
紹介する論文
Islamic Business Ethics, Muslim Feminism, and the Rhetorical Construction of Entrepreneurial Legitimacy: Evidence from Emirati Women
邦題(編集部訳): イスラーム・ビジネス倫理、ムスリム・フェミニズム、そして起業家的正当性のレトリック的構築——エミラティ女性からの証拠
結論
アラブ首長国連邦の女性起業家は、国が掲げる女性の活躍推進や国家発展の物語に自らの事業を重ねて語り、さらにイスラームの教えと商いの倫理を自ら読み直すことで、起業家としての正当性を築いていました。周囲を説得する言葉が効く前に、本人のなかで価値観を解釈し直す作業が必要になる。多様な背景の人材を預かる人事・研修担当にとって示唆的な知見です。
アラブ首長国連邦の女性起業家は、国の女性活躍推進や国家発展という大きな物語に自分の事業を重ね、起業家としての正当性を語りによって築いていました。同時に彼女たちは、イスラームの教えとビジネス倫理を自ら読み直し、女性が事業を営むことは倫理的で社会的責任のある行いだと位置づけていました。外向きの説得の前に、内側での解釈のやり直しがあったのです。
この論文の要点
- 国の女性活躍推進と国家発展の物語に、自分の事業を重ねて語っていました
- 首長国とイスラームの歴史に、女性の商いの先例を見いだしていました
- 宗教の教えを自ら読み直す作業が、外向きの説得の前提になっていました
研究の問い
アラブ首長国連邦では、女性の起業が国家的な変革の柱として国を挙げて推奨されています。しかし現実には、起業は男性の領域だとみなす家父長制的な規範が根強く残り、女性起業家が「起業家として認められている」状態、すなわち正当性は不安定で、たえず問い直されます。国の後押しという追い風と、性別にもとづく制約という向かい風が同時に吹くなかで、彼女たちは自分の事業をどう語り、周囲に認めさせているのか。宗教が生活と商いの前提になっている社会において、この問いはこれまで十分に検討されてきませんでした。
調べ方
著者らは、アラブ首長国連邦の女性起業家を対象に、深く掘り下げる質的インタビューを行い、その語りを分析しました。分析の枠組みには、組織研究で知られる Suddaby and Greenwood のレトリック的正当化の枠組みを用い、そこにイスラーム・ビジネス倫理とムスリム・フェミニズムの視点を組み合わせています。何人に、どの地域で、どの期間聞き取ったかといった調査の詳細は、抄録では明記されていません。
わかったこと
女性起業家たちは、国が掲げる女性の活躍推進と国家発展の物語に自分の事業を結びつけ、「国の未来に貢献する仕事」として位置づけていました。これは目的論的戦略、つまり大きな目的への貢献を示すレトリック戦略にあたります。加えて、グローバル化という世界の流れに自らを重ねる語りや、首長国とイスラームの歴史のなかに女性の商業活動の先例を見いだす語りも用いられていました。
さらに注目されるのは、ムスリム・フェミニズムの視点から、イスラーム・ビジネス倫理の原則を自ら読み直していた点です。彼女たちは宗教的な教えを、女性の主体性を認め、倫理的で社会的責任のある事業を支えるものとして解釈し直し、その解釈を土台に「自分は何者か」「何を大切にするか」を語っていました。
著者らは、家父長制的で宗教的な文脈では、こうした解釈の主体性が先にあってはじめて、外向きの語りが正当性として機能すると論じています。
人事・研修担当への示唆
- 多様な信仰・文化背景の社員には、制度を伝える前に、その価値観のなかで本人が納得できる意味づけを持てているか確かめましょう
- 女性リーダー育成では、外向きの発信スキルより先に、本人が自分の役割を正当だと解釈し直せる対話の場を用意しましょう
- 海外拠点の登用施策は、本社の平等観をそのまま持ち込まず、現地の歴史や規範のなかで語れる根拠を一緒に探しましょう
読むときの注意点
語りを丁寧に読み解く質的な研究であり、統計的に一般化できる調査ではありません。対象はアラブ首長国連邦の女性起業家に限られ、別の宗教的・文化的文脈にそのまま当てはまるとは限りません。また、語り方が事業の成功をもたらしたという因果関係を示したものではない点にも注意が必要です。
キーワード解説
- 正当性
- 正当性とは、ある活動や立場が、周囲の人々から「それは適切でもっともなことだ」と認められている状態のことです。
- レトリック戦略
- レトリック戦略とは、自らの活動を社会に認めてもらうために、どんな理由づけや語り方を選ぶかという説得の型のことです。
- 目的論的戦略
- 目的論的戦略とは、自分の活動をより大きな目的や社会全体の利益への貢献として語り、その正しさを示す説得の型のことです。
- イスラーム・ビジネス倫理
- イスラーム・ビジネス倫理とは、イスラームの教えにもとづいて、商いにおける公正さや誠実さ、社会に対する責任のあり方を定める考え方のことです。
- ムスリム・フェミニズム
- ムスリム・フェミニズムとは、イスラームの信仰を保ちながら、その教えを女性の権利や主体性を認める方向で読み直そうとする立場のことです。
- 解釈の主体性
- 解釈の主体性とは、教えや規範を与えられたまま受け取るのではなく、自分の立場から意味を読み直していく力のことです。
- 家父長制
- 家父長制とは、男性が家庭や社会の決定権を持つことを当然とし、女性の役割を限定する社会の仕組みや通念のことです。
- 質的インタビュー
- 質的インタビューとは、数値ではなく本人の語りそのものを集め、その意味を丁寧に読み解いていく調査方法のことです。
よくある質問
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Qイスラーム圏では女性は起業しにくいのですか?
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Aこの研究の舞台であるアラブ首長国連邦では、国家的な変革の柱として女性の起業が推奨されています。一方で、起業は男性の領域だとみなす規範も残っており、後押しと制約が同時に存在する状況だと著者らは述べています。
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Qレトリック的正当化とは何ですか?
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A自分の活動を社会に認めてもらうために、どのような理由づけで語るかという説得の型を整理した考え方です。この研究では、国の発展目的に結びつける語り、世界の流れに重ねる語り、歴史に先例を求める語りなどが確認されています。
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Qこの研究は日本の職場にも応用できますか?
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A対象はアラブ首長国連邦の女性起業家に限られるため、そのまま当てはめることはできません。ただし、外向きの説明を用意する前に、本人が自分の役割を納得できる形で意味づけられているかを問う視点は、多様な人材を扱う場面で参考になります。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


