
紹介する論文
Nothing but a “g” thing? Toward an integrative model of frame-of-reference rater training motivation and effectiveness
邦題(編集部訳): 結局は「g」の問題なのか——参照枠評価者訓練の動機づけと有効性に関する統合モデルに向けて
結論
評価者研修へのやる気は、学習目標志向性や内的統制感などの特性から自己効力感を介して高まっていましたが、研修後の知識や評価の正確さは予測しませんでした。一貫して成果と結びついたのは認知能力で、FOR訓練自体は複数の精度で有効性が確認されています。研修の成否を受講意欲で測らず、実際の評価課題での精度で確かめる設計が求められます。
評価者研修の成果を分けるのは、受講者のどんな特性でしょうか。学習目標志向性や内的統制感といった特性は一般的自己効力感を介して研修へのやる気と結びついていましたが、そのやる気は研修後の知識や評価の正確さを予測しませんでした。代わりに、頭を使う成果指標と最も安定して関連していたのは認知能力で、一方でFOR訓練そのものは評価の正確さを複数の面で改善していました。
この論文の要点
- 学習目標志向性・内的統制感・促進焦点・認知能力は、自己効力感を経て研修意欲につながった
- 研修へのやる気は、宣言的知識も評価の正確さも予測しなかった
- 認知能力は、相関的正確性など負荷の高い成果と最も一貫して関連した
研究の問い
人事評価の質を高める手段として、評価者研修は重要だと考えられてきました。なかでもFOR訓練(参照枠訓練)は、具体的な行動例を使って「何をもって高評価とするか」のものさしを評価者間でそろえる方法です。ところが、受け手である評価者自身の特性が、研修へのやる気や学習の成果にどう影響するのかは、これまであまり検討されてきませんでした。研修に前向きな人ほど正確に評価できるようになるのか、それとも別の要因が効いているのか。この論文は訓練動機づけの理論をもとに、個人差・やる気・研修成果をひとつのモデルにつないで検証しています。
調べ方
訓練動機づけの理論を土台に、2つの研究でモデルを組み立て検証しています。研究1では、学習目標志向性(学ぶこと自体に価値を置く傾向)、内的統制感(結果は自分次第と捉える傾向)、促進焦点(獲得や成長に目が向く構え)、一般的自己効力感と研修へのやる気の関係を検討しました。研究2ではこれを広げ、これらの個人差と、宣言的知識・相関的正確性・Cronbachの評価精度指標というFOR訓練の複数の成果との関係を調べています。加えて、同じ教材と評価課題を使い、訓練を受けていない対照群との比較も行われました。
わかったこと
やる気の側では、学習目標志向性、内的統制感、促進焦点、そして認知能力が、いずれも一般的自己効力感を経由して研修へのやる気につながっていました。「自分はやれる」という感覚が、性格傾向とやる気をつなぐ中継点になっていた形です。
ところが、その研修へのやる気は研修後の成果を予測しませんでした。研修内容を言葉で説明できる知識(宣言的知識)でも、評価対象者間の差のつけ方の正確さ(相関的正確性)でも、Cronbachの評価精度指標でも同様です。一貫した関係を示したのは認知能力で、特に相関的正確性とステレオタイプ精度(評価項目ごとの全体的な高低のつかみ方)という頭を使う成果で顕著でした。
一方で、訓練そのものの効果は支持されています。補足分析では、未受講の対照群と比べて複数の精度の面でFOR訓練の有効性が確認されました。著者らは、受講者の気質は研修へのやる気を理解するうえでは意味を持つものの、認知的負荷の高い成果の説明には認知能力のほうが重要かもしれない、と述べています。
人事・研修担当への示唆
- 評価者研修の効果測定を受講後アンケートの意欲や満足度で終えず、実際の評価課題での精度で確認する
- FOR訓練は未受講群より精度が高かったため、基準を具体例でそろえる研修は続ける価値があります
- 動機づけ施策は受講姿勢には効いても精度に直結しない前提で、練習量と個別フォローを設計に入れる
読むときの注意点
多くは変数間の関係を見た分析であり、性格傾向ややる気が成果を生む「原因」だと確定したわけではありません。対象者の人数や属性、効果の大きさは抄録では明記されていないため、自社の評価者に同じ結果が当てはまるかは別に確認が必要です。測定されたのは研修教材と評価課題上の精度で、実際の人事評価そのものではない点にも留意してください。
キーワード解説
- FOR訓練
- FOR訓練とは、具体的な行動例を使って何を高評価とするかの基準を評価者の間でそろえる評価者研修の手法のことです。
- 訓練動機づけ
- 訓練動機づけとは、研修に参加し学ぼうとする受講者の意欲やその形成過程を扱う、研修設計の考え方のことです。
- 学習目標志向性
- 学習目標志向性とは、成果を示すことよりも学ぶこと自体に価値を置き、能力は伸ばせると捉える傾向のことです。
- 一般的自己効力感
- 一般的自己効力感とは、場面を限定せず「自分はたいていのことをやれる」と感じる、全般的な自信のことです。
- 宣言的知識
- 宣言的知識とは、研修で学んだ内容を言葉で説明できる形で持っている、事実や概念についての知識のことです。
- 相関的正確性
- 相関的正確性とは、評価対象者どうしの優劣や差のつけ方が、基準となる評価とどれだけ一致しているかを示す指標のことです。
- 認知能力
- 認知能力とは、情報を理解し、筋道を立てて考えて問題を解く力を指す、一般的な知的能力のことです。
よくある質問
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Q評価者研修は意欲が高い人ほど効果が出ますか?
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Aこの研究では、研修へのやる気は宣言的知識も評価の正確さも予測しませんでした。意欲は受講姿勢に関わる一方で、学習成果の高さを保証するものではないと考えられます。効果は意欲ではなく、評価課題での精度で確かめる必要があります。
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QFOR訓練に効果はあるのですか?
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A補足分析では、同じ教材と課題を使った未受講の対照群と比べ、複数の精度の面でFOR訓練の有効性が支持されました。基準を具体例でそろえる研修そのものには意味があるため、続ける価値のある取り組みだといえます。
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Q研修へのやる気は何によって高まりますか?
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A学習目標志向性、内的統制感、促進焦点、認知能力が、いずれも一般的自己効力感を経由して研修へのやる気につながっていました。「自分はやれる」という感覚が中継点になるため、事前に手応えを持たせる工夫が有効だと考えられます。
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Q評価者研修の受講者はどう選べばよいですか?
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A認知能力が、相関的正確性など頭を使う成果と最も一貫して関連していました。ただし選抜の基準にすべきという結果ではなく、負荷の高い課題ほど練習量や個別フォローが要ると読むほうが実務的です。自社での再現は別途確認してください。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


