
紹介する論文
Migrant women in the Irish services sector: an intersectional analysis of gendered and racialised experiences
邦題(編集部訳): アイルランドのサービス業で働く移民女性——ジェンダー化・人種化された経験の交差的分析
結論
アイルランドのサービス業で働く移民の有色女性たちは、仕事と自分らしさ、居場所の感覚のあいだで日々調整を重ね、常に見られ判断される感覚のなかで働いていました。雇用主側は制度や方針、社会的・文化的な統合を包摂の制約として語ります。人事担当にとっては、性別だけ、国籍だけを切り分けた単独施策では届かない領域があることを示す研究です。
アイルランドのサービス業で働く移民の有色女性たちは、仕事と自分らしさ、居場所の感覚を日々調整しながら働いていました。同時に、常に見られ判断される感覚と、型にはまった決めつけにさらされています。雇用主側は制度や方針、社会的・文化的な統合を包摂の制約として挙げており、個人が必要とするものと組織の現実のあいだに緊張があることが示されました。
この論文の要点
- 女性たちは仕事・自分らしさ・居場所のあいだで、日常的な調整を続けていました
- 常に見られ判断される感覚と、ステレオタイプによる決めつけが語られました
- 雇用主側は制度や方針、社会的・文化的な統合を包摂の制約として挙げました
研究の問い
労働市場は変動が激しく、先を見通しにくい状態が続いています。こうしたVUCAと呼ばれる環境のもとで、アイルランドのサービス業で働く移民の有色女性たちがどのような経験をしているのかは、社会にとって重要な課題です。性別による労働市場の不平等はこれまで多くの研究が扱ってきました。しかし人種や民族、宗教、出身地域といった要素が重なり合って生じる影響は、十分に検討されてきませんでした。とりわけ雇用が不安定になりやすい状況や社会の変化のただ中では、この空白は見過ごせません。本研究はその隙間を埋めようとしたものです。
調べ方
対象は、アイルランドのサービス業で働く移民の有色女性たちです。研究チームは半構造化インタビュー、つまり大枠の質問を用意したうえで話の流れに応じて掘り下げる形式の聞き取りを行いました。あわせて雇用主側の視点も集めています。働く本人の語りと雇う側の語りを並べて読むことで、個人が必要とするものと組織の現実とのずれを浮かび上がらせる設計です。分析にはCrenshawの交差性理論が用いられました。
わかったこと
女性たちの語りからは、大きく二つのテーマが見えてきました。一つは、仕事と自分らしさ、そして居場所の感覚をどう折り合わせるかという、日常的な調整の連続です。もう一つは、常に見られている感覚、つまり職場で判断され、ステレオタイプを向けられる経験でした。
雇用主側からは、制度や方針、そして社会的・文化的な統合が、包摂を進めるうえでの制約として語られました。前に進めたい姿勢があっても、既存の仕組みや職場の慣習がそれを押しとどめるという構図です。
著者らは交差性の視点から、こうした不平等が組織内部の力学と社会の側の変化の双方によって、いわば共同で作り出されていくと論じます。個人の努力不足でも、単一の差別要因でもなく、複数の要素の重なりのなかで生じるという指摘です。帰属感を持てるかどうかが、その分かれ目に位置づけられています。
人事・研修担当への示唆
- 性別・国籍・宗教を別々の施策で扱わず、重なりで生じる課題として研修や面談の設計を見直しましょう
- 配属や評価の場面でステレオタイプに基づく決めつけが働いていないか、管理職と点検する機会を作りましょう
- 制度を整えるだけで終わらせず、日々の会話や職場文化で帰属感が育っているかを当事者の声で確かめましょう
読むときの注意点
本研究は、限られた人数への聞き取りにもとづく質的な研究です。語りの厚みが得られる一方で、同じ傾向がどの職場にも当てはまるとは言えません。対象はアイルランドのサービス業に限られており、業種や国が変われば見え方も変わります。また、何が何を引き起こしたのかという因果関係を示すものではなく、経験の構造を読み解いた研究として受け取る必要があります。
キーワード解説
- 交差性
- 交差性とは、性別や人種、宗教などの属性が重なり合うことで、それぞれ単独では説明できない独自の不利や経験が生じるという考え方のことです。
- VUCA
- VUCAとは、変動が激しく不確実で複雑、そして曖昧な状況を指す言葉で、先を見通しにくい経営環境を表すときに使われます。
- 半構造化インタビュー
- 半構造化インタビューとは、主要な質問だけをあらかじめ決めておき、相手の話に応じて内容を掘り下げていく聞き取り方法のことです。
- ステレオタイプ
- ステレオタイプとは、ある集団に属する人をひとくくりにして、型にはまった特徴を当てはめて見てしまう思い込みのことです。
- 帰属感
- 帰属感とは、自分がその集団の一員として受け入れられていて、確かに居場所があると感じられる状態のことです。
- 包摂
- 包摂とは、多様な背景を持つ人が、形だけ在籍するのではなく、意思決定や日常の関わりに実質的に参加できている状態のことです。
- サービス業
- サービス業とは、飲食や小売、介護、清掃など、形のある製品ではなく人による役務を提供する産業のことです。
よくある質問
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Q交差性の視点は人事にどう役立ちますか?
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A性別、人種、宗教、出身地域といった要素は、別々に効くのではなく重なって効きます。女性向け施策と外国籍社員向け施策を並べるだけでは、その重なりの位置にいる人の困りごとが抜け落ちます。属性を掛け合わせて現場の声を聞くことが出発点になります。
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Q雇用主側は何を障害だと感じていましたか?
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A制度や方針、そして社会的・文化的な統合が、包摂を進めるうえでの制約として語られていました。取り組む意思があっても、既存の仕組みや職場の慣習が実行を押しとどめる構図です。方針文書だけでなく、運用の細部を点検する必要があります。
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Qこの研究の結果はそのまま自社に当てはまりますか?
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Aそのまま当てはめるのは避けたほうがよいでしょう。アイルランドのサービス業を対象とした質的研究であり、業種や国、職場の状況が変われば見え方も変わります。示された経験の構造を手がかりに、自社で聞き取りを行って確かめる使い方が適しています。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


