複数チーム所属は人脈を育て、メンバーの流動化は削る

複数チーム所属は人脈を育て、メンバーの流動化は削る (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

The Connectivity Paradox of Flexible Team Arrangements

Stefan Berger, Hendrik J. Van de Brake, Heike Bruch, Gerben S. van der Vegt / Academy of Management Journal (2026年) / DOI: 10.5465/amj.2023.0869

邦題(編集部訳): 柔軟なチーム編成における結びつきのパラドックス

結論

同じ「柔軟なチーム編成」でも、複数のチームを掛け持ちすることは個人のつながりと業績を押し上げ、メンバーが次々に入れ替わることは個人にとって逆向きに働いていました。ところが企業全体で見ると、柔軟な編成は組織のつながりと業績に正の関連を示します。人事は、個人にかかる負担と組織に生まれる効果を分けて設計する必要があります。

チームを柔軟に組み替える働き方は、社内のつながりを豊かにするのでしょうか、それとも壊すのでしょうか。本研究は、掛け持ち(複数チーム所属)とメンバーの流動化を切り分け、二つの調査で検証しました。その結果、個人にとっては掛け持ちが有利、流動化は不利である一方、企業全体では柔軟な編成がつながりと業績に正の関連を示すという、見る水準によって答えの変わる姿が浮かび上がりました。

この論文の要点

  • 複数チーム所属は個人の社会関係資本を高め、業績にも間接的に効いていました
  • メンバーが入れ替わる流動的な編成は、個人の水準では負の関連を示しました
  • 企業の水準では、柔軟な編成が組織のつながりと業績に正の関連を持ちました

研究の問い

多くの企業は、チームを単位に人を組み替えることで、部門を越えたつながりと成果を生み出そうとしています。近年その組み替えはさらに柔軟になり、一人が複数チーム所属する形や、顔ぶれが次々に入れ替わる流動的メンバーシップが広がってきました。ただし、こうした柔軟な編成が人と人とのつながり、すなわち社会関係資本を豊かにするのか、それとも損なうのかについては、見方が分かれていました。著者らは、この「つながりのパラドックス」に答えるために、これまで別々に進んできた二つの研究潮流を統合し、個人と企業の両方の水準を橋渡しするマルチレベル理論を組み立てています。

調べ方

検証は、性格の異なる二つの調査で行われています。研究1では、ある知識集約型組織から得られたきめ細かなデータを用い、従業員3,690人を対象に個人の水準に関する予測を確かめています。研究2では、106組織・従業員15,342人から複数の情報源を通じて集めたデータを使い、個人から企業までを含むモデル全体を検証しています。二つを組み合わせることで、個人の働き方と企業の構造の両面から柔軟なチーム編成を捉えています。

わかったこと

個人の水準では、複数チーム所属の度合いが高い人ほど社会関係資本が豊かで、それを介して個人業績も高いという関連が見られました。効果は業績に直接ではなく、つながりを経由した間接効果として現れています。一方、所属チームの顔ぶれが入れ替わる度合い、つまり流動的メンバーシップについては、逆向きの関連が示されました。

企業の水準では様子が異なります。複数チーム所属と流動的メンバーシップを土台とする柔軟なチーム編成は、組織全体の社会関係資本と正の関連を持ち、それを通じて企業業績とも結びついていました。

つまり、個人にとっては不利に働きうる流動性も、組織という単位で眺めると、部門をまたぐつながりを広げる方向に効いている可能性があります。同じ仕組みが、水準によって違う顔を見せる。これが本研究の指摘するパラドックスです。

人事・研修担当への示唆

  • 掛け持ちを一律に減らす前に、複数チーム所属が人脈づくりに効いている面を評価軸に加えましょう
  • 入れ替わりの多い職場では引き継ぎや紹介の場を設け、関係が途切れる分を意識的に補いましょう
  • 社会関係資本を組織の資産として可視化し、チーム編成を決める際の判断材料に加えましょう

読むときの注意点

示されているのは関連であって、因果ではありません。掛け持ちを増やせば業績が上がる、と読み替えるのは早計です。また研究1の対象は知識集約型の一組織であり、業種や職種が違えば当てはまり方も変わります。調査時期や対象国、追跡の有無といった詳細は抄録では明記されていないため、判断の前に原典の確認をおすすめします。

キーワード解説

複数チーム所属
複数チーム所属とは、一人の従業員が同じ期間に二つ以上のチームに籍を置き、並行して仕事を進める働き方のことです。
流動的メンバーシップ
流動的メンバーシップとは、チームの顔ぶれが固定されず、期間の途中でメンバーが加わったり抜けたりする状態のことです。
社会関係資本
社会関係資本とは、人と人とのつながりや信頼が、情報や協力を引き出す資源として働く状態を指す考え方のことです。
マルチレベル理論
マルチレベル理論とは、個人・チーム・組織など異なる水準の現象を、水準をまたいで結びつけて説明する理論のことです。
間接効果
間接効果とは、ある要因が結果に直接届くのではなく、途中にある別の要因を経由して結果に及ぶ影響のことです。
個人業績
個人業績とは、従業員一人ひとりが担当業務でどれだけ成果を出しているかを表す評価上の指標のことです。
企業業績
企業業績とは、組織全体としてどれだけ成果を上げているかを示す、企業単位で捉えたパフォーマンスのことです。
知識集約型組織
知識集約型組織とは、設備よりも従業員の専門知識や情報のやり取りが価値の源泉になっている組織のことです。

よくある質問

Q
掛け持ちは本人の負担になりませんか?
A
本研究の範囲では、掛け持ちの度合いが高い人ほど社内のつながりが豊かで、それを介して業績も高いという関連が見られました。ただし負担そのものを測った結果ではなく、関連を示したものです。個々人の状況を見ながら判断してください。
Q
メンバーの入れ替えは避けるべきですか?
A
一律に避けるべきとは言えません。個人の水準では負の関連が示された一方、企業の水準では柔軟な編成が組織のつながりや業績と正の関連を持っていました。入れ替え自体を止めるより、関係が途切れる部分を補う工夫が現実的です。
Q
社会関係資本は人事で測れますか?
A
誰と誰がどれだけやり取りしているかを把握できれば、つながりの厚みをある程度は捉えられます。本研究も組織内のきめ細かなデータを使って個人のつながりを扱っています。測定方法の詳細は原典をご確認ください。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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