
紹介する論文
Promoting resilience among hospitality employees in the storm crisis region: How well-being-oriented crisis leadership and social network support matter?
邦題(編集部訳): 嵐の危機下にある地域のホスピタリティ従業員のレジリエンスを高める:ウェルビーイング志向の危機リーダーシップと社会的ネットワーク支援はどのように効くのか
結論
上司が部下の心身の健康を気づかいながら危機に対応すると、従業員は出来事の意味を捉え直したり、感情の表し方を抑えたりしながら、立て直す力を保ちやすくなっていました。しかもその関係は、頼れるつながりからの支えを厚く感じている人ほど強いものでした。危機時の人事施策は、リーダーの育成と支え合う関係づくりを一組にして考える必要があります。
嵐が繰り返し襲う地域のホテル従業員への調査では、部下のウェルビーイングに配慮した危機リーダーシップが、認知的再評価と表出抑制という二つの感情の整え方を通じて、従業員のレジリエンスと結びついていました。さらに、周囲から得られる社会的ネットワーク支援の質を高く感じている人ほど、その結びつきは強くなっていました。危機下のリーダーの言動は、感情面の支えを介して効いている可能性があります。
この論文の要点
- ウェルビーイングに配慮した危機リーダーシップがレジリエンスと結びついていました
- 認知的再評価と表出抑制という二つの感情制御が、媒介する経路として働いていました
- 社会的ネットワーク支援の質を高く感じるほど、リーダーシップの効果は強まりました
研究の問い
自然災害のような危機は、従業員の暮らしと仕事を同時に揺さぶります。そこで注目されるのが、逆境の中でも持ちこたえて立て直していくレジリエンスです。ただし、上司が部下の心身の健康を気づかいながら非常時を率いる、ウェルビーイング志向の危機リーダーシップが、どのようにして従業員のレジリエンスを育てるのかは、これまで十分に解き明かされてきませんでした。本研究は、人は自分の持つ資源を守り増やそうとするという見方に立つ資源保存理論を土台に、どの経路を通って(感情制御)、どんな条件のもとで(社会的ネットワーク支援)リーダーのふるまいが従業員のレジリエンスを引き出すのかを問いました。
調べ方
調査対象は、嵐が繰り返し訪れるベトナムの都市で営業するホテルで働く従業員です。目的に合う人を意図的に選ぶ有意抽出という方法で協力を依頼し、アンケートのリンクを配布して371名分の回答を集めました。分析には、複数の要因の関係をひとつのモデルとしてまとめて確かめられる構造方程式モデリングが用いられています。これにより、危機リーダーシップからレジリエンスに至る経路と、その効果の強さが条件によって変わるかどうかが検討されました。
わかったこと
まず経路です。ウェルビーイングに配慮した危機リーダーシップは、二つの感情制御の使い方を通じて従業員のレジリエンスにつながっていました。一つは、出来事の受け止め方を前向きに捉え直す認知的再評価です。もう一つは、わき起こった気持ちを表に出さないようにする表出抑制です。抄録では、この二つがそろって媒介する経路になると述べられています。
次に条件です。周囲のつながりから得られる助けの質、つまり社会的ネットワーク支援をどれだけ良いものと感じているかによって、リーダーシップが二つの感情の整え方に及ぼす効果の大きさが変わりました。支えの質を高く感じている従業員ほど、上司のふるまいが感情の扱い方と結びつきやすかった、という関係です。
いずれもアンケートで測った変数どうしの関連であり、原因と結果の向きを確定させるものではありません。
人事・研修担当への示唆
- 危機対応の管理職研修に、指示や段取りだけでなく部下の心身の状態を気づかう行動を組み込みます
- 「別の見方をしてみる」「気持ちの出し方を選ぶ」といった感情制御の練習を現場向けに用意します
- 同僚や上司に相談できる関係づくりを、バディ制度や部署をまたぐ交流の場として仕組み化します
- 非常時のリーダー評価に、業績だけでなく部下の支え方が含まれているかを点検します
読むときの注意点
一時点のアンケートに基づく分析のため、リーダーシップが原因でレジリエンスが結果だと断定することはできません。対象は嵐が繰り返す地域のホテル従業員に絞られており、他の業種や災害以外の危機にそのまま当てはまるとは限りません。回答はいずれも本人の主観に基づく点にも注意が必要です。
キーワード解説
- レジリエンス
- レジリエンスとは、困難や逆境に直面しても、心の働きを保ちながら立ち直っていく力のことです。
- 認知的再評価
- 認知的再評価とは、出来事の意味づけを捉え直すことで、わき起こる感情の強さを和らげる、感情の整え方のことです。
- 表出抑制
- 表出抑制とは、感じている気持ちを表情や言動として外に出さないように抑える、感情の整え方のことです。
- 感情制御
- 感情制御とは、自分の感情の起こり方や表し方を、状況に応じて意識的に調整する働きのことです。
- 資源保存理論
- 資源保存理論とは、人は時間や体力、人間関係といった資源を失うことを避け、守り増やそうと行動すると考える理論です。
- 社会的ネットワーク支援
- 社会的ネットワーク支援とは、家族や同僚など周囲のつながりから得られる、助言や気づかいといった支えのことです。
- 危機リーダーシップ
- 危機リーダーシップとは、災害や事故などの非常時に、組織と働く人を守る方向へ導くリーダーのふるまいのことです。
- 構造方程式モデリング
- 構造方程式モデリングとは、複数の要因どうしの関係を一つのモデルとしてまとめて検証する統計手法のことです。
よくある質問
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Q危機のときリーダーは何をすればよいですか?
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Aこの研究では、部下の心身の健康に配慮しながら危機に向き合うリーダーのふるまいが、従業員の感情の整え方を介してレジリエンスと結びついていました。指示や段取りだけでなく、一人ひとりの状態を気にかける姿勢を並行して示すことが手がかりになります。
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Q感情を抑えるのは悪いことではないのですか?
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A一般には、感情を抑える表出抑制は負担が大きいとも言われます。ただしこの研究では、捉え直す認知的再評価とあわせて、危機下でレジリエンスにつながる経路として位置づけられていました。状況に応じた使い分けとして理解するのが妥当です。
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Q職場の人間関係はレジリエンスに関係しますか?
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Aはい。周囲のつながりから得られる支えの質を高く感じている従業員ほど、リーダーのふるまいが感情の整え方に結びつきやすい、という条件つきの関係が示されました。相談できる相手がいる状態そのものが、施策の効き目を左右する可能性があります。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


