
紹介する論文
What Next for Equality, Diversity and Inclusion? Moral Responsibility and Ethical Practice in EDI
邦題(編集部訳): 公正・多様性・包摂(EDI)の次に来るものは何か:EDIにおける道徳的責任と倫理的実践
結論
この論文は、多様性の実践を扱った一冊の本を読み解く書評論文です。組織研究では多様性と倫理を結びつけた議論が意外なほど少ないと著者は指摘します。企業の経営層や政治家が多様性の取り組みに疑問を示すなかで、この空白は放置できないと論じています。人事担当者にとっては、施策の意義を「組織としてどんな責任を負うか」という観点から説明し直すきっかけになります。
多様性・公正・包摂(EDI)への逆風が強まっています。それなのに、その取り組みを倫理の問題として捉え直す視点は、研究の世界でもまだ足りていません。本稿は、多様性の「実践」を論じた一冊を手がかりに、そう指摘する書評論文です。画一化を求める圧力や、多様な人が集まれる場が失われていく動きに抗うことに注目し、急いで取り組むべき研究の方向を示しています。
この論文の要点
- 組織研究では、多様性と倫理を結びつけた議論が意外なほど少ない
- 経営層や政治家が多様性を疑問視するなかで、その空白が問題になっている
- 画一化の圧力に抗うことに注目し、急いで取り組むべき研究課題を示している
研究の問い
近年、多様性に関する考え方や取り組みは、大企業の経営層や、現職の政治家、政治家を目指す人たちから公然と疑問視されるようになっています。ところが著者によれば、組織研究の分野では、多様性と倫理が重なる領域についての議論がほとんど見当たりません。EDI(公正・多様性・包摂)の取り組みが批判されたとき、倫理の面から意義を語るための土台が弱いままでは、反論も見直しも場当たり的になりかねません。多様性を道徳的責任や倫理的な実践の問題として考え直す必要がある、というのが本稿の問題意識です。
調べ方
本稿は、データを集めて検証する実証研究ではなく、書評論文(レビュー・エッセイ)です。Maddy Janssens と Chris Steyaert による著書『On Practising Diversity』を読み解き、それを手がかりに多様性と倫理の関係について考察しています。特定の調査対象者や企業を分析したものではなく、取り上げた事例や議論の詳しい進め方は抄録では明記されていません。
わかったこと
第一に、著者は、組織研究のなかで多様性と倫理を正面から結びつけた議論が驚くほど少ないことを出発点にしています。多様性への疑問が経営層や政治の場から公然と出てくるようになった現在、この欠落は特に深刻になりつつあると論じています。
第二に、書籍を読み解くなかで、多様性を掲げるだけの理念ではなく日々の「実践」として捉え、そこに道徳的責任がどう関わるのかを考える視点が示されていると読み取れます。
第三に、結論部分では、画一性を押しつける力や、多様な人が集まれる場が閉ざされていく動きに対して、抵抗とはどのようなものかを考察しています。そのうえで、こうした状況に向き合う研究課題は差し迫っており、急いで取り組むべきだと提起しています。ただし、研究課題の具体的な中身や書籍の詳しい主張は、抄録では明記されていません。
人事・研修担当への示唆
- 自社のEDI施策について、事業上の効果だけでなく「組織として負う道徳的責任」から目的を言葉にし、社内向けの説明資料に加える
- 外部からの逆風を受けて施策を縮小・見直すときは、従業員グループや相談窓口など、多様な人が集まれる場が失われないかを事前に点検する
- 管理職研修で、多様性を理念として学ぶだけでなく、日々の判断や行動を倫理の観点から振り返る時間を設ける
読むときの注意点
本稿は一冊の書籍を読み解く書評論文で、データを使って効果や因果関係を確かめたものではありません。抄録からは、示された研究課題の具体的な内容や、議論が想定している国や組織の範囲はわかりません。「こうすれば多様性施策を守れる」という処方箋としてではなく、自社の取り組みを考え直すための視点として読むのが適切です。
キーワード解説
- 書評論文
- 書評論文とは、特定の書籍を読み解き、その内容を紹介・批評しながら、関連する研究分野の論点や課題を論じる論文のことです。
- 実証研究
- 実証研究とは、アンケートや観察、記録などのデータを集めて分析し、仮説や主張が現実に当てはまるかを確かめる研究のことです。
- EDI
- EDIとは、公正(Equality)、多様性(Diversity)、包摂(Inclusion)の頭文字を取った言葉で、誰もが公平に扱われ、組織に受け入れられることを目指す考え方や取り組みのことです。
- 道徳的責任
- 道徳的責任とは、法律や規則で義務づけられているかどうかに関係なく、人や組織が倫理的に正しいことをすべきだとして負う責任のことです。
- 画一性
- 画一性とは、人の考え方や属性、ふるまいが一つの型にそろえられ、違いが認められにくくなっている状態のことです。
- 抵抗
- 抵抗とは、組織や社会から加わる圧力や変化に対して、個人や集団が反対したり、それとは別のやり方を守ろうとしたりする行動のことです。
- 研究課題
- 研究課題とは、ある分野でまだ十分に解明されておらず、今後の研究で取り組むべきだとされる問いやテーマのことです。
よくある質問
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Q多様性施策が批判される今、倫理の視点はなぜ必要?
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Aこの論文によると、多様性の取り組みは経営層や政治家から疑問視されるようになっています。それなのに、組織研究では多様性と倫理を結びつけた議論が少ないままです。倫理の面から意義を語る土台がないと、批判にしっかり応えられないという問題意識が示されています。
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Qこの論文は多様性施策の効果を検証したもの?
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Aいいえ。本稿は一冊の書籍を読み解く書評論文で、データを集めて施策の効果や因果関係を確かめた実証研究ではありません。多様性と倫理の関係を考えるための視点や、今後の研究の方向を示す内容です。
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QEDIへの逆風に人事は何から取り組めばいい?
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Aこの論文は具体的な手順までは示していません。ただ、その主張からは、施策の目的を組織の道徳的責任という観点から言葉にすることが考えられます。あわせて、見直しの際に多様な人が集まれる場が失われないかを点検することも、手がかりになります。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


