感覚とされています。
- 情緒的コミットメント
- 情緒的コミットメントとは、その組織に愛着や一体感を覚え、進んで所属し続けたいと感じている心理的な結びつきのことです。
- プロアクティブ性
- プロアクティブ性とは、指示を待たずに自分から状況に働きかけ、環境を変えていこうとする行動傾向のことです。個人差のある比較的安定した特徴とされています。
- 最適弁別性理論
- 最適弁別性理論とは、人は集団に受け入れられたい欲求と、自分の独自性を認められたい欲求の両方が同時に満たされる状態を求めるとする考え方のことです。
- パス解析
- パス解析とは、複数の変数の間にある影響関係の道筋を図に表し、それらのつながりを同時に検討する統計手法のことです。
よくある質問
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Q包摂的な職場づくりは定着に役立ちますか?
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Aこの研究では、上司の包摂的な関わりや成長機会を広げるHR施策が、仕事の有意味感を経て2年後の情緒的コミットメントの高さと結びついていました。組織への愛着は定着の土台になるため、包摂の取り組みは長期的に意味を持つと考えられます。
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Q包摂の効果は全員に同じように出ますか?
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Aいいえ、少なくとも上司の包摂的リーダーシップについては違いが見られました。プロアクティブ性が平均的か高い人では有意味感との正の関係が確認された一方、プロアクティブ性が低めの人では明確な関係が確認されませんでした。
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Q現場の管理職はまず何をすればよいですか?
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Aこの研究の道筋に沿えば、参加を歓迎する姿勢を示すだけでなく、その仕事がどんな価値を生んでいるかを本人に伝え、有意味感につなげることが要点になります。自分から動きにくい部下には、機会を具体的に手渡す配慮も必要です。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


