
紹介する論文
A Review of Self-Determination Theory’s Basic Psychological Needs at Work
邦題(編集部訳): 職場における自己決定理論の基本的心理欲求に関するレビュー
結論
職場での欲求充足を扱う既存研究を統合し、自律性・有能感・関係性がそれぞれ独自に働くのか、合算した指標で足りるのか、測定尺度の違いが結果を左右しないかを検証したレビューです。具体的な数値は抄録では明記されていませんが、人事としては「やる気」をひとまとめに測らず、3つを分けて把握する必要性を示唆します。
自己決定理論では、自律性・有能感・関係性という3つの基本的心理欲求が満たされることが、成長と健やかさの土台だと考えます。本論文は、職場でのこの欲求充足を扱う研究を集めて統合し、3つは本当に別々の働きをするのか、合算した一つの指標で代用できるのか、そして測り方の違いが結論を変えないのかを検討したレビューです。
この論文の要点
- 自己決定理論は自律性・有能感・関係性を職場の動機づけの土台とみなします
- 職場の欲求充足を扱う既存研究を集め、メタ分析で統合したレビューです
- 3つを合算した指標の妥当性と、尺度の違いによる影響を検証しています
研究の問い
働く人のやる気を高めたい、という悩みは職場に絶えません。自己決定理論は、その鍵を報酬や罰ではなく、自律性・有能感・関係性という基本的心理欲求が満たされているかに求めます。ただ、職場を対象にした研究が積み上がる一方で、3つの欲求が本当にそれぞれ独自に心理的成長・内在化・ウェルビーイングを説明しているのか、実務でよく使われる「まとめて一つの得点にする」やり方が理論に照らして妥当なのか、そして研究ごとに異なる測定尺度が結論を左右していないのかは、十分に整理されていませんでした。本論文はその点を確かめるために書かれています。
調べ方
対象は、職場における基本的心理欲求の充足について、その先行要因と帰結を検討した既存の研究です。著者らは99件の研究、119の異なるサンプルを集め、メタ分析という手法で統合しました。メタ分析とは、個々の研究結果を統計的にまとめ直し、全体としての傾向を推定する方法です。あわせて、研究ごとに用いられている測定尺度が異なる点にも注目し、どの尺度を使うかが結果に影響するかどうかも検討しています。新たに従業員調査を行ったのではなく、既存研究の再集計である点が特徴です。
わかったこと
この論文は、職場における基本的心理欲求の充足について、先行研究を統合する形で整理しています。検証の焦点は3つです。第一に、自律性・有能感・関係性という3つの欲求が、それぞれ独自に心理的成長・内在化・ウェルビーイングを予測するかどうか。第二に、3つをまとめた「全体的な欲求充足」の指標を使うことが適切かどうか。第三に、どの測定尺度を用いるかによって結果が変わるかどうかです。
各欲求についてどの程度の独自性が確認されたかといった具体的な結果の中身は、抄録では明記されていません。抄録から読み取れるのは、著者らがレビューを通じて浮かび上がった課題への対処法を提言としてまとめ、今後取り組むべき論点を挙げている点です。挙げられているのは、欲求が満たされない状態(欲求フラストレーション)の研究、文化の影響、他の動機づけ理論との統合、そして使われている尺度や方法への注意喚起です。
人事・研修担当への示唆
- 従業員サーベイでは合計点だけを見ず、自律性・有能感・関係性を分けて集計し、弱い側面に打ち手を絞りましょう
- 施策を「やる気向上」と一括りにせず、裁量を増やすのか、成長実感を作るのか、つながりを強めるのかを分けて設計します
- 他社事例や過去調査と数値を比べるときは、使っている尺度が違えば単純比較できない前提で読みましょう
読むときの注意点
既存研究を統合したレビューであり、大半は相関関係の集計です。欲求が満たされているから成果が上がるのか、順調だから満たされていると感じるのかは、この整理だけでは断定できません。また、欲求が阻害される状態や文化差は今後の課題として位置づけられており、日本の職場にそのまま当てはまるかは慎重に見る必要があります。
キーワード解説
- 自己決定理論
- 自己決定理論とは、人のやる気の質は基本的な心理的欲求がどれだけ満たされるかで変わると考える、動機づけの理論のことです。
- 基本的心理欲求
- 基本的心理欲求とは、自律性・有能感・関係性という、人が健やかに成長し続けるために欠かせないとされる三つの心理的な欲求のことです。
- 自律性
- 自律性とは、自分の行動を自分で選び、納得したうえで決めていると感じられる状態を指す、心理的欲求の一つのことです。
- 有能感
- 有能感とは、自分は仕事をうまくやれている、力を発揮できていると感じられる状態を指す、心理的欲求の一つのことです。
- 関係性
- 関係性とは、周囲の人とつながり、大切にされ受け入れられていると感じられる状態を指す、心理的欲求の一つのことです。
- 内在化
- 内在化とは、外から与えられた価値やルールを自分のものとして取り込み、納得して行動できるようになっていく過程のことです。
- メタ分析
- メタ分析とは、同じテーマを扱う複数の研究結果を統計的に統合し、全体としての傾向を推定する研究手法のことです。
- 欲求フラストレーション
- 欲求フラストレーションとは、心理的欲求が満たされないだけでなく、積極的に妨げられていると感じる状態のことです。
よくある質問
-
Q基本的心理欲求とは何ですか?
-
A自己決定理論が挙げる、自律性・有能感・関係性という三つの欲求を指します。自分で選べている感覚、うまくやれている感覚、人とつながっている感覚で、これらが満たされることが心理的な成長や健やかさの土台になると考えられています。
-
Q欲求充足は合計点で測ってよいですか?
-
A本論文はまさにその点を検証課題に挙げています。三つをまとめた指標を使うことが適切かどうかを確かめており、実務でも合計点だけに頼らず、自律性・有能感・関係性を分けて見ておくのが安全です。
-
Qこの研究から因果関係は言えますか?
-
A慎重に読む必要があります。既存研究を統合したレビューであり、多くは変数間の関連を示すものです。欲求充足が成果をもたらしたのか、順調な状況が充足感を生んだのかを、この整理だけで結論づけることはできません。
原論文のライセンス: other-oa。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


