コワーキングの価値は「ワークコンパニオン」という関係から生まれる

コワーキングの価値は「ワークコンパニオン」という関係から生まれる (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Coworking: Finding Value Through Work Companions

Christina Hymer, Mark A. Maltarich, Sherry M. B. Thatcher / Organization Science (2026年) / DOI: 10.1287/orsc.2022.16202

邦題(編集部訳): コワーキング——仕事の伴走者を通じた価値の発見

結論

コワーキングスペースの価値は、設備よりも人にありました。義務をともなわない「ワークコンパニオン」との関係は、関わる度合いをその都度選べるため、負担なく仕事上の助けと個人的な支えをもたらします。人事にとっては、在宅勤務者のつながりを設計する際に、強制しない緩やかな場づくりという選択肢があることを意味します。

働く場所を選べる時代に、コワーキングスペースで隣り合う人たちは、互いにとって何なのでしょうか。本研究は、家族でも友人でも同僚でもなく、仕事に向かう姿勢だけを共有して隣で働く相手を「ワークコンパニオン」と名づけました。義務がないからこそ関わり方を自由に選べ、会話をするときも、黙って並んで働くだけのときも、そこから仕事上の助けと個人的な支えを得ていたことが示されています。

この論文の要点

  • 雇用主も職種も違う人と隣り合う関係を「ワークコンパニオン」と概念化
  • 義務がないため、話すか黙って並行作業するかを自由に切り替えられる
  • 家族・友人・雇用の関係が混じると義務が生まれ、その柔軟さが失われる

研究の問い

働く場所を柔軟に選べる人が増え、その選択肢のひとつとしてコワーキングスペースがあります。ここでは雇用主も職種も経歴も異なる人が同じ空間で働きますが、共通の目標もなければ、ひとつの組織という傘もありません。職場の人間関係についての研究は、これまで同じ組織に属する同僚や上司との関係を前提にしてきたため、こうした場でどのような関係が育ち、それが働く人にとって何の役に立つのかは、ほとんど分かっていませんでした。そこで本研究は、コワーキングスペースで働く人が周囲との関係をどう扱い、そこからどのような価値を得ているのかを問いました。

調べ方

著者らはグラウンデッド・セオリーの手法を用いています。21のコワーキングスペースに通う80人の働き手を対象に、現場での観察、スペースに関するアーカイブ資料、本人へのインタビューという三種類のデータを集め、それらを突き合わせながら概念を組み立てました。あらかじめ仮説を立てて検証するのではなく、集めたデータから概念とその関係を積み上げて理論モデルをつくる進め方です。対象の国や業種などそれ以外の詳細は、抄録では明記されていません。

わかったこと

中心にあるのは、著者らが新しく名づけたワークコンパニオンという概念です。家族でも友人でも同僚でもないけれど、仕事に向かうという一点を共有しながら隣り合って働く相手を指します。血縁・友情・雇用にともなう義務がないぶん、関わり方を自分で決められるのが特徴です。

コワーキングスペースは、スペース管理者による運営のもとで、こうした関係が生まれやすい条件をつくっていました。メンバーは相互作用の柔軟性を持ち、その時々で会話や交流に踏み込むこともあれば、言葉を交わさず同じ空間で並行作業をするだけにとどめることもできます。著者らは、どちらの関わり方からも、仕事上の価値と個人的な価値の両方が引き出されていたと述べています。

ただし、相手と家族・友人・雇用の関係でつながっている場合、つまり関係的埋め込みがある場合は、そこに義務が生じ、関わり方を自由に切り替えにくくなります。著者らはこれを、今回の知見が当てはまる範囲を示す境界条件として位置づけています。

人事・研修担当への示唆

  • 在宅勤務者の孤立対策では、交流イベントを増やすより、義務のない緩やかな並行作業の場を用意する方が合う場合があります
  • コワーキングスペース利用を福利厚生に入れるなら、運営者が場の関係づくりをどう支えているかを見て契約先を選びましょう
  • 交流を人事や上司が義務づけると相互作用の柔軟性が失われます。参加も不参加も選べる設計のまま残してください

読むときの注意点

限られた対象から概念を組み立てた理論構築型の質的研究です。ワークコンパニオンが業績や定着を高めるといった因果関係を検証したものではありません。また、家族・友人・雇用の関係が混ざる場面には当てはまりにくいと著者ら自身が限定しています。日本の職場や在宅勤務にそのまま当てはまるかは、抄録では明記されていません。

キーワード解説

ワークコンパニオン
ワークコンパニオンとは、家族・友人・雇用のいずれの義務も負わないまま、仕事に向かう姿勢を共有して隣り合って働く相手のことです。
コワーキングスペース
コワーキングスペースとは、雇用主も職種も異なる人たちが料金を払って共用し、それぞれの仕事をする働く場のことです。
相互作用の柔軟性
相互作用の柔軟性とは、相手とどこまで関わるかを、その場の状況や気分に応じて自分で選び直せる状態のことです。
関係的埋め込み
関係的埋め込みとは、家族・友人・雇用といった既存の関係が相手との間に存在し、そこから役割上の義務が生じている状態のことです。
並行作業
並行作業とは、同じ空間で互いの存在を感じながら、会話や共同作業をせずにそれぞれの仕事を進める関わり方のことです。
グラウンデッド・セオリー
グラウンデッド・セオリーとは、観察やインタビューで集めた質的データから概念を積み上げ、理論をつくる研究手法のことです。
境界条件
境界条件とは、ある理論や発見がどのような状況までなら当てはまり、どこから外れるのかを示す限定のことです。

よくある質問

Q
ワークコンパニオンとは何ですか?
A
本研究が新たに提示した概念で、家族でも友人でも同僚でもない、仕事に向かう姿勢だけを共有して隣で働く相手を指します。義務をともなわない関係のため、どこまで関わるかをその都度自分で決められる点が特徴だと説明されています。
Q
コワーキングでは何が得られるのですか?
A
著者らは、隣り合う相手との関わりから、仕事上の価値と個人的な価値の両方が引き出されていたと述べています。会話や交流をする場合だけでなく、言葉を交わさず同じ空間で作業するだけの関わりからも価値が生まれていました。
Q
リモートワークの孤立対策に使えますか?
A
示唆はあります。ただし本研究はコワーキングスペースの利用者を対象にした質的研究で、孤立が減る、成果が上がるといった効果を検証したものではありません。関係を強制せず、関わり方を選べる設計にする点が実務上のヒントになります。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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