やる気の「量」より「質」が成果と健康を決める

やる気の「量」より「質」が成果と健康を決める (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Self-Determination Theory in Work Organizations: The State of a Science

Edward L. Deci, Anja H. Olafsen, Richard M. Ryan / Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior (2017年) / DOI: 10.1146/annurev-orgpsych-032516-113108

邦題(編集部訳): 職場組織における自己決定理論——科学の現在地

結論

自己決定理論の知見を職場に当てはめると、動機づけは強さではなく質で区別されます。自ら納得して動く自律的動機づけは、外圧や罪悪感で動く統制的動機づけよりも、質の高い成果と心身の良好さの双方につながるとされます。人事・研修担当にとっては、報酬や評価の設計を「どれだけ駆り立てるか」ではなく「有能感・自律性・関係性という三つの基本的心理欲求を満たせるか」で見直す視点が得られます。

働く人のやる気は、多いか少ないかではなく、どんな質かで結果が変わります。本論文は自己決定理論の研究を職場の文脈で整理し、自律的動機づけが成果の質と働く人のウェルビーイング(心身の良好な状態)の両方を支えることを論じます。さらに、変革型リーダーシップや職務特性、公正さ、報酬制度との関係も検討しています。

この論文の要点

  • 動機づけは強さではなく「自律的か統制的か」という質で分けて考えます
  • 有能感・自律性・関係性の三欲求の充足が自律的動機づけを支えます
  • 従業員のウェルビーイングと組織の成果は二者択一ではありません

研究の問い

職場の動機づけをめぐる議論は長らく、従業員の側に立ってウェルビーイングを語るか、経営の側に立って利益を語るか、どちらかに偏りがちでした。しかし現場の人事担当者が本当に知りたいのは、働く人が健やかであることと組織が高い成果を出すことを、同時に成り立たせる方法です。自己決定理論は、内発的動機づけと外発的動機づけの研究から出発し、職場を含む人生の多様な領域へ広がってきた人間の動機づけに関する包括的な理論です。本論文はその蓄積を職場の文脈で整理し直し、両立を可能にする制度・慣行・環境をどう設計するかという問いに答えようとしています。

調べ方

本論文は新たに調査を行った実証研究ではなく、自己決定理論に関するこれまでの研究知見を職場という文脈から整理・検討したレビュー論文です。著者らは、自律的動機づけ統制的動機づけの区別、および三つの基本的心理欲求という理論の中核を軸に据えたうえで、変革型リーダーシップ職務特性、公正さ、報酬のアプローチといった組織研究の主要テーマと自己決定理論との関係を検討しています。対象者やサンプル数といった調査の詳細は、抄録では明記されていません。

わかったこと

第一に、動機づけは質によって二つに分けて捉えられます。自律的動機づけは、活動そのものへの興味から生まれる内発的動機づけと、外から与えられた理由を十分に自分のものとして取り込んだ外発的動機づけからなります。一方の統制的動機づけは、外部からの圧力によるものと、罪悪感や自尊心の維持といった内側からの圧力によるものを含みます。同じ「やる気がある」状態でも、その中身はまったく異なるという整理です。

第二に、著者らはすべての従業員に有能感・自律性・関係性という三つの基本的心理欲求があると想定します。これらが満たされることが、自律的動機づけと、質の高いパフォーマンス、そして心身の良好さを促すと論じられています。

第三に、この枠組みは従業員の幸福と組織の利益を対立させる見方を乗り越える概念を提供します。著者らは、両方を同時に促す方針・慣行・環境を設計する指針として自己決定理論を位置づけ、変革型リーダーシップや職務特性、公正さ、報酬制度との接点を検討しています。

人事・研修担当への示唆

  • 研修の案内文を「義務・必須」から「なぜ自分に必要か」を伝える表現に書き換えてみてください
  • 目標設定面談で、担当者が自分で選べる範囲(進め方・順序)を一つ以上残す運用にしましょう
  • インセンティブ設計を見直す際、統制的動機づけを強める副作用がないか事前に点検してください

読むときの注意点

本論文は個別の調査結果ではなく、理論と研究群を整理したレビューです。示されているのは主に理論的な想定と関係性であり、特定の施策が特定の成果を生むという因果を保証するものではありません。また具体的な効果の大きさや対象範囲は抄録では明記されておらず、自社に当てはめる際は自組織での検証が必要です。

キーワード解説

自己決定理論
自己決定理論とは、人が何によって動機づけられるかを、自ら選んだ感覚の度合いから包括的に説明しようとする心理学の理論のことです。
自律的動機づけ
自律的動機づけとは、活動への興味や納得した理由にもとづいて、自ら進んで行動しようとする動機づけのことです。
統制的動機づけ
統制的動機づけとは、外部からの圧力や、罪悪感など内側からの圧力によって行動が駆り立てられている状態の動機づけのことです。
内発的動機づけ
内発的動機づけとは、報酬や評価のためではなく、その活動自体がおもしろい・やりがいがあると感じて取り組む動機づけのことです。
基本的心理欲求
基本的心理欲求とは、有能感・自律性・関係性という、人が健やかに機能するうえで満たされる必要があるとされる三つの欲求のことです。
変革型リーダーシップ
変革型リーダーシップとは、目指す姿を示して意味づけを与え、部下の意欲や成長を引き出そうとするリーダーシップのあり方のことです。
職務特性
職務特性とは、仕事の自律性や多様性、完結性など、その仕事そのものが備えている性質のことです。

よくある質問

Q
自己決定理論とは何ですか?
A
人間の動機づけを幅広く説明する理論で、内発的動機づけと外発的動機づけの研究から発展し、職場をはじめ人生の多様な領域へ広がってきました。動機づけの量ではなく質に注目し、有能感・自律性・関係性という三つの基本的心理欲求を中核に据えます。
Q
やる気が高ければ質は問わなくていい?
A
本論文の立場では区別が必要です。同じく意欲的に見えても、自律的動機づけと統制的動機づけでは中身が異なります。自律的動機づけの方が、質の高いパフォーマンスと働く人の良好な状態につながるとされています。
Q
従業員の幸福と会社の利益は両立しますか?
A
著者らは、従業員視点と経営視点のどちらかに偏ってきた従来の研究に対し、自己決定理論が両方を同時に促す方針・慣行・環境を設計するための概念を与えると論じています。ただし具体的な成果の大きさまでは抄録に示されていません。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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