
紹介する論文
Whose Emotional Intelligence Counts? Behaviour, Competence and the Organisational Interpretation of Emotional Intelligence
邦題(編集部訳): 誰の感情知性が評価されるのか?――行動、能力、そして組織による感情知性の解釈
結論
著者らは、組織で感情知性(EI)が使われるうちに、評価の対象が本来の感情的な能力からずれてきたと論じています。いまは、組織にとって見慣れた感情の表し方をしているかどうかが評価されがちだという主張です。データによる検証ではなく、理論的な問題提起です。人事・研修担当者は、採用や昇進の評価で「感情の出し方の違い」を能力不足と取り違えていないか点検する必要があります。
感情知性(EI)は、リーダー育成や採用、業績管理で広く使われている考え方です。本論文は、その評価が知らないうちに「組織が慣れ親しんだ感情の表し方」をする人を高く評価する仕組みになっている可能性を指摘します。特に、ニューロダイバージェンス(発達特性などによる脳の働き方の多様性)をもつ人の力が見落とされやすいとしています。そのうえで、EIを捨てるのではなく、捉え方を広げることを提案しています。
この論文の要点
- EI評価は、感情的な能力より見慣れた感情表現を評価する方向にずれてきたと著者らは論じる
- 表し方が違うだけで同じくらい有効な感情的能力が、見落とされるおそれがある
- EIは捨てず、内面の感情理解と外に表れる振る舞いを分けて捉えるよう提案
研究の問い
感情知性(EI)とは、自分や他者の感情を理解して扱う力のことです。いまではリーダー育成、採用、業績管理で定番の考え方になっています。しかし、EIが組織の制度に組み込まれるにつれて、実際に何を評価しているのかはあまり問われてきませんでした。著者らは、「感情を理解し扱える力」と「組織が期待する形で感情を表す振る舞い」が混同されているのではないかと考えました。著者らによれば、この区別はほとんど注目されてきませんでした。一方で、リーダーシップやタレントマネジメント(人材の発掘・育成・配置の仕組み)、職場の包摂(多様な人が受け入れられ、力を発揮できる状態)に大きく関わる問題だとしています。
調べ方
抄録を見る限り、本論文はアンケートや実験でデータを集めて検証した研究ではありません。既存の考え方を整理して新しい見方を示す理論研究(概念的な論考)です。対象となる組織や人数、分析した資料の範囲などは、抄録では明記されていません。著者らは、EIが組織の実務でどう解釈され、運用されてきたかを論じています。そのうえでニューロダイバージェンスを具体例として取り上げ、能力と振る舞いを区別することがなぜ重要かを示しています。
わかったこと
第一に著者らは、EIが組織の実務に定着する過程で、評価の焦点が移ってきたと主張しています。「感情的な能力があるか」から「見慣れたパターンの感情表現をしているか」への移り変わりです。EIが高いと判断される人は、感情理解の深さよりも、組織が期待する表し方に合っている人なのかもしれない、という指摘です。
第二に、その結果、組織は特定の感情表現のスタイルを意図せず優遇しているおそれがあるとしています。同じくらい有効でも表し方が異なる感情的能力は、見落とされかねません。
第三に、ニューロダイバージェンスをもつ人の場合、この問題が特にはっきり表れるとしています。感情的な能力が、組織で主流の期待とは違う形で表れることがあるためです。
そのうえで著者らは、EIという考え方を手放すのではなく、より広く捉えることを提案しています。内面にある感情の理解と、それが外に表れる振る舞いとを区別する捉え方です。これにより、さまざまな形の感情知性あるリーダーシップを認められるようになるとしています。
人事・研修担当への示唆
- 採用・昇進の評価項目から「表情が豊か」「場を和ませる」など表し方に偏った基準を洗い出し、能力を見ているか点検する
- リーダーのコンピテンシー定義で、感情の理解と表現のスタイルを分けて書き直す
- 評価者研修で、話し方や表情の違いを能力不足と取り違える偏見の例を共有し、ニューロダイバージェンスへの配慮を加える
読むときの注意点
抄録を見る限り、本論文は理論的な主張を示したものです。評価のずれが実際にどの程度起きているかを、データで示したわけではありません。また、内面の感情理解を振る舞いと切り分けて測る具体的な方法も、抄録では明記されていません。自社に当てはめる際は、実際の評価データや当事者の声で確かめることが大切です。
キーワード解説
- 感情知性
- 感情知性とは、自分や他者の感情を読み取り、理解し、行動や人間関係の中でうまく扱う力のことです。EIとも呼ばれます。
- ニューロダイバージェンス
- ニューロダイバージェンスとは、自閉スペクトラムやADHDなど、脳の働き方や情報の受け取り方が多数派と異なる状態のことです。
- 感情表現
- 感情表現とは、表情や声のトーン、言葉づかい、身ぶりなどを通じて、感情を外に表すことです。
- 感情的能力
- 感情的能力とは、感情を理解し、状況に応じて適切に扱うための内面的な力のことで、外に見える振る舞いとは区別されます。
- タレントマネジメント
- タレントマネジメントとは、人材を発掘・育成・配置・評価し、組織の成果につなげるための一連の仕組みのことです。
- 包摂
- 包摂とは、多様な背景や特性をもつ人が職場で受け入れられ、自分らしく力を発揮できる状態をつくることです。インクルージョンとも呼ばれます。
- 理論研究
- 理論研究とは、データを新たに集めて検証するのではなく、既存の知見や概念を整理して新しい見方や枠組みを示す研究のことです。
- 評価者研修
- 評価者研修とは、人事評価や選考を担う人が、基準を正しく理解し、偏りの少ない評価を行えるようにするための研修のことです。
よくある質問
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Q感情知性(EI)の評価にはどんな問題がありますか?
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Aこの論文によると、EIの評価は本来の感情的な能力ではなく、組織にとって見慣れた感情の表し方をしているかを見がちになっている可能性があります。そのため、表し方が違うだけで同じくらい有効な力が見落とされるおそれがあります。
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Qニューロダイバージェントな人はEI評価で不利になりますか?
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A著者らは、ニューロダイバージェンスをもつ人は感情的な能力が組織の主流の期待と違う形で表れることがあり、見落とされやすいと論じています。ただし理論的な指摘で、不利の程度をデータで示したものではありません。
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QEIを採用や研修で使うのはやめるべきですか?
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A著者らはEIを捨てることは提案していません。内面の感情理解と外に表れる振る舞いを区別して、より広く捉えることを勧めています。評価基準が特定の表現スタイルに偏っていないかを見直すことが出発点になります。
原論文のライセンス: cc-by-nc。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


