心理的安全性は何が育て、何を高めるのかを総合検証

心理的安全性は何が育て、何を高めるのかを総合検証 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Psychological Safety: A Meta‐Analytic Review and Extension

M. Lance Frazier, Stav Fainshmidt, Ryan Klinger, Amir Pezeshkan, Veselina Vracheva / Personnel Psychology (2016年) / DOI: 10.1111/peps.12183

邦題(編集部訳): 心理的安全性:メタ分析によるレビューと拡張

結論

多数の研究を統合したメタ分析によって、心理的安全性を育てる先行要因と、そこから生まれる成果の全体像が整理されました。心理的安全性は、上司との良い関係やワーク・エンゲイジメントといった近い概念とは別に、職務業績や組織市民行動と結びつくことが示されています。人事・研修担当にとっては、どの打ち手から手をつけるかを効果の大きさで考える土台になります。

心理的安全性についての研究は数多く積み上がってきましたが、何がそれを生み、どこまで成果につながるのかは散らばったままでした。本研究は既存の理論と実証研究を統合し、先行要因と結果を一枚の地図として描き直しています。さらに、近い概念を差し引いても効果が残るか、研究デザインや国民文化で結果が変わるか、個人と集団で同じ構図が成り立つかまで検討しています。

この論文の要点

  • 心理的安全性の先行要因と成果を、統合的な地図として整理しました
  • 近い概念を考慮しても職務業績や組織市民行動との関連が検討されています
  • 研究デザインや国民文化という調整要因の影響も確認されています

研究の問い

心理的安全性、つまり職場で率直に発言しても罰せられないと感じられる状態は、近年多くの研究で扱われ、その重要性を支える実証結果も蓄積されてきました。しかし個々の研究は対象も測り方もばらばらで、結局どの働きかけが心理的安全性を最も高めるのか、上司との良好な関係など似た概念と切り離しても成果に効くのか、といった問いは未解決のまま残されていました。研究の文脈が違えば結果も変わるのか、個人単位とチーム単位で同じ構図が成り立つのかもはっきりしていません。そこで本研究は、散在する知見を束ね直し、心理的安全性の全体像を描くことを目的としています。

調べ方

著者らは、心理的安全性に関する理論研究と実証研究を集約し、独立した136のサンプルを対象にメタ分析を行いました。対象には2万人を超える個人と、5千近い集団が含まれます。メタ分析とは、多数の研究結果を統計的に統合して全体傾向を推定する手法です。分析では、先行要因と結果を体系として描いたうえで、先行要因どうしの効果の大きさを比較し、研究デザインの特徴や国民文化が関係の強さを変える調整要因になるかを検証し、さらに個人と集団という分析レベルの間で効果の大きさがそろうかを確かめています。

わかったこと

まず、心理的安全性を取り巻く先行要因と成果の関係が、ひとつながりの体系として整理されました。従来は個別に報告されてきた関係が同じ土俵に並び、どの要因がどの程度効くのかを相対的に比較できる形になっています。ただし、どの先行要因が最も強いかという具体的な順位までは、抄録では明記されていません。

次に、心理的安全性は、上司との良好な関係やワーク・エンゲイジメントといった隣接する概念を考慮に入れたうえでも、職務業績や組織市民行動と関連するかどうかが検討されました。心理的安全性を、他の良い状態の言い換えではなく独自の意味を持つ変数として位置づける検討です。

さらに、研究デザインの特徴や国民文化によって関係の強さが変わるかという調整要因の検証、そして個人と集団という分析レベルをまたいで同じ構図が成り立つかという検証も行われています。文脈を踏まえた理解が必要であることが示唆されており、著者らは今後掘り下げるべき論点も挙げています。

人事・研修担当への示唆

  • 心理的安全性の施策は、効果の大きい先行要因から優先順位をつけて設計しましょう
  • エンゲージメント調査とは別に、率直に発言できるかを問う設問を独立して測りましょう
  • 海外拠点に施策を展開する際は、国民文化で効き方が変わる前提で運用を調整しましょう

読むときの注意点

メタ分析は既存研究を統合した結果であり、多くは同時点で測られた相関に基づくため、心理的安全性が成果を引き起こしたと因果として読むことはできません。効果の大きさの比較や、文化・分析レベルによる違いについても、抄録に具体的な数値や順位は示されていません。自社への当てはめは、原論文と自組織のデータで確かめる姿勢が必要です。

キーワード解説

心理的安全性
心理的安全性とは、職場で率直に意見を述べたり失敗を認めたりしても、罰や否定的な評価を受けないと感じられる状態のことです。
メタ分析
メタ分析とは、同じテーマを扱った多数の研究結果を統計的に統合し、全体としての傾向や関係の強さを推定する手法のことです。
先行要因
先行要因とは、ある状態や行動を生み出す原因側に位置づけられる条件のことで、施策を設計する際の働きかけ先になります。
職務業績
職務業績とは、担当する仕事で求められる役割をどれだけ果たせたかを示す成果のことです。
組織市民行動
組織市民行動とは、職務として求められてはいないものの、同僚や組織の役に立つ自発的な行動のことです。
調整要因
調整要因とは、二つの変数の関係の強さや向きを変化させる第三の条件のことで、文脈による効き方の違いを説明します。
分析レベル
分析レベルとは、個人・チーム・組織のうちどの単位でデータを捉え解釈するかという枠組みのことです。

よくある質問

Q
心理的安全性は業績につながりますか?
A
本研究では、上司との良好な関係やワーク・エンゲイジメントといった近い概念を考慮したうえでも、心理的安全性が職務業績や組織市民行動と関連するかが検討されています。ただし統合されたのは主に相関関係であり、因果としてそのまま読むことはできません。
Q
何をすれば心理的安全性は高まりますか?
A
本研究は複数の先行要因を同じ土俵に並べ、効果の大きさを比較できる形に整理しています。どの要因が最も強いかという順位は抄録では明記されていないため、原論文を確認しつつ、自社で働きかけやすい要因から検証することをおすすめします。
Q
海外拠点でも同じように使えますか?
A
本研究は国民文化や研究デザインの特徴が調整要因として関係の強さを変えるかを検証しており、文脈を踏まえた理解が必要だと位置づけています。国内で効いた施策をそのまま移植するのではなく、拠点ごとに効果を測りながら調整するのが安全です。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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