言語による締め出しが組織への所有感を弱め、破壊的な発言を招く

言語による締め出しが組織への所有感を弱め、破壊的な発言を招く (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

When Language Excludes: Linguistic Ostracism, Psychological Ownership, and Destructive Voice Behavior

Ghulam Murtaza, Rahman Khan, Yasin Rofcanın, Muhammad Zeshan / Human Resource Management Journal (2026年) / DOI: 10.1111/1748-8583.70067

邦題(編集部訳): 言語が排除するとき:言語的排斥、心理的所有感、そして破壊的発言行動

結論

会話が別の言語で進み自分だけ置き去りにされる状態が続くと、従業員は「この組織は自分のものだ」という感覚を失い、組織へ仕返しをするような発言が増えることが示されました。ただし、現場に権限と情報を渡す高関与型施策があると、この結びつきは弱まります。人事にとっては、言語の壁を個人の語学力の問題ではなく、職場設計の問題として扱う根拠になります。

多言語で働く職場が増える一方、言語を理由に会話から外されることが従業員に何をもたらすかは、あまり調べられてきませんでした。本研究は、こうした言語による排除が組織に対する所有の感覚を弱め、その結果として組織への仕返しの色を帯びた否定的な発言を増やすことを、実験と現場調査の両方で確かめています。さらに、従業員を意思決定に巻き込む働きかけが、その悪影響を和らげることも示されました。

この論文の要点

  • 言語を理由に会話から外される経験は、組織への破壊的な発言行動を増やします
  • 効いているのは「組織は自分のものだ」という心理的所有感の低下です
  • 従業員を巻き込む高関与型施策があると、この悪影響は小さくなります

研究の問い

職場の多言語化が進み、同じチームの中で母語の異なるメンバーが一緒に働く場面が当たり前になっています。ところが、言語を理由に会話や情報のやりとりから外されること、つまり言語的排斥が働く人の行動に何をもたらすのかは、これまで十分に調べられてきませんでした。あからさまな無視と違い、言語的排斥は「悪気はない」「たまたま楽な言葉で話しただけ」として見過ごされやすく、職場排斥の中でも特に見えにくい形をとります。著者らは社会的交換理論を手がかりに、組織から受け取る扱いが悪くなったとき、人は組織との結びつきをどう見直し、どんな行動で応じるのかを問いました。

調べ方

研究は2つに分かれています。1つ目は、301人の従業員に架空の職場場面を読ませ、言語的排斥のある状況とない状況で反応がどう変わるかを比べたビネット実験です。2つ目は、241組の従業員と上司のペアを対象に、3つの時点に分けて、しかも本人と上司の双方から回答を集めた職場調査です。時期をずらし回答者を分けることで、同じ人が同じタイミングで答えたことによる見かけ上の相関を抑えています。ここで心理的所有感媒介効果と、高関与型施策による緩衝が検討されました。

わかったこと

ビネット実験では、言語的排斥にさらされた条件のほうが、破壊的発言行動が強く出ました。ここでいう破壊的発言行動とは、改善のための提案ではなく、組織に向けた仕返しの色を帯びた否定的な物言いのことです。言語で外されること自体が、この種の反応を引き出すことが確かめられました。

現場調査では、その間をつなぐ道筋が示されました。言語的排斥を受けている人ほど、組織に対する心理的所有感、つまり「ここは自分の場所だ」という持ち主意識やつながり、責任の感覚が薄くなり、それを経由して破壊的発言行動が増えていました。心理的所有感の媒介効果が確認されたということです。

同時に、歯止めも見つかっています。意思決定に関われている、大事にされていると感じられる高関与型施策があると認識している人では、言語的排斥が心理的所有感を削る力が弱まり、結果として破壊的発言行動への間接的な影響も小さくなっていました。

人事・研修担当への示唆

  • 会議やチャットで一部だけが分かる言語に切り替わっていないか点検し、要約を全員へ共有する運用を決めましょう
  • 語学研修だけに頼らず、意思決定への参加や情報開示といった高関与型施策を整えることが緩衝材になります
  • 否定的な発言が増えたら本人の資質を疑う前に、その人が会話の輪から外れていないかを先に確認してください

読むときの注意点

1つ目の研究は架空の場面への反応を見た実験で、実際の職場での長期的な行動とは異なる可能性があります。2つ目の研究も時点と回答者を分けているとはいえ、関係の向きを完全に断定できるものではありません。対象となった職場の国や業種は抄録では明記されていないため、自社にそのまま当てはめる際は慎重に読む必要があります。

キーワード解説

言語的排斥
言語的排斥とは、職場で自分の分からない言語が使われることによって、会話や情報のやりとりから実質的に締め出される状態のことです。
心理的所有感
心理的所有感とは、法律上の所有とは別に、その対象を「自分のものだ」と感じる心の状態のことです。組織に向く場合は愛着や責任感として表れます。
破壊的発言行動
破壊的発言行動とは、職場をよくするための提案ではなく、不満や仕返しの気持ちから組織を否定的に語る発言のことです。
社会的交換理論
社会的交換理論とは、人は受けた扱いに見合うものを相手に返そうとするという考え方で、職場の人間関係を説明する枠組みのことです。
高関与型施策
高関与型施策とは、情報共有や意思決定への参加、能力開発などを通じて、従業員を組織の運営に深く巻き込む人事施策のことです。
職場排斥
職場排斥とは、無視されたり輪に入れてもらえなかったりして、職場で自分の存在が軽んじられていると感じる経験のことです。
媒介効果
媒介効果とは、ある原因が結果に影響する際に、その間に入って影響を伝えている要因の働きのことです。

よくある質問

Q
言語的排斥とは何ですか?
A
職場で自分の分からない言語が使われ、会話や情報から外されてしまう状態を指します。あからさまな無視と違い、悪気なく起きるため気づかれにくいのが特徴です。この研究では、これが組織への所有の感覚を弱める要因として扱われています。
Q
多言語の職場で何に気をつければいいですか?
A
一部の人だけが分かる言語で話が進む場面を減らし、決まったことを全員が分かる形で共有することです。あわせて、意思決定への参加や情報開示といった働きかけを整えると、言語による排除の悪影響が和らぐことが示されています。
Q
不満ばかり言う社員は本人の問題ですか?
A
この研究は、組織に向けた否定的な発言が、言語を理由に会話から外された経験と結びつくことを示しています。本人の性格だけで説明せず、その人が情報や会話の輪に入れているかを先に確認することが有効です。

原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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