女性の適応支援より、ジェンダー障壁を直接取り除く実践が効く

女性の適応支援より、ジェンダー障壁を直接取り除く実践が効く (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Surviving and changing the field: Navigating gendered contextual barriers of geosciences

Shruti Sardeshmukh, Sanjeewa Samanmali Perera, Caroline Tiddy / Human Relations (2026年) / DOI: 10.1177/00187267261477605

邦題(編集部訳): フィールドで生き延び、フィールドを変える——地球科学におけるジェンダー化された文脈的障壁を切り抜ける

結論

厳しい野外の現場で働く女性の地球科学者は、環境に自分を合わせる生き残り戦略で仕事を続けていました。ただし著者らは、その適応と、適応を後押しする組織慣行が、かえってジェンダー障壁を維持しやすいと述べています。障壁そのものに働きかける変革戦略と、それを直接扱う組織の実践のほうが有効でした。人事施策では、個人の頑張りを支える支援だけでは足りません。

人里離れた過酷な現場に出向く地球科学の仕事で、女性はどのように壁を越えているのでしょうか。この研究は、男女の地球科学者への67件の半構造化インタビューから、現場の物理的な条件と周囲との社会的な関係の両方に根ざしたジェンダー障壁と、女性が取る戦略を描き出しました。環境に自分を合わせる対応は障壁を温存しやすく、障壁そのものに働きかける対応と、それを直接扱う組織慣行のほうが効果的でした。

この論文の要点

  • ジェンダー障壁は、過酷な現場という物理的条件と、周囲との社会的関係の両方から生まれます
  • 女性が環境に合わせる生き残り戦略は、職場を切り抜ける一方で障壁を温存しがちでした
  • 障壁そのものに働きかける変革戦略と、それを直接扱う組織慣行のほうが有効でした

研究の問い

地球科学の仕事は、人が容易に立ち入れない遠隔地や起伏の激しい現場に足を運び、専門的な技術と体力の両方を求められます。こうした職場で女性が働き続けることには固有の難しさがあると言われてきました。ただし、その難しさが現場の物理的な条件から来るのか、周囲との社会的な関係から来るのか、そして女性がどう切り抜けているのかは、まとめて捉えられてきませんでした。著者らは社会構築主義の立場から、ジェンダー障壁が仕事の文脈の中でどう形づくられ、女性がそれにどう対処し、組織慣行がそれを強めたり和らげたりするのかを、ひとつながりで見ようとしました。

調べ方

著者らは、男女の地球科学者に対して67件の半構造化インタビュー(大枠の質問を用意しつつ、話の流れに応じて掘り下げる面接)を行い、その語りを分析しました。分析には文脈理論化の視点を用い、仕事が行われる場そのものの条件と、そこで働く人々の関係の両方から障壁を捉えています。女性だけでなく男性にも話を聞いている点が特徴です。調査が行われた国や所属組織の内訳は、抄録では明記されていません。

わかったこと

分析からは、ジェンダー障壁が単独で存在するのではなく、いくつかの要素が組み合わさった配置として立ち現れることが示されました。遠隔で過酷な現場という物理的な条件に根ざす障壁と、周囲の見方や関わり方という社会的な条件に根ざす障壁が、重なり合って女性の働きにくさを作り出しています。

女性はそれに対して複数の戦略を使い分けていました。ひとつは、現場の要求に自分を合わせて何とか続けていく生き残り戦略です。これは本人が職場を切り抜けるうえでは働きますが、著者らは、この適応と、適応を後押しする組織慣行が、結果としてジェンダー障壁をむしろ維持してしまいやすいと述べています。

もうひとつは、障壁の側を変えにいく変革戦略です。障壁に正面から取り組む組織慣行とあわせて、こちらのほうがより有効だったと報告されています。

人事・研修担当への示唆

  • 女性向けの適応支援研修だけを増やさず、勤務条件や現場運用そのものを見直す施策を並べて設計してください
  • 現場に出る仕事の障壁を、設備や装備などの物理面と、評価や声かけなどの社会面に分けて棚卸ししましょう
  • ヒアリングは女性だけでなく男性にも行い、障壁の見え方の違いを比べたうえで施策の優先順位を決めてください

読むときの注意点

対象は地球科学という特定の職業で、遠隔地での野外作業という条件が強く効いています。屋内中心の職場にそのまま当てはめる前に、自社の仕事の物理的な条件を確かめてください。またインタビューにもとづく質的な研究のため、どの戦略がどれだけ効くかを数値で比べたものではありません。調査対象の国や組織の詳細は、抄録では明記されていません。

キーワード解説

ジェンダー障壁
ジェンダー障壁とは、性別に結び付いた慣習や環境のために、特定の性の人が働きにくくなってしまう仕組みのことです。
社会構築主義
社会構築主義とは、性別や役割の意味があらかじめ決まっているのではなく、人々のやりとりの中で作られていくと考える立場のことです。
半構造化インタビュー
半構造化インタビューとは、聞く項目の大枠だけ決めておき、相手の話に応じて質問を足しながら進める面接調査のことです。
生き残り戦略
生き残り戦略とは、置かれた環境を変えるのではなく、自分の振る舞いを環境に合わせて働き続けようとする対処の仕方のことです。
変革戦略
変革戦略とは、働きにくさの原因である環境や慣習の側に働きかけて、条件そのものを変えようとする対処の仕方のことです。
組織慣行
組織慣行とは、制度や運用ルール、日々の進め方など、その組織で当たり前として繰り返されている仕事のやり方のことです。
地球科学
地球科学とは、岩石や地層、資源、地形などを対象に、地球のなりたちと現在の状態を調べる学問分野のことです。

よくある質問

Q
女性の適応を支援するのはよくないのですか?
A
支援そのものが悪いという話ではありません。この研究が指摘するのは、適応を後押しする施策だけに寄せると、働きにくさを生んでいる条件が手つかずのまま残りやすいという点です。適応を支える施策と、条件そのものを変える施策の両方を用意することが要点になります。
Q
地球科学以外の職場にも当てはまりますか?
A
この研究が扱ったのは、遠隔地での野外作業を伴う地球科学の仕事です。物理的な環境が働きにくさを作っている職場には考え方を移しやすい一方、条件が大きく違う職場にそのまま当てはめられるかどうかは、この研究からは言えません。
Q
変革戦略とは具体的に何をすることですか?
A
抄録では個々の手立てまでは書かれていませんが、共通するのは、女性が自分を変えるのではなく障壁の側に働きかけるという点です。組織の側でも、障壁を直接扱う慣行のほうが有効だったと報告されています。まずは現場の条件と慣行の棚卸しから始めるとよいでしょう。

原論文のライセンス: cc-by-nc。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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