変化への抵抗は、人の脳・組織・因果の三層に埋め込まれている

変化への抵抗は、人の脳・組織・因果の三層に埋め込まれている (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Why Organizations Resist Change: A Multilevel Model of Human, Systemic, and Causal Constraints

Lorne M. Hartman / Organizational Psychology Review (2026年) / DOI: 10.1177/20413866261476623

邦題(編集部訳): 組織はなぜ変化に抵抗するのか:人間・システム・因果の制約に関する多層モデル

結論

変化への抵抗は、個人のわがままや理解不足ではなく、脳の働き方、組織が安定を保とうとする仕組み、そして原因と結果が見えにくい複雑さという三つの層に根ざしている、と整理した理論研究です。人事・研修担当にとっては、抵抗を取り除く対象ではなく、制約として設計に織り込む前提と捉え直すことを促す内容です。

組織変革がうまくいかない理由を、著者は「人が抵抗するから」では説明が浅いと考えます。この論文は、認知神経科学・システム理論・複雑性科学を手がかりに、抵抗が人・組織・因果という三つの層に埋め込まれた制約の表れだと論じます。そして、制約に逆らうのではなく沿うように施策を設計することを提案しています。

この論文の要点

  • 抵抗の説明を「症状」から「源」へと掘り下げる理論的枠組みです
  • 人・組織・因果の三層で変革の難しさを整理しています
  • 制約に逆らわず沿う介入設計を、著者は提案しています

研究の問い

組織変革の失敗は長らく「人の抵抗」で説明されてきました。自己利益を守りたい、内容を誤解している、不確実さに耐えられない、といった理由づけです。しかし著者は、こうした説明は抵抗の症状を描いているだけで、その源には届いていないと指摘します。抵抗が心理や文化の問題にとどまらないとすれば、変革はなぜこれほど実行しにくく、続きにくいのか。この問いに答えるため、著者は個人の認知、組織というシステム、そして因果関係そのものの構造にまでさかのぼる説明の枠組みを求めました。

調べ方

現場のデータを集めた調査ではなく、既存の知見を統合して枠組みを組み立てる理論研究です。著者は認知神経科学システム理論複雑性科学という三つの領域の知見を手がかりに、変革が難しい理由を人のレベル、組織のレベル、因果のレベルという多層のモデルとして提示しています。具体的な対象者や事例の規模については、抄録では明記されていません。

わかったこと

人のレベルでは、損失回避、つまり得るものより失うものを重く感じる傾向や、繰り返し使われた神経のつながりが強くなる性質が働きます。その結果、個人は慣れた手順のほうへ引き寄せられます。

組織のレベルでは、ホメオスタシス(内部の状態を一定に保とうとする働き)や自由エネルギー最小化といったシステムの原理が挙げられます。集団としての仕組みは、予測できることと安定していることを守る方向に動くと説明されます。

因果のレベルでは、複雑なシステムの非線形な動きによって、何が何を引き起こしたのかが見えにくくなります。そのため、どこに手を打てば効くのかが不確かになります。

著者は、これら三つが重なって抵抗の深い構造をつくり、経営努力や戦略的な意図があっても残り続けると論じます。結論として、有効な変革にはこれらの内在的な制約に沿った介入設計が要る、と述べています。

人事・研修担当への示唆

  • 変革案は、担当者が失うもの(裁量・慣れた手順・自信)を先に洗い出して設計しましょう
  • 研修では新しい行動を繰り返し実践させ、慣れた手順を置き換える機会を用意しましょう
  • 組織が安定を守る力を前提に、大改革より小さく試して観察する進め方を選びましょう

読むときの注意点

実データで検証した研究ではなく、既存理論を統合して枠組みを提示した理論研究です。三つの層が抵抗を生むという説明は仮説の提示であり、どの層がどれだけ効くかを測ったものではありません。提案されている介入の考え方も、効果が検証された手法として示されているわけではない点に注意してください。

キーワード解説

損失回避
損失回避とは、同じ大きさでも得られるものより失うもののほうを重く感じ、現状を守る選択に傾きやすい心の働きのことです。
ホメオスタシス
ホメオスタシスとは、内部の状態を一定の範囲に保とうとする働きのことで、組織が安定を守る性質のたとえにも使われます。
非線形
非線形とは、原因の大きさと結果の大きさが比例せず、小さな働きかけが大きな変化を生んだりその逆が起きたりする性質のことです。
複雑性科学
複雑性科学とは、多くの要素が影響し合って全体の振る舞いが生まれる仕組みを扱う研究分野のことです。
システム理論
システム理論とは、対象を部品の集まりではなく相互に作用する全体として捉え、その振る舞いを説明しようとする考え方のことです。
認知神経科学
認知神経科学とは、記憶や判断といった心の働きを脳の仕組みと結びつけて理解しようとする研究分野のことです。
組織変革
組織変革とは、組織の構造や仕事の進め方、行動のあり方を意図的に変えていく取り組み全体のことです。

よくある質問

Q
なぜ社員は変化に抵抗するのですか?
A
この論文は、わがままや理解不足だけでは説明が浅いと考えます。慣れた手順に引き寄せる脳の働き、安定を守ろうとする組織の仕組み、原因と結果が見えにくい複雑さという三つの層が重なって抵抗が生まれる、と論じています。
Q
抵抗をなくすことはできますか?
A
著者の立場では、抵抗は取り除く対象というより変革に内在する制約です。そのため、制約に逆らって押し切るのではなく、制約に沿うかたちで施策を設計することが有効だと提案されています。
Q
この論文は実際のデータに基づく研究ですか?
A
いいえ、複数の学問領域の知見を統合して枠組みを組み立てた理論研究です。調査対象や検証結果は示されておらず、提示された多層モデルは今後の検証に開かれた仮説として読むのが適切です。

原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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