キャリアショックが行動を促すのは会社派遣の駐在員

キャリアショックが行動を促すのは会社派遣の駐在員 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Career shocks and the sustainability of global careers: a mixed-methods study of assigned and self-initiated expatriates

Renata Casado, Aleksandra Luksyte, Donella Caspersz / The International Journal of Human Resource Management (2026年) / DOI: 10.1080/09585192.2026.2723321 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): キャリアショックとグローバルキャリアの持続可能性:社内派遣型駐在員と自己都合型駐在員に関する混合研究法による検討

結論

キャリアの予期せぬ出来事であるキャリアショックは、個人だけでなく組織や制度のレベルでも起こり、海外で働く人のキャリアを切り開く行動に結びついていました。ただしその結びつきは、自ら海外へ移った人よりも、会社の辞令で赴任した人のほうが強く見られました。人事としては、支援の厚みが本人の主体性の出方まで左右しうる、と読むことができます。

海外赴任にはトラブルや転機がつきものです。本研究は、そうした予期せぬ出来事が国際的なキャリアの持続性にどう関わるかを、質的調査と量的調査を組み合わせて検討しました。その結果、ショックを感じたときにキャリアを切り開く行動が強まる関係は、会社から派遣された駐在員でより強く見られました。主体性は本人の資質だけでなく、周囲の支援の在り方に条件づけられている可能性が示されています。

この論文の要点

  • キャリアショックは個人・組織・制度の三つのレベルで捉えられます
  • ショック後の主体的な行動は、会社派遣の駐在員でより強く現れました
  • 組織の構造的な支援が、主体性の発揮の仕方を左右する可能性があります

研究の問い

海外で働く人材は増えていますが、赴任の経緯は一様ではありません。会社の辞令で赴任する社内派遣型駐在員と、自らキャリア機会を求めて海外へ移る自己都合型駐在員では、置かれている立場も使える支援も異なります。一方でキャリアには、想定していなかった出来事、いわゆるキャリアショックがつきものです。これまでの議論は本人の性格や意欲といった個人の要因に寄りがちで、職場の体制や国の制度まで含めて多層的に捉える視点は十分ではありませんでした。そこで本研究は、出来事の影響を強さ・新しさ・持続性から捉えるイベントシステム理論を手がかりに、キャリアショックがプロアクティブ行動を通じてキャリア持続性にどう関わるのかを問いました。

調べ方

混合研究法を用いた二つの調査で構成されています。調査1は縦断的な質的研究で、オーストラリアに滞在する26名の駐在員を4年間追跡し、計52回のインタビューを行いました。ここからキャリアショックを個人・組織・制度の三つのレベルで概念的に整理しています。調査2は時間差をおいた質問紙調査で、3回の回答をすべて完了した157名の駐在員のデータを用い、質的段階で得られた見立てが量的にも支持されるかを検証しました。

わかったこと

まず質的な段階では、キャリアショックは本人の身に起きる出来事だけではないことが示されました。家族の事情のような個人レベル、赴任先の体制や支援の変化といった組織レベル、そしてビザや労働市場のような制度レベルという三つの層で捉えられ、それぞれが本人の行動を動かす起点になりうると整理されています。

続く量的な検証では、キャリアショックを強く感じているほどプロアクティブ行動が高まるという関係が確認され、その関係は自己都合型駐在員よりも社内派遣型駐在員のほうで強く現れました。著者らはこの違いについて、組織側の構造的な支援があることで、揺さぶられたときに主体性を発揮しやすくなるのではないか、と解釈しています。

つまり主体的にキャリアを切り開く行動は、誰にでも同じように現れるものではなく、置かれた条件によって出方が変わる、条件つきのものだということです。この多層的な見方と条件つきという視点が、国際キャリアのキャリア持続性を考えるうえでの本研究の中心的な貢献です。

人事・研修担当への示唆

  • 赴任者の面談では、家族・職場・制度のどのレベルで揺れが起きたかを分けて聞き取りましょう
  • 自己都合で赴任した人材にも、社内派遣者と同等の相談窓口や情報提供を用意しましょう
  • 予期せぬ出来事の直後を支援の起点とし、本人のキャリア計画を一緒に見直す機会を設けましょう

読むときの注意点

調査は特定の国に滞在する駐在員を対象としており、業種や地域が変われば同じ結果になるとは限りません。また量的調査は時間差をおいた質問紙によるもので、示されたのは関係の強さです。予期せぬ出来事が主体的な行動を引き起こした、と因果を断定できるわけではありません。派遣形態による違いの理由も、著者らが可能性として述べている解釈にとどまります。

キーワード解説

キャリアショック
キャリアショックとは、本人が予想していなかった出来事によって、働き方や進路を考え直さざるをえなくなる状況のことです。
社内派遣型駐在員
社内派遣型駐在員とは、所属する組織の判断や辞令にもとづいて海外の拠点へ赴任し、働いている人のことです。
自己都合型駐在員
自己都合型駐在員とは、組織の辞令によらず、自らキャリアの機会を求めて海外へ移り、現地で働いている人のことです。
プロアクティブ行動
プロアクティブ行動とは、指示を待たずに自分から状況に働きかけ、先を見越して手を打とうとする行動のことです。
キャリア持続性
キャリア持続性とは、健康や意味づけを損なわずに、長い年月にわたって働き続けられるキャリアの在り方のことです。
イベントシステム理論
イベントシステム理論とは、出来事がいつ、どの階層で、どれだけ強く起きたかに注目して影響を説明する考え方のことです。
混合研究法
混合研究法とは、インタビューなどの質的調査と、質問紙などの量的調査を組み合わせて一つの問いに迫る方法のことです。

よくある質問

Q
キャリアショックとは何ですか?
A
キャリアに影響する、予期していなかった出来事のことです。本研究では、家族の事情のような個人レベル、職場の体制変化のような組織レベル、制度の変化のような制度レベルの三つに整理されました。望ましい出来事も望ましくない出来事も含まれます。
Q
会社派遣と自己都合の駐在員は何が違いますか?
A
赴任の経緯が異なります。前者は組織の判断で赴任し、後者は自らキャリア機会を求めて海外へ移ります。本研究では、予期せぬ出来事を感じたときに主体的な行動が強まる関係が、会社から派遣された人のほうで強く見られました。
Q
主体性を高めるには支援を厚くすべきですか?
A
本研究は、組織の構造的な支援がある人ほど、揺さぶられたときに行動を起こしやすい可能性を示しています。ただし支援が主体性を生むと因果を証明したわけではありません。まずは支援の有無で行動に差が出ていないかを確かめるところから始めるのが現実的です。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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