企業は気候変動を「いつもの業務」に変えていく

企業は気候変動を「いつもの業務」に変えていく (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

An Inconvenient Truth: How Organizations Translate Climate Change into Business as Usual

Christopher Wright, Daniel Nyberg / Academy of Management Journal (2016年) / DOI: 10.5465/amj.2015.0718 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): 不都合な真実——組織はいかにして気候変動を通常業務へと変換するのか

結論

オーストラリアの主要企業5社を10年にわたって追った事例研究から、企業は気候変動という大きな課題を、フレーミング・局所化・常態化という3つの段階を経て通常業務の一部へと作り替えていくことが示されました。環境施策が時間とともに勢いを失っていく仕組みが見えるため、人事・研修担当は自社の取り組みが形だけのものになっていないかを点検する視点を持てます。

気候変動への対応を高く掲げた企業が、いつのまにか元どおりの事業運営に戻っていく——本研究はその過程を内側から追いました。企業は課題を自社にとっての問題として枠づけ、部門ごとの施策に落とし込み、やがて日常の手順として当たり前のものに変えていきます。著者らは、社内外から寄せられる批判こそが、この変換を進める主な原動力だと指摘しています。

この論文の要点

  • 気候変動対応は、フレーミング・局所化・常態化の3段階で通常業務へと変換されます
  • 批判が、大きな課題と事業上の要請の緊張を繰り返し露わにし、変換を前に進めます
  • 企業任せ・市場任せの気候対策には政策上の限界があると著者らは述べます

研究の問い

気候変動は人類が直面する最も大きな課題の一つとされます。二世紀ほどの産業発展のなかで大気と海洋の化学組成は変わり、深刻な影響が生じてきました。企業はこの課題の中心にあり、温室効果ガスの排出を増やす側であると同時に、経済の脱炭素化を進める革新の担い手でもあります。では実際のところ、企業は気候変動にどう応えているのでしょうか。掲げられた理念や目標が、なぜ時間の経過とともに通常業務のなかへ溶けていくのか。その変換の過程を長期にわたって描き出すために、本研究は行われました。

調べ方

著者らは、オーストラリアの主要企業5社を対象に、2005年から2015年までの10年間にわたる詳細な事例研究を行いました。長い時間をかけて企業内部の動きを追い、そこから理論を組み立てていく手法をとっています。集めた資料をもとに、気候変動が企業のなかで扱われ方を変えていく道筋を、フレーミング・局所化・常態化という3つの段階として整理し、モデルにまとめました。調査手続きのより細かい内容は、抄録では明記されていません。

わかったこと

企業のなかでの気候変動の扱われ方には、3つの段階がありました。第一のフレーミングでは、気候変動という広大な課題が、自社にとって意味のある問題として枠づけられます。第二の局所化では、その枠づけが特定の部門や個別の取り組みへと落とし込まれ、担当や仕組みが割り当てられます。第三の常態化では、それが日々の手順や報告の一部となり、当初あった変革的な意味合いが薄れて通常業務に近づいていきます。

著者らは、この一連の変換を推し進める主な原動力が批判だと述べています。批判は、大きな課題が求めるものと事業上の要請とのあいだにある緊張を、繰り返し表に出します。企業はその緊張に応えようとして課題を扱いやすい形へと作り替え、結果として革命的だったはずの含意が穏当なものへと変わっていきます。ここから、企業の環境への取り組みが時間とともに衰えていく理由が説明されます。

人事・研修担当への示唆

  • サステナビリティ研修が常態化して形だけになっていないか、年に一度は内容と目標を見直しましょう
  • 社内の批判や異論を封じず、施策の緊張点を表に出す場として対話や研修に組み込みましょう
  • 気候関連の施策を担当部門に局所化して終わらせず、経営指標や人事評価に紐づけて追跡しましょう

読むときの注意点

対象はオーストラリアの主要企業5社であり、業種や国が違えば経過は異なりえます。事例研究は過程を厚く描く方法である一方、原因と結果を数量的に確かめるものではありません。また、批判が変換を進めるという説明は著者らの解釈であり、企業や市場に頼る気候対策の限界という指摘も、その文脈での主張として読む必要があります。

キーワード解説

フレーミング
フレーミングとは、ある出来事や課題を、どのような問題として捉えるかという枠組みを与える営みのことです。
局所化
局所化とは、組織全体に関わる大きな課題を、特定の部門や個別の施策といった扱いやすい範囲へ落とし込むことです。
常態化
常態化とは、当初は特別だった取り組みが日常の手順に組み込まれ、当たり前のものとして扱われるようになることです。
事例研究
事例研究とは、少数の組織や出来事を深く掘り下げ、その過程や文脈から理解を組み立てていく調査方法のことです。
批判
批判とは、組織の方針や実際の行いに対して、外部や内部から向けられる異議や問いかけのことです。
通常業務
通常業務とは、組織が普段どおりに続けている事業運営や、日々の仕事の進め方そのもののことです。
温室効果ガス
温室効果ガスとは、大気中で熱を閉じ込め、地球の気温上昇に関わるとされる二酸化炭素などの気体のことです。

よくある質問

Q
企業の環境への取り組みはなぜ長続きしないのですか?
A
本研究によれば、気候変動という大きな課題が、自社の問題として枠づけられ、特定の部門に落とし込まれ、やがて日常の手順になっていくためです。この過程で当初の変革的な意味合いが薄れ、取り組みは通常業務に近づいていきます。
Q
フレーミング・局所化・常態化とは何ですか?
A
著者らが見いだした、企業が気候変動を扱う3つの段階です。フレーミングは課題を自社の問題として枠づける段階、局所化は部門や個別施策へ落とし込む段階、常態化は日々の手順として当たり前になる段階を指します。
Q
この研究はどんな企業を調べたのですか?
A
オーストラリアの主要企業5社を対象に、2005年から2015年までの10年間にわたって詳しく追った事例研究です。業種の内訳など、それ以上の詳細は抄録では明記されていません。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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