従来型の運用者もESGを使い、主な用途は危険信号とリスク管理

従来型の運用者もESGを使い、主な用途は危険信号とリスク管理 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

ESG Integration and the Investment Management Process: Fundamental Investing Reinvented

Emiel van Duuren, Auke Plantinga, Bert Scholtens / Journal of Business Ethics (2015年) / DOI: 10.1007/s10551-015-2610-8 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): ESGの統合と投資運用プロセス:再発明されるファンダメンタル投資

結論

従来型のファンドマネジャーの多くが、すでに責任投資の要素を運用プロセスに取り込んでいることが、国際的なアンケート調査から示されました。ESG情報は主にレッドフラグの検出とリスク管理に使われ、その進め方は従来のファンダメンタル投資と大きく変わりません。人事・研修担当にとっては、自社の人と組織に関する情報が、投資家のリスク判断の材料として読まれうることを意味します。

ESGへの配慮は一部の専門ファンドだけのものと思われがちですが、国際的なファンドマネジャー調査は違う姿を映しました。従来型の運用者の多くがすでに責任投資の要素を組み込み、ESG情報を主に危険信号の検出とリスク管理に使っています。著者らは、その進め方が従来のファンダメンタル投資とよく似ていると論じています。

この論文の要点

  • 専門ファンドに限らず、従来型の運用者の多くが責任投資の要素を取り入れています
  • ESG情報の主な用途は、危険信号の検出とリスク管理でした
  • ESG投資は、企業を丹念に調べるファンダメンタル投資と似ていると論じられます

研究の問い

ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を掲げる投資は、長らく一部の専門ファンドの話だと見なされてきました。しかし実際には、特別な看板を掲げていない従来型の運用機関も、企業を選ぶ際に環境対応や働き方、ガバナンスといった非財務情報に目を通しているかもしれません。もしそうであれば、責任投資は「特殊な運用」ではなく、通常の運用プロセスの一部へと移りつつあることになります。本研究は、従来型の資産運用者がESG要因を実際にどう扱っているのかを確かめようとしました。

調べ方

著者らは、国際的なファンドマネジャーを対象としたアンケート調査を行い、ESG要因を運用プロセスのどの場面で、どのような目的で使っているかを尋ねました。回答を分析することで、責任投資の要素がどの程度取り込まれているか、ESG情報が主にどの用途へ向けられているか、そして地域によって考え方が異なるかを比べています。対象者の人数や調査年、対象国の内訳といった詳細は、抄録では明記されていません。

わかったこと

まず、専門の責任投資ファンドに限らず、従来型のファンドマネジャーの多くが、運用プロセスの中に責任投資の要素をすでに取り入れていることが示されました。ESGは一部の担当者だけが扱う特別なテーマではなくなりつつある、という姿です。

次に、ESG情報の使われ方には偏りが見られました。中心は、投資先候補のうち問題を抱えていそうな企業を早めに見分けるレッドフラグ(危険信号)としての用途と、リスク管理の材料としての用途です。収益機会を積極的に探すためというより、損失を避けるための道具として位置づけられている、と読めます。

さらに著者らは、ESG情報を使った投資は、企業の実態を財務・非財務情報から丹念に調べるファンダメンタル投資と非常に似ていると論じ、調査結果からもその類似性を示しています。一方で、米国と欧州の運用者ではESGのとらえ方に相当な違いがあることも明らかになりました。

人事・研修担当への示唆

  • 自社の労務や安全、ガバナンスの情報はレッドフラグの材料になりえます。開示前に人事側で内容を点検しましょう
  • ESG情報はリスク管理の材料として読まれます。離職や労災など悪材料になりうる指標の把握と説明を準備しましょう
  • 米国拠点と欧州拠点でESGの受け止め方が異なる前提で、グローバル研修や社内説明の内容を地域ごとに調整しましょう

読むときの注意点

アンケートによる自己申告の調査であり、実際の運用行動そのものを観察したものではありません。回答者が望ましい姿を答えている可能性は残ります。また、ESGの扱いと運用成果の因果関係を示した研究ではなく、運用者の実務と認識をとらえることが目的です。調査時期や対象の詳細は抄録では明記されていないため、現在の状況にそのまま当てはめる際は注意が必要です。

キーワード解説

ESG
ESGとは、環境・社会・企業統治という、財務数値に直接表れにくい三つの観点から企業を評価する枠組みのことです。
責任投資
責任投資とは、収益性だけでなく環境や社会、企業統治への配慮も考慮しながら投資先を選ぶ考え方のことです。
レッドフラグ
レッドフラグとは、投資や取引の判断において、深刻な問題の兆しを示す危険信号として扱われる情報のことです。
リスク管理
リスク管理とは、損失につながりうる要因を事前に洗い出し、影響を抑えるための備えを講じる一連の活動のことです。
ファンダメンタル投資
ファンダメンタル投資とは、企業の事業内容や財務状況などの実態を丹念に調べ、その価値に基づいて投資先を選ぶ手法のことです。
非財務情報
非財務情報とは、売上や利益のような会計数値以外で企業の状態を示す、人材、環境対応、統治体制などの情報のことです。
運用プロセス
運用プロセスとは、投資対象の調査から選定、組み入れ、点検までを含む、資産を運用する一連の手順のことです。

よくある質問

Q
ESG投資は特別な運用手法なのですか?
A
この研究では、特別な看板を掲げていない従来型のファンドマネジャーの多くも、すでに責任投資の要素を運用プロセスに取り入れていることが示されました。著者らは、その進め方は企業の実態を丹念に調べるファンダメンタル投資とよく似ていると論じています。
Q
ESG情報は何のために使われていますか?
A
調査では、問題を抱えていそうな企業を早めに見分けるレッドフラグとしての用途と、リスク管理の材料としての用途が中心でした。収益機会を積極的に探すためというより、損失を避けるための道具として位置づけられている様子がうかがえます。
Q
米国と欧州で考え方は違いますか?
A
違います。この研究は、米国と欧州の資産運用者のあいだにESGのとらえ方の相当な差があることを明らかにしました。ただし、その差がどこから生じるのかや、具体的な内訳については抄録では明記されていません。

原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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