生成AIは雇用を奪うか増やすか未確定、人事が今備えるべき論点

生成AIは雇用を奪うか増やすか未確定、人事が今備えるべき論点 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Human resource management in the age of generative artificial intelligence: Perspectives and research directions on ChatGPT

Pawan Budhwar, Soumyadeb Chowdhury, Geoffrey Wood, Herman Aguinis, Greg J. Bamber, Jose R. Beltran, Paul Boselie, Fang Lee Cooke, Stephanie Decker, Angelo S. DeNisi, Prasanta Kumar Dey, David Guest, Andrew J. Knoblich, Ashish Malik, Jaap Paauwe, Savvas Papagiannidis, Charmi Patel, Vijay Pereira, Shuang Ren, Steven G. Rogelberg, Mark N. K. Saunders, Rosalie L. Tung, Arup Varma / Human Resource Management Journal (2023年) / DOI: 10.1111/1748-8583.12524 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): 生成AI時代の人的資源管理:ChatGPTをめぐる展望と研究の方向性

結論

ChatGPTに代表される生成AIが雇用を減らすのか増やすのか、それとも人の仕事を別の作業へ移し替えるだけなのかは、まだ見極められていません。本稿はHRMの研究者たちが、生成AIが人事のプロセスや関係性に及ぼしうる影響と、バイアスや誤情報、プライバシーといったリスクを整理し、今後検証すべき問いを提示したものです。人事にとっては、導入の是非を急ぐ前に点検すべき論点の一覧として使えます。

ChatGPTをはじめとする生成AIは、その利点と弊害をめぐって一気に議論の中心になりました。しかし、雇用が失われるのか新しく生まれるのか、あるいは人の労働がただ別の作業へ移るだけなのかは、まだ見通せていません。本稿は複数のHRM研究者が集まり、生成AIとHRMの接点を洗い出し、これから確かめるべき論点と研究の方向を示した論考です。

この論文の要点

  • 生成AIが雇用を奪うのか生むのかは、まだ結論が出ていません
  • ウェルビーイング・バイアス・誤情報・プライバシーなどのリスクが高まっています
  • 実証結果ではなく、HRM研究者による論点整理と研究提案です

研究の問い

ChatGPTのような生成AIが登場し、その利点と欠点は学術界でもメディアでも急速に議論の的になりました。開発企業のトップは、その影響が印刷機の登場に匹敵しうると述べています。しかし人事の現場から見ると、生成AIが仕事を奪うのか新しい仕事を生むのか、それとも人の労働をただ別の作業に移すだけなのかがはっきりしません。生成された情報や判断が、実務にとっては取るに足らないものにとどまる可能性も指摘されています。変化は雇用だけでなく、利害関係者との関係、ビジネスモデル、研究のあり方にまで及びますが、その全体像はまだ解明されていません。ここが本稿の出発点です。

調べ方

実験や調査データを分析した実証研究ではなく、HRM分野の多数の研究者が共同で執筆した展望論文です。AIおよび生成AIに関する既存の文献を整理し、それをHRMのプロセス、実務、人と人・人と組織の関係性、そして成果という側面に結びつけながら、今後取り組むべき研究の道筋を提示しています。誰を何人対象にどのデータを集めたかという調査設計は、この種の論考には存在しません。読者は「検証済みの結果」ではなく「論点の見取り図」として受け取る必要があります。

わかったこと

第一に、生成AIが雇用に与える影響は未確定だと整理されています。仕事が置き換わるのか、新しい仕事が生まれるのか、あるいは人の労働の中身が入れ替わるだけなのか。しかもそこで生み出される情報や判断が、実務では大して役に立たないものになりうる点も指摘されています。

第二に、ChatGPTの登場後もより高性能なツールが次々と投入され、開発競争が加速しました。その結果、業務での応用範囲は広がる一方で、働き手にとっての先行き不透明さは続いています。

第三に、高まるリスクとして、ウェルビーイングへの影響、バイアス、誤情報、文脈を読まない出力、プライバシー、倫理的な板挟み、セキュリティが挙げられています。影響は雇用にとどまらず、利害関係者との関係やビジネスモデル、研究のあり方にも及びます。これらを踏まえ、本稿はHRM研究が取り組むべき問いの束を提示しています。

人事・研修担当への示唆

  • 生成AIを業務に入れる前に、出力のバイアスや誤情報を誰がどう点検するかを業務ごとに決めましょう
  • 採用や評価で使うなら、個人データの扱いとプライバシー保護のルールを先に文書化しましょう
  • 仕事が奪われるかを論じる前に、どの作業が実際に置き換わったかを記録し、担当者のウェルビーイングを定点観測しましょう

読むときの注意点

本稿は実証研究ではなく、研究者らの見解と今後の研究課題を示した論考です。ここに書かれた影響やリスクは、データで確かめられた結論ではなく仮説として読むべきものです。また、生成AIの技術と普及状況は変化が速いため、前提そのものが短期間で古くなる可能性があります。

キーワード解説

生成AI
生成AIとは、文章や画像などを新しく作り出す人工知能のことです。ChatGPTのように、指示に応じて文章を組み立てる技術がその代表例です。
展望論文
展望論文とは、新しいデータを分析するのではなく、既存の研究を整理して今後の研究課題や論点を示す論考のことです。
バイアス
バイアスとは、判断や出力が特定の属性や見方に偏ってしまうことです。学習データの偏りがそのまま結果に表れる場合があります。
誤情報
誤情報とは、事実と異なる内容が、もっともらしい形で提示されることです。生成AIの出力では一見自然な文章として現れます。
プライバシー
プライバシーとは、個人に関する情報が本人の意図しない形で収集・利用されない状態のことです。人事データでは特に重要になります。
ウェルビーイング
ウェルビーイングとは、心身の健康や仕事上の満足を含む、働く人の良好な状態のことです。技術導入の影響を測る視点の一つです。
ビジネスモデル
ビジネスモデルとは、企業が誰にどんな価値を届け、どう収益を得るかという事業の仕組みのことです。技術変化で作り替えが迫られます。

よくある質問

Q
生成AIで人事の仕事はなくなりますか?
A
この論文は、なくなるとも増えるとも断定していません。仕事が置き換わる可能性、新しい仕事が生まれる可能性、そして人の労働の中身が入れ替わるだけの可能性を並べて示し、いずれも今後の検証が必要だとしています。
Q
生成AIを人事業務で使うときのリスクは?
A
ウェルビーイングへの影響、判断の偏り、事実と異なる出力、文脈を無視した回答、個人情報の扱い、倫理的な板挟み、セキュリティが挙げられています。導入時にはこれらを点検する仕組みを先に用意しておくのが現実的です。
Q
この論文は実験や調査に基づくものですか?
A
いいえ。多数のHRM研究者が既存の文献を整理し、今後の研究の方向を示した論考です。したがって「効果が確かめられた」という性質の結論ではなく、検討すべき論点の地図として読むのが適切です。

原論文のライセンス: cc-by-nc-nd。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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