
紹介する論文
The echo of abusive supervision
邦題(編集部訳): 上司の虐待的行動が残す反響
結論
入職直後に上司から敵対的な扱いを受けた新人は、まず本音を抑えて表向きの顔を取り繕い、いつか分かり合える関係になるという希望をつなぎます。しかし同じ経験が重なると希望は薄れ、諦め、割り切った我慢、関係からの撤退へと変わっていきます。新人が静かに見えることを、順応ではなく警告として読み直す必要があることを示す研究です。
新人が職場に入ったばかりの時期に上司から敵対的な言動を受けると、その場では波風を立てずに従っているように見えることがあります。しかしこの研究は、そこで起きているのが順応ではなく、本音を隠して表向きの顔を保つ振る舞いだと描き出しました。経験が繰り返されるほど関係への期待は目減りし、諦めと距離の取り方が定着していきます。
この論文の要点
- 新人はまず本音を抑え、表向きの顔を取り繕って関係への希望をつなぎます
- 経験が重なると希望は薄れ、諦め・割り切った我慢・関係からの撤退に変わります
- 声を上げても応答が返らないという解釈が、疎外という関わり方を生みます
研究の問い
上司の虐待的行動が働き手に悪影響を及ぼすことは、これまでの研究でも示されてきました。ただし、組織に入ったばかりの時期、つまり組織社会化の初期にそうした経験を繰り返し受けた新人が、その出来事をどう意味づけ、職場の人間関係の中にどう身を置くようになっていくのかについては、質的に踏み込んだ理解が不足していました。本研究は、この形成期における新人の解釈の過程そのものに目を向け、影響の大きさを測るのではなく「何が起きて、それがどう受け止められたのか」を描き出すことを目的としています。
調べ方
医療の現場で働く看護学生と新しく採用された看護師を対象に、生活世界インタビューと呼ばれる半構造化の聞き取りを61件行っています。分析にはリフレクシブなテーマ分析を用い、場面でのやりとりを描くコーディング、感情に注目するコーディング、価値観に注目するコーディングを組み合わせて、否定的な社会化の出来事を再構成し、新人が人間関係をどう解釈したかを検討しました。共鳴理論を理論的な下敷きに置いた質的研究です。
わかったこと
分析からは二つのテーマが浮かび上がりました。一つは「自己抑制のファサード」です。上司の虐待的行動を受けた新人は、感じたことを口に出さず、平静な表向きの顔を保ちます。これは単なる屈服ではなく、いつか互いに応答し合える関係、つまり共鳴が得られるという希望を手放さないための振る舞いとして読み解かれています。
もう一つは「この組織は自分にふさわしくない」という捉え方です。同じ経験が繰り返されると希望は目減りし、諦め、割り切って耐えるだけの姿勢、関係からの引きこもりが現れます。ここで立ち現れるのが疎外であり、著者らはこれを新人が人間関係の中に身を置く一つの様式として描いています。疎外は、相手の側が関係を切っていると解釈されること、そして声を上げても応答が返らず状況も変わらないと感じられることによって形づくられます。
人事・研修担当への示唆
- オンボーディング期の面談では「問題ありません」という返答をそのまま受け取らず、具体的な場面を尋ねてください
- メンタリングの担当を配属先の上司から切り離し、利害関係のない相談先を新人に用意しましょう
- 新人から出た声に対して何をどう変えたかを本人に返す運用を作り、応答のない状態を放置しないでください
読むときの注意点
本研究は質的研究であり、特定の職種と現場で語られた経験に基づいています。効果の大きさや、どれくらいの新人に当てはまるのかは示されていません。描かれているのは解釈が変化していく道筋であって、原因と結果を証明したものではない点に注意してください。調査が行われた地域などは抄録では明記されていません。
キーワード解説
- 上司の虐待的行動
- 上司の虐待的行動とは、部下に対して繰り返し向けられる敵対的な言葉や態度など、身体的な暴力を伴わない攻撃的な振る舞いのことです。
- 組織社会化
- 組織社会化とは、新しく入った人が仕事の進め方や職場の暗黙のルールを学び、その組織の一員になっていく過程のことです。
- 共鳴
- 共鳴とは、人と人、人と環境が互いに働きかけて応答し合い、その関わりを通じて双方が変わっていく関係のあり方のことです。
- 疎外
- 疎外とは、関わっているはずの相手や仕事が自分と切り離されたものに感じられ、応答の returnsらない関係の中に置かれている状態のことです。
- 自己抑制
- 自己抑制とは、感じたことや言いたいことを表に出さないよう自分で抑え込み、周囲に合わせた振る舞いを保つことです。
- オンボーディング
- オンボーディングとは、新しく入った人が早期に力を発揮し定着できるよう、受け入れから支援までを計画的に行う取り組みのことです。
- メンタリング
- メンタリングとは、経験のある人が新人と継続的に関わり、仕事の相談や職場への適応を支える関係づくりのことです。
- 質的研究
- 質的研究とは、インタビューや観察で得た語りを丁寧に読み解き、数値ではなく意味や過程を明らかにしようとする研究方法のことです。
よくある質問
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Q上司の虐待的行動とは何を指しますか?
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A部下に対して繰り返し向けられる敵対的な言動を指し、身体的な暴力は含みません。本研究では、入職して間もない時期にこうした経験をした新人が、その出来事をどう意味づけ、人間関係の中にどう身を置くようになるかが扱われています。
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Q新人が静かで従順なのは職場に馴染んだ証拠ですか?
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Aこの研究は、そう読み違える危険を示しています。静けさは本音を抑えて表向きの顔を保っている状態であり、いつか応答し合える関係になるという希望を手放していないうちの振る舞いだと解釈されています。希望が尽きると、撤退へ向かいます。
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Qオンボーディングで何を見直せばよいですか?
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A新人が声を上げたときに、応答が返り、実際に何かが変わる経路があるかどうかです。応答も変化もないと解釈されることが疎外につながると示されているため、相談先を配属先の上司以外にも用意し、出た声への対応を本人に返す運用が要点になります。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


