セルフモニタリングは業績そのものより上司の評価を動かす

セルフモニタリングは業績そのものより上司の評価を動かす (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Self‐monitoring and job performance: Substance or style? A meta‐analysis

Klaus Moser, Katharina Ebner, Dragoş Iliescu, Alexandru-Andrei Sîrbu / Journal of Occupational and Organizational Psychology (2026年) / DOI: 10.1111/joop.70139

邦題(編集部訳): セルフモニタリングと職務業績——実質か、それとも見せ方か? メタ分析

結論

セルフモニタリング傾向と職務業績の関連は全体としては小さく、しかもその関連は上司による評価でのみ見られ、成果指標では確認されませんでした。関連が出たのは文脈的業績の評価に限られます。人事評価の場面では、周囲に合わせる振る舞いの巧みさが、成果ではなく評価そのものを押し上げている可能性を疑う必要があります。

場面に応じて自分の振る舞いを調整する「セルフモニタリング」は、長く仕事ができる人の条件だと考えられてきました。しかし複数の研究をまとめたメタ分析の結果、職務業績との関連は全体としてわずかで、上司が付けた評価では関連が見られる一方、成果に基づく指標では見られませんでした。著者らは、これは能力の高さというより、評価する側の印象形成に働きかけた結果ではないかと述べています。

この論文の要点

  • セルフモニタリングと職務業績の全体的な関連は控えめでした(r = .12)
  • 関連が見られたのは上司による評価のときだけで、成果指標では見られませんでした
  • 関連は文脈的業績の評価に現れ、課題業績の評価には現れませんでした

研究の問い

セルフモニタリングとは、社会的なやりとりの中で相手や状況に合わせて自分の振る舞いを調整しようとする傾向のことです。研究者の間では、この傾向が高い人ほど職務業績が高いと長く信じられてきました。しかし、その関連がどれくらい強いのか、そしてどういう性質のものなのかは、はっきりしないままでした。有力な解釈は二つあります。一つは、場に合わせる力が実際の有能さにつながっているという見方。もう一つは、評価する側の印象形成に働きかけているだけで、実際の成果とは別物だという、偏った評価者としての見方です。本研究は、このどちらの見方が支持されるのかを確かめようとしました。

調べ方

著者らは、セルフモニタリングと職務業績の相関を報告した既存研究を集め、メタ分析(複数の研究の結果を統計的に統合する手法)を行いました。条件に合ったのは35のサンプルです。まず全体の関連の大きさを推定し、そのうえで調整要因の分析として、業績を「誰が測ったか」(上司による評価か、成果に基づく指標か)、また「どの側面を測ったか」(課題業績か、文脈的業績か)によって関連が変わるかどうかを比較しています。

わかったこと

全体として、セルフモニタリングと職務業績の関連は控えめな大きさ(r = .12)にとどまりました。強い予測因子と呼べる水準ではありません。

より重要なのは、その関連がどこで生じているかです。関連が確認されたのは上司による業績評価であり、成果に基づく指標では確認されませんでした。さらに評価の中身で分けると、周囲を助けたり場を円滑にしたりといった働きぶりを指す文脈的業績の評価では関連が見られた一方、仕事そのものの遂行を指す課題業績の評価では見られませんでした。

これらのパターンは、セルフモニタリング傾向の高い人が実際の成果を多く生んでいるというより、評価者の印象形成に働きかけているという解釈と整合します。ただし著者ら自身、調整要因による効果の大きさは控えめで、研究間の説明しきれないばらつきもかなり残っていると断っています。

人事・研修担当への示唆

  • 人事評価では上司評価だけに頼らず、成果に基づく指標も並べて確認する運用にしましょう
  • 評価シートで課題業績と文脈的業績を分けて記入させ、何を見て付けたかを言語化してもらいましょう
  • 面接や評価者研修で「場に合わせる巧みさ」を能力の証拠と即断しないよう注意喚起しましょう

読むときの注意点

メタ分析は集められた既存研究の中身に依存するため、その偏りの影響を受けます。著者ら自身、調整要因の効果は控えめで、説明しきれないばらつきが残ると述べています。また、上司評価とだけ関連が出たことは評価の歪みを示唆する材料であって、歪みそのものを直接測ったわけではありません。相関に基づく分析であり、因果関係を示すものではない点にも注意が必要です。

キーワード解説

セルフモニタリング
セルフモニタリングとは、その場の相手や状況を読み取り、期待に合うように自分の振る舞いを調整しようとする個人の傾向のことです。
職務業績
職務業績とは、その仕事で期待される役割をどれだけ果たしているかを、評価や成果指標などで捉えたもののことです。
課題業績
課題業績とは、担当する仕事そのものの遂行、つまり職務記述書に書かれた中核的な業務をどれだけ果たしたかを指す業績の側面のことです。
文脈的業績
文脈的業績とは、同僚を助ける、職場の雰囲気を良くするなど、職務の枠外で組織の働きを支える行動の側面のことです。
上司評価
上司評価とは、部下の働きぶりを上司が観察と判断に基づいて点数や段階で表す評価方法のことです。
印象形成
印象形成とは、限られた手がかりから相手がどういう人かという判断をつくり上げる、人の認知的な働きのことです。
調整要因
調整要因とは、二つの事柄の関連の強さや向きを変化させる第三の条件のことです。
メタ分析
メタ分析とは、同じテーマを扱った複数の研究結果を統計的に統合し、全体としての傾向を推定する研究手法のことです。

よくある質問

Q
セルフモニタリングが高い人は仕事ができる?
A
この研究の範囲では、そう言い切れません。職務業績との全体的な関連は控えめで、しかも関連が確認されたのは上司による評価に限られ、成果に基づく指標では確認されませんでした。「できる人に見える」ことと「実際に成果を出している」ことは分けて考える必要があります。
Q
なぜ上司評価だけで関連が出たのですか?
A
著者らは、セルフモニタリング傾向の高い人が評価者の印象形成に働きかけている可能性を挙げています。上司評価は人の判断を介するため影響を受けやすい一方、成果に基づく指標はその余地が小さい、という説明です。ただし歪みそのものを直接測った研究ではありません。
Q
採用でセルフモニタリングを測るべきですか?
A
この結果を踏まえると、実際の職務業績を予測する目的で使うことは勧めにくいと言えます。面接という場は場面適応の得意な人に有利に働きやすいため、むしろ評価の歪みを生む要因として意識し、成果に近い情報で補う設計が現実的です。

原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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