
紹介する論文
From Creativity to Innovation: The Social Network Drivers of the Four Phases of the Idea Journey
邦題(編集部訳): 創造性からイノベーションへ:アイデア・ジャーニーの4つの局面を動かすソーシャルネットワーク要因
結論
アイデアは思いついた瞬間に完成するのではなく、生成・精緻化・推進・実装という4つの局面を進みます。各局面で必要になるものは異なり、ある局面に効く人脈の性質が別の局面では妨げになる、と著者らは論じます。人事・研修担当にとっては、創造性の支援を一律の施策で済ませず、局面に応じて支援内容と人のつなぎ方を切り替える設計に変える必要がある、という示唆になります。
良いアイデアが形になるかどうかは、思いつきの質だけで決まるわけではありません。この論文は、アイデアが着想から完成へ至る道のりを4つの局面に分けて捉え、局面ごとに必要な支えと人のつながりが変わることを理論的に示しました。しかも、ある局面で有利なつながりは、別の局面では足かせになります。だからこそ担い手は、局面に応じて物事の捉え方を切り替える必要がある、と提案しています。
この論文の要点
- アイデアは生成・精緻化・推進・実装という4つの局面を進む
- 局面ごとに必要なのは認知的柔軟性、支援、影響力、共有ビジョン
- ある局面に効く人脈は別の局面では妨げになり、捉え方の切り替えが要る
研究の問い
新しいアイデアが生まれ、実際に形になるまでには、仕事上の人間関係のつながり、すなわちソーシャルネットワークが大きく関わると考えられてきました。ところが研究が増えるほど、結果は食い違ってきました。幅広く薄いつながりが有利だという主張もあれば、強く密なつながりが効くという主張もあります。著者らは、この食い違いの原因を、創造性を「アイデアを思いつく瞬間」だけで捉えてきたことに求めます。実際のアイデアは、思いついた後も長い道のりを進みますが、その途中の局面は十分に扱われてきませんでした。そこでアイデア・ジャーニーという捉え方を導入し、理論的な緊張関係を整理し直そうとしました。
調べ方
この論文は、データを集めて分析した実証研究ではなく、既存の理論と知見を整理して新しい枠組みを組み立てる理論研究です。著者らは、アイデアが着想から完成に至る過程を、アイデア生成、アイデア精緻化、アイデア推進、アイデア実装という4つの局面に分けて概念化しました。そのうえで、各局面で創造の担い手が主に何を必要とするか、そして本人のネットワークの関係的な性質と構造的な性質がその必要とどう噛み合うかを、検証可能な命題の形で提示しています。調査対象者や分析データの詳細は、理論構築を目的とする論文であるため抄録では示されていません。
わかったこと
著者らは、アイデアが形になるまでの道のりを4つの局面に分け、局面ごとに主に必要になるものが異なると述べます。アイデア生成で要るのは、異なる見方を行き来できる認知的柔軟性です。アイデア精緻化では、粗い思いつきを練り上げるための支援が要ります。アイデア推進では、周囲を動かす影響力が、アイデア実装では、関係者が同じ絵を描けている共有ビジョンが要ります。
そして、担い手の人脈の関係的な性質(つながりの強さや親密さ)と構造的な性質(誰と誰がつながっているかという形)が、その局面の必要と噛み合ったときに、次の局面へ進めると論じます。
重要なのは、ある局面で役立つネットワークの性質が、別の局面では足を引っ張るという指摘です。ここに矛盾が生じます。著者らは、この矛盾を解く鍵を、担い手が局面ごとに解釈や捉え方の枠組みを切り替えることに求めます。枠組みが変わることで、その時々に適したつながりを呼び出せるようになり、アイデア・ジャーニーを最後まで進められる、という提案です。
人事・研修担当への示唆
- 新しい提案を評価する前に、そのアイデアが今どの局面にいるかを本人と確認し、支援の中身を切り替えましょう
- アイデア精緻化の段階では、批評する役よりも、粘り強く伴走する支援者を意図的に割り当てましょう
- 社内提案制度では、アイデア推進の局面で決裁者に届く後ろ盾を紹介する仕組みを用意しましょう
読むときの注意点
この論文はデータを分析した実証研究ではなく、理論を組み立てて命題を示した研究です。書かれている関係は今後検証されるべき仮説であり、効果の大きさや、どの職種・組織で当てはまるのかは抄録では明記されていません。また、個人の創造の担い手を中心に据えた視点である点にも注意が要ります。自社の実情に合わせて読み替えてください。
キーワード解説
- アイデア・ジャーニー
- アイデア・ジャーニーとは、思いつきが生まれてから、周囲に受け入れられ形として実を結ぶまでの一連の道のりのことです。
- アイデア生成
- アイデア生成とは、既存の見方にとらわれず、新しくて役に立つ着想を思いつく段階のことです。
- アイデア精緻化
- アイデア精緻化とは、粗い着想を検討し直し、具体的で実行できる形へと練り上げていく段階のことです。
- アイデア推進
- アイデア推進とは、練り上げた案を周囲や決裁者に働きかけ、支持と資源を引き出していく段階のことです。
- アイデア実装
- アイデア実装とは、支持を得た案を実際の製品や仕組みとして形にし、現場で使える状態にする段階のことです。
- 認知的柔軟性
- 認知的柔軟性とは、一つの見方に固執せず、視点や枠組みを切り替えながら物事を捉え直せる力のことです。
- 共有ビジョン
- 共有ビジョンとは、関わる人たちが目指す姿や目的について、同じ絵を思い描けている状態のことです。
よくある質問
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Qアイデア・ジャーニーとは何ですか?
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Aアイデアが思いつかれてから、形あるものとして実を結ぶまでの道のりのことです。この論文では、生成、精緻化、推進、実装という4つの局面に分けて捉えます。創造性を「ひらめきの瞬間」だけで見ないようにするための考え方です。
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Qなぜ人脈と創造性の研究結果は食い違うのですか?
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A局面によって必要なつながりが違うためだと著者らは説明します。ある局面で役立つネットワークの性質が、別の局面では妨げになります。そのため、どの局面を対象に調べたかによって結論が変わってしまう、という整理です。
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Qアイデアを最後までやり切る人の特徴は?
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A局面ごとに自分の捉え方の枠組みを切り替え、その時に必要なつながりを使い分けられることだと論じられています。実務では、提案者が今どの局面にいるかを見立てて、支援の中身や紹介する相手を変えることが手がかりになります。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


