
紹介する論文
Human and chimpanzee leaders are more risk-loving
邦題(編集部訳): 人間とチンパンジーのリーダーはリスクを好む傾向が強い
結論
ドイツの人を対象にした調査データとチンパンジーの観察記録の両方で、リスクをいとわない傾向が強いほど、リーダーの立場や群れの中の高い順位にあるという関連が見られました。ただしこれは相関で、リスク好きだからリーダーになるとまでは言えません。人事・研修担当にとっては、リーダー候補を見極めるときに「リスクへの姿勢」を観点の一つとして意識しながら、大胆さばかりを評価する偏りに気をつけるための材料になります。
「リーダーはリスクを取る人だ」という通説は、これまで実際のデータではほとんど確かめられていませんでした。この研究では人間とチンパンジーの両方を調べ、リスクを好む傾向とリーダーの立場や順位との間に、どちらの種でもプラスの関連があることを示しました。関連はチンパンジーのほうがはっきりしていました。著者らは、リーダーとリスクを取ることの結びつきには進化上の古い起源があるのかもしれないと考えています。
この論文の要点
- 人間でもチンパンジーでも、リスクを好む個体ほどリーダーや高い順位にある傾向
- リーダーとリスク選好の結びつきは、人間よりチンパンジーのほうが強い
- 人間では収入とも関連があり、両種ともオスや男性のほうがリスクを好む傾向
研究の問い
リーダーシップ(集団を率いる役割や影響力)とリスクを取る姿勢は、切り離せないものとしてよく語られます。経営の現場でも「思い切った決断ができる人がリーダーに向いている」と考えられがちです。ところが、この結びつきが本当にあるのかどうかは、人間でも他の動物でも、データを使ってほとんど確かめられていませんでした。さらに、もしこの関係が人間だけでなく近い種にも見られるなら、文化や制度だけでは説明しきれない、より根本的な性質だと言えるかもしれません。そこで著者らは進化的視点(生物が長い時間をかけて獲得してきた性質として捉える見方)から、人間とチンパンジーを並べて調べることにしました。
調べ方
人間については、ドイツで長期間続けられている大規模なパネル調査(同じ人に繰り返し回答してもらう調査)であるドイツ社会経済パネルのデータを分析し、リスク選好とリーダーの立場との関係を調べました。チンパンジーについては、アフリカにある2か所の保護施設で、世話をする人などによる観察者評価を使い、個体ごとのリスク選好と群れの中での階層的順位との関係を調べました。対象者・対象個体の数や、リスク選好の具体的な測り方は、抄録では明記されていません。
わかったこと
まず、人間では、リスクを取ることに前向きな人ほどリーダーの立場にある傾向が見られました。チンパンジーでも、リスクを好む個体ほど群れの中の階層的順位が高いという、同じ向きの関連が確認されました。
ただし、関連の強さは種によって違いました。リーダーであることとリスクをいとわない姿勢との結びつきは、人間よりチンパンジーのほうがかなり強く出ました。
ほかにも、人間ではリスク選好が平均収入とプラスの相関を示しました。また、どちらの種でも、全体としてオスや男性のほうがメスや女性よりリスクを好む傾向がありました。
著者らはこれらの結果から、リスクを取ることはリーダーシップの基本的な要素で、その根は進化の歴史の中にあるのかもしれないと述べています。人間で結びつきが弱かった理由については、人間社会ではリーダーの地位が文化的な仕組みを通じて受け継がれる面があるため、個人のリスク選好だけで決まりにくいのではないか、という解釈を示しています。これはあくまで著者らの推測で、この研究で直接確かめたものではありません。
人事・研修担当への示唆
- リーダー候補の評価で「挑戦的な人」ばかりを高く見ていないか見直し、慎重に判断できる人材を見落としていないか点検する
- リーダーシップ研修にリスク判断の演習を入れ、リスクを取るべき場面と控えるべき場面の見極め方を学べるようにする
- リスク選好に男女差が見られた点を踏まえ、昇進基準が特定の性別に有利な「大胆さ」重視になっていないか確認する
読むときの注意点
示されたのは関連(相関)で、リスクを好むからリーダーになるのか、リーダーになったからリスクを取るようになるのかはわかりません。人間のデータはドイツの調査にもとづいており、ほかの国や組織の文化にそのまま当てはまるとは限りません。チンパンジーのデータは保護施設での観察者評価によるもので、野生の群れと同じとは言い切れません。サンプルの規模や効果の大きさも抄録では明記されていません。
キーワード解説
- リスク選好
- リスク選好とは、結果が不確かな選択肢を、確実だが見返りの小さい選択肢よりもどの程度好むかという個人の傾向のことです。
- リーダーシップ
- リーダーシップとは、集団の目標に向けて他のメンバーの考えや行動に影響を与え、方向づけていく役割や働きのことです。
- 階層的順位
- 階層的順位とは、群れや集団の中で、誰がより強い影響力や優先権を持つかによって決まる上下の位置関係のことです。
- 進化的視点
- 進化的視点とは、人や動物の行動や性質を、長い世代にわたる自然選択の中で形づくられてきたものとして理解しようとする見方のことです。
- パネル調査
- パネル調査とは、同じ個人や世帯に一定の間隔で繰り返し質問し、時間とともに起きる変化や関係をとらえる調査方法のことです。
- 観察者評価
- 観察者評価とは、本人が答えるのではなく、対象をよく知る第三者が行動や性格を観察し、評価して記録する測定方法のことです。
- 相関
- 相関とは、一方の値が大きいともう一方も大きい(または小さい)という、二つの変数が連動する関係のことで、因果関係を意味するわけではありません。
よくある質問
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Qリーダーはリスクを好む人が多いのですか?
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Aこの研究では、ドイツの調査データで、リスクを取ることに前向きな人ほどリーダーの立場にある傾向が見られました。ただし関連を示しただけで、リスクを好むからリーダーになれるという因果関係まではわかっていません。
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Qチンパンジーでもリーダーはリスクを好むのですか?
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Aはい。アフリカの保護施設での観察者評価によると、リスクを好む個体ほど群れの中で順位が高い傾向がありました。しかも、その結びつきは人間よりチンパンジーのほうが強く出ています。著者らはリスクを取る姿勢に進化上の起源がある可能性を指摘しています。
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Q人間でリーダーとリスクの関係が弱いのはなぜ?
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A著者らは、人間社会ではリーダーの地位が文化的な仕組みを通じて受け継がれる面があり、個人のリスク選好だけで決まりにくいためではないかと考えています。ただし、この研究で直接確かめた説明ではなく、あくまで解釈の一つです。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


