
紹介する論文
Crises and Crisis Management: Integration, Interpretation, and Research Development
邦題(編集部訳): 危機と危機管理:統合、解釈、そして研究の展開
結論
危機に関する研究は、組織の内部で危機がどう進むかを見る視点と、外部のステークホルダーにどう向き合うかを見る視点に分かれて発展してきました。著者らは両者に共通する土台があると論じ、これらを結ぶ統合フレームワークを提示します。人事・研修担当にとっては、危機対応を広報だけの仕事とせず、社内の意思決定や情報共有と一体で設計すべきだという示唆になります。
組織の危機については長く研究が積み重ねられてきましたが、分野ごとにばらばらで全体像がつかみにくい状態でした。この論文は、危機を扱う研究には「組織の内部で何が起きているか」を見る流れと「社外の関係者にどう向き合うか」を見る流れの二つがあると整理します。そのうえで両者に共通する概念を洗い出し、ひとつの枠組みとして結び直すことを提案しています。
この論文の要点
- 危機研究は分野ごとに断片化し、全体の結論が見えにくかった
- 文献には「内部の力学」と「外部対応」の二つの主要な視点がある
- 両者に共通点があるとして、橋渡しする統合フレームワークを提示
研究の問い
組織における危機と危機管理は、長く関心を集めてきたテーマです。危機の先行要因、危機がもたらす結果、そして危機管理の進め方について、多くの重要な知見が積み重ねられてきました。しかし著者らは、この領域の研究が分野ごとに断片化していると指摘します。戦略論、組織理論、組織行動論、さらにパブリック・リレーションズやコーポレート・コミュニケーションといった異なる系譜が、それぞれの言葉で危機を語ってきたためです。その結果、この分野の中核的な結論は何か、まだ解けていない問題はどこにあるのか、次にどこへ進むべきかが見えにくくなっていました。本論文は、こうした分断を橋渡しする枠組みを示そうとしています。
調べ方
本論文は、新しくデータを集めて仮説を検証した実証研究ではなく、既存の研究を読み解いて枠組みをつくる理論的なレビューです。著者らは、戦略論・組織理論・組織行動論の研究に加え、パブリック・リレーションズやコーポレート・コミュニケーションの研究もあわせて参照しています。そこから文献に流れる二つの主要な視点を取り出し、それぞれの中核概念を確認したうえで、両者を結ぶ統合フレームワークを組み立てるという進め方です。レビュー対象とした文献の件数や範囲は、抄録では明記されていません。
わかったこと
著者らは、危機を扱う研究には大きく二つの視点があると整理します。ひとつは、危機が組織のなかでどのように生まれ、進行していくかに注目する視点です。ここでは危機の先行要因や、組織内部の力学といったテーマが扱われます。もうひとつは、危機のさなかに外部のステークホルダーとどう向き合うかに注目する視点で、危機コミュニケーションが中心的な関心になります。
この二つはこれまで別々の文献として発展してきましたが、著者らは両者を突き合わせると共通する部分が少なくないと指摘します。それぞれの視点の中核概念を確認したうえで、共通点を手がかりに両者を同じ土俵に載せるのが、本論文の提示する統合フレームワークです。組織理論や組織行動論の知見と、コミュニケーション研究の知見が、別々の話ではなくひとつながりのものとして扱えるようになります。
最後に著者らは、この枠組みを使って、危機と危機管理に関心をもつ研究者が次に取り組むべき方向性を提案しています。なお、各視点に含まれる個別の概念名までは、抄録では具体的に列挙されていません。
人事・研修担当への示唆
- 危機対応マニュアルを広報部門だけに任せず、現場の判断と情報共有の設計まで含めて見直す
- 危機管理研修は「対外説明の作法」と「社内で何が起きるか」の両方を扱う構成にする
- 想定訓練では、社外のステークホルダーごとに誰が何を伝えるかを事前に決めておく
読むときの注意点
本論文はデータで仮説を検証した研究ではなく、既存文献を整理して枠組みを示す理論的なレビューです。提示された統合フレームワーク自体が実証されたわけではない点に注意が必要です。また、レビューの対象範囲や、どの国・業種の研究が中心かは抄録では明記されていないため、自社の状況にどこまで当てはまるかは個別に判断してください。
キーワード解説
- 危機管理
- 危機管理とは、組織に深刻な損害をもたらしうる出来事に備え、実際に起きた際の対応と事後の立て直しまでを含めて計画的に進める取り組みのことです。
- 先行要因
- 先行要因とは、ある出来事や状態が生じる前に存在し、その発生に影響を与えていたと考えられる条件や要素のことです。
- ステークホルダー
- ステークホルダーとは、顧客、従業員、取引先、投資家、地域社会など、組織の活動から影響を受けたり組織に影響を与えたりする関係者のことです。
- 危機コミュニケーション
- 危機コミュニケーションとは、危機の最中や直後に、組織が外部の関係者に向けて状況や対応方針を伝え、理解と信頼を保とうとする活動のことです。
- 統合フレームワーク
- 統合フレームワークとは、별々に発展してきた複数の研究の流れを、共通する概念を手がかりにひとつの見取り図としてまとめ直した枠組みのことです。
- 組織理論
- 組織理論とは、組織がどのような構造を持ち、環境とどう関わりながら成り立っているのかを説明しようとする学問領域のことです。
- 組織行動論
- 組織行動論とは、組織のなかで働く個人や集団の行動や心理を扱い、その仕組みを明らかにしようとする学問領域のことです。
よくある質問
-
Q危機管理の研究は何が問題だったのですか?
-
A研究が分野ごとに断片化していた点です。戦略論や組織理論、組織行動論、広報・コミュニケーション研究がそれぞれ別の言葉で危機を論じてきたため、この分野の中核的な結論や未解決の問題が見えにくくなっていました。
-
Q二つの視点とは具体的に何ですか?
-
Aひとつは危機が組織の内部でどう生まれ進行するかに注目する視点、もうひとつは危機のさなかに外部のステークホルダーとどう向き合うかに注目する視点です。著者らはこの二つに共通点があるとして、結び直すことを提案しています。
-
Q人事担当はこの論文をどう使えますか?
-
A危機対応を広報だけの仕事と切り分けず、社内の意思決定や情報共有と一体で設計する根拠になります。危機管理研修を組む際も、対外説明の作法と社内で実際に起きることの両方を扱う構成が妥当だと考えられます。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


