
紹介する論文
How Applying Instrumental Stakeholder Theory Can Provide Sustainable Competitive Advantage
邦題(編集部訳): 手段的ステークホルダー理論の応用は、いかにして持続的競争優位をもたらしうるか
結論
従業員や取引先などの利害関係者と、信頼と協力に基づく関係を築く戦略は、他社がまねしにくい「親密な関係能力」を生みます。この能力は長く続く競争優位の源泉になりうる、と本論文は理論的に論じています。ただしコストもかかり、効果が大きいのは一定の状況に限られます。人事にとっては、社員との信頼関係づくりを費用対効果の視点で戦略的に考える手がかりになります。
従業員や取引先と信頼と協力に根ざした関係を築くことは、倫理的に望ましいだけではありません。他社がまねしにくい競争上の強みにもなりうる、と論じたのが本論文です。一方で著者らは、こうした関係づくりにはコストがかかり、利点がコストを上回るのは一定の状況に限られるとも指摘しています。信頼関係に「いつ、どこで」投資すべきかを考えるための理論的な枠組みを示した研究です。
この論文の要点
- 信頼・協力・情報共有に基づく倫理的な関係が業績に与える影響を理論的に整理
- 共同的な分かち合いの戦略が、まねされにくい親密な関係能力を生むと主張
- 関係づくりのコストも考え、正味の価値が大きい状況を見極める必要性を提示
研究の問い
企業が従業員・顧客・取引先などのステークホルダー(利害関係者)と、高い信頼・協力・情報共有に基づく倫理的な関係を結ぶと、業績はどう変わるのでしょうか。この問いを扱うのが手段的ステークホルダー理論(倫理的な関係を業績向上の手段として捉える理論)です。先行研究は業績面での利点を示してきましたが、それほど有益なら、なぜ多くの企業がその付き合い方を採らないのかという素朴な疑問が残っていました。著者らは、既存研究には十分に理論化されていない点が3つあると指摘しました。①持続的競争優位につながる道筋、②こうした関係にかかるコスト、③利点がコストを上回る状況、です。
調べ方
本研究は、データを集めて検証する実証研究ではありません。既存の理論を組み合わせて新しい枠組みを示す理論研究です。著者らは手段的ステークホルダー理論の先行研究を検討して弱点を整理しました。そのうえで、企業の関係倫理に関する戦略から、競争優位の源泉となる能力が生まれるまでの理論的な道筋を組み立てています。あわせて、その能力を得るためのコストと、関係の価値が高まりやすい状況も論じています。調査対象の企業や人数といった具体的なデータは、抄録では示されていません。
わかったこと
著者らの中心的な主張は、「共同的な分かち合い」を軸にした関係倫理の戦略が、親密な関係能力につながるという道筋です。この戦略には4つの特徴があります。細かな契約書よりも暗黙の約束に頼る関係的契約、相手と一緒に富を生み出す姿勢、高い相互信頼と協力、そして財産を仲間内で共有する考え方です。
著者らによれば、こうして育つ親密な関係能力は、価値があり、希少で、他社がまねしにくいものです。そのため、長期にわたって続く持続的競争優位の源泉になりうるとしています。
一方で、この能力を得るには相応のコストがかかる可能性も検討されています。そのうえで著者らは、生まれた関係の正味の価値(利点からコストを差し引いた価値)が最も大きくなりやすい状況を見極めようとしています。信頼に基づく関係はどんな企業にとっても常に得になるわけではなく、状況に応じて選ぶ戦略だというのが本論文の立場です。
人事・研修担当への示唆
- 従業員との関係を契約条件だけで管理せず、信頼と情報共有を積み重ねる施策を、まねされにくい組織の強みとして位置づけ直す
- 信頼関係づくりにかかる時間や費用も洗い出し、自社の事業環境で正味の価値が見込める領域から優先して取り組む
- 管理職研修で、暗黙の約束を守り続けることが関係的契約を支えると伝え、人事方針の一貫性を点検する機会を設ける
読むときの注意点
本論文は理論研究であり、示された道筋がデータで検証されたわけではありません。実際に業績が上がるかどうかは、今後の実証研究を待つ必要があります。また、関係の正味の価値が大きくなる具体的な状況やコストの中身は、抄録では明記されていません。自社に当てはめる際は、原文を確認したうえで慎重に判断することをおすすめします。
キーワード解説
- ステークホルダー
- ステークホルダーとは、従業員・顧客・取引先・株主・地域社会など、企業の活動から影響を受けたり、企業に影響を与えたりする利害関係者のことです。
- 持続的競争優位
- 持続的競争優位とは、他社がすぐにはまねたり置き換えたりできないため、長い期間にわたって保たれる競合他社に対する優位性のことです。
- 関係的契約
- 関係的契約とは、書面の細かな条件ではなく、当事者同士の信頼や長期的な関係を前提とした暗黙の約束によって成り立つ取り決めのことです。
- 共同的な分かち合い
- 共同的な分かち合いとは、関係する者同士を一つの共同体とみなし、資源や成果を個別に勘定せず仲間内で共有する関係のあり方のことです。
- 親密な関係能力
- 親密な関係能力とは、本論文が示した概念で、ステークホルダーと高い信頼と協力に基づく緊密な関係を築き、維持していく企業の力のことです。
- 正味の価値
- 正味の価値とは、ある取り組みから得られる利点から、それを実現するためにかかる費用や負担を差し引いた、実質的な価値のことです。
- 情報共有
- 情報共有とは、組織や関係者の間で知識やデータ、意図などを開示し合い、互いが同じ情報をもとに判断や協力をできるようにすることです。
よくある質問
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Q手段的ステークホルダー理論とは何ですか?
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A企業が利害関係者と、高い信頼・協力・情報共有に基づく倫理的な関係を築くことが、業績にどう結びつくかを考える理論です。本論文は、この理論がこれまで十分に説明してこなかった3つの点、つまり競争優位の持続性、コスト、有効な状況を補おうとしています。
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Q信頼関係を重視する経営はなぜ広まらないのですか?
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A本論文は理由の一端として、こうした関係づくりにはコストがかかり、利点がコストを上回る状況が限られる可能性を挙げています。既存研究は利点に目を向ける一方で、コストや状況による違いをあまり論じてこなかった、と著者らは指摘しています。
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Q社員との信頼関係は競争優位になりますか?
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A著者らは、共同的な分かち合いを軸にした関係から育つ親密な関係能力が、価値があり、希少で、まねしにくいため、持続的な競争優位の源泉になりうると論じています。ただし理論上の主張であり、データによる検証は抄録では示されていません。また、対象は社員に限らず利害関係者全般です。
原論文のライセンス: cc-by-nc-nd。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


