
紹介する論文
Repatterning Interactions in Remote Work Environments: Bolstering Psychological Safety Through Mutually Humanizing Self-Disclosure
邦題(編集部訳): リモートワーク環境における相互作用の組み替え——相互的な人間化を伴う自己開示による心理的安全性の強化
結論
対面からリモートへ移行した専門サービス企業を長期にわたり追ったところ、オンライン中心のやり取りがかえってメンバー同士の自己開示を促し、互いを一人の人間として理解し合う「相互的人間化」を通じて心理的安全性が高まっていました。上司が主導しなくても集団の側から安全性が育つ道筋があることを示しており、リモート下のチームづくりの発想を広げてくれます。
リモートワークでは、心理的安全性を育むようなやり取りが持ちにくいと考えられてきました。ところが本研究は、対面からリモートへ移行した組織を長期にわたり追った質的研究から、別の道筋を描き出します。リモートならではの相互作用パターンがメンバー同士の自己開示を後押しし、互いを人間として理解し合うことを通じて、心理的安全性が高まっていったのです。
この論文の要点
- リモート環境の相互作用パターンが、メンバー同士の自己開示を促していました
- 自己開示による相互的人間化を経て、心理的安全性が高まる過程が示されました
- 上司主導ではなく、集団の側から心理的安全性が育つ道筋が見つかりました
研究の問い
心理的安全性は、率直に意見を言ったり失敗を認めたりしても罰せられない、という集団に共有された感覚を指します。これまでの研究では、そうした感覚は日々の対面のやり取りを通じて育つとされ、リモートワークではその機会が乏しくなるため保ちにくいと考えられてきました。また、心理的安全性を高める要因としては、リーダーの働きかけに関心が集まってきました。では、集団がリモートで働くとき、心理的安全性はどのように高まるのでしょうか。本研究はこの問いを立て、リーダー主導とは別の道筋があるのかを探っています。
調べ方
対面からリモートワークへ移行した専門サービス企業を対象に、7年間にわたって続けられた縦断的な質的研究です。275件のインタビューと、およそ330時間の観察を通じて、メンバー同士のやり取りがどう変わり、心理的安全性がどのように育っていったのかを追跡しています。数量的に効果を測る調査ではなく、現場の会話や行動を丹念に記述し、そこから過程のモデルを組み立てる手法がとられています。
わかったこと
リモートで働く環境は、対面のときとは異なる相互作用パターンを生み出していました。そこでは、メンバーが自分の状況や事情を語る自己開示が起こりやすくなります。互いのことを知るにつれて、相手を役割や肩書きではなく一人の人間として見るようになる相互的人間化が進み、それが心理的安全性を押し上げていました。
高まった心理的安全性には、いくつかの実践が伴っていました。仕事の進め方をすり合わせて調整しつつ、どこで・いつ働くかの柔軟性は保つ、という両立です。その結果、メンバーは仕事上の課題に取り組みながら、仕事以外の活動にも向き合えるようになっていました。著者はここから、心理的安全性が仕事と仕事以外の役割管理を支えるという論点を示しています。
注目すべきは、この過程がリーダーの働きかけからではなく、集団の側から始まっている点です。
人事・研修担当への示唆
- 会議の冒頭に近況を短く共有する時間を設け、自己開示が自然に起きる場をつくりましょう
- 心理的安全性の施策をリーダー研修だけに任せず、チーム側から始まる関わり方も設計に含めましょう
- 働く場所と時間の柔軟性を守りつつ、仕事の調整方法をチームで明文化しておきましょう
読むときの注意点
一つの組織を深く追った質的研究であり、そのまま他の職場に当てはまるとは限りません。示されているのは統計的な因果関係ではなく、現場の観察から組み立てられた過程のモデルです。また、リモートワークであれば自動的に心理的安全性が高まるわけではなく、自己開示が起こりやすい相互作用パターンが伴っていた点に注意が必要です。
キーワード解説
- 心理的安全性
- 心理的安全性とは、対人的なリスクをとっても罰せられないとメンバーが感じられる、集団に共有された状態のことです。
- 自己開示
- 自己開示とは、自分の状況や考え、私生活の一部などを、相手に自分から伝える行為のことです。
- 相互的人間化
- 相互的人間化とは、互いの背景や事情を知ることで、相手を役割ではなく一人の人間として捉え合うようになることです。
- 相互作用パターン
- 相互作用パターンとは、いつ誰とどのように関わるかという、集団の中で繰り返されるやり取りの型のことです。
- 役割管理
- 役割管理とは、仕事上の役割と仕事以外の役割を、人が同時に抱えながら調整していく営みのことです。
- リモートワーク
- リモートワークとは、オフィス以外の場所から、通信手段を用いて仕事を進める働き方のことです。
- 専門サービス企業
- 専門サービス企業とは、コンサルティングや会計、法務など、専門知識そのものを提供する企業のことです。
- 質的研究
- 質的研究とは、インタビューや観察で集めた記述をもとに、出来事の過程や意味を読み解く研究方法のことです。
よくある質問
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Qリモートワークだと心理的安全性は下がりますか?
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A本研究では、リモートならではのやり取りが自己開示を促し、心理的安全性が高まる過程が示されました。ただし自動的に高まるわけではなく、自己開示が起きやすい関わり方が伴っていたことが前提です。
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Q心理的安全性はリーダーがつくるものですか?
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Aリーダーの働きかけを重視する研究が多い一方、本研究はメンバー同士の自己開示から集団の側で心理的安全性が育つ道筋を示しました。上司の関与に加えて、チーム内の関わり方そのものが鍵になります。
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Q心理的安全性は仕事以外にも影響しますか?
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A本研究では、心理的安全性の高まりが働く場所や時間の柔軟性を保つ実践を伴い、メンバーが仕事上の課題と仕事以外の活動の双方に向き合えるようになっていました。役割管理を支える点が新しい指摘です。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


