
紹介する論文
Social Performance Feedback and Managerial Moral Self-Regulation: The Microfoundations of Corporate Social (Ir)Responsibility
邦題(編集部訳): 社会的業績フィードバックと経営者の道徳的自己規制:企業の社会的責任・無責任のミクロ基盤
結論
社会的な評価が目標に届かないと経営者は道徳的な自己像を守ろうとして善行を増やし、逆に評価が目標を上回ると「もう十分やっている」と緩んで社会的責任活動が減ったり無責任な行動が増えたりする、というシーソーのような構造が示されました。人事・研修担当にとっては、評価が良い時期ほど倫理の手綱を緩めない仕組みが要る、という示唆になります。
企業の社会貢献は、経営者個人の「自分は道徳的な人間だ」という感覚に左右されるようです。本研究は、自社の社会面での成績が目標を下回ると経営者が埋め合わせに動き、上回るとむしろ気が緩むという、道徳のシーソーのような仕組みを描きました。企業の状況が経営者の心理に降り、そこから再び企業の行動へ戻る往復の道筋を、アーカイバルデータの分析と実験の両面から検討しています。
この論文の要点
- 社会的業績が目標を下回ると、経営者は埋め合わせとして善い行いを増やします
- 目標を上回ると「もう十分」と緩み、責任活動の減少や無責任な行動につながります
- 鍵は企業イメージ→道徳的自己イメージという二段構えの心理プロセスです
研究の問い
企業がなぜ社会貢献に力を入れたり、逆に問題のある行動を起こしたりするのかは、これまで主に企業レベルの要因から説明されてきました。しかし実際に判断を下すのは個々の経営者です。企業の置かれた状況がどのように経営者の心理へ降りてきて、そこからまた企業としての行動になって立ち上がるのか。この一連のつながりは、これまで十分に描かれてきませんでした。本研究は、企業行動理論と道徳的自己規制の考え方を組み合わせ、社会的業績フィードバック、経営者の認知、そして企業の社会的責任と社会的無責任をつなぐ、階層をまたいだモデルを提示しようとしています。
調べ方
著者らは二つの研究を組み合わせています。研究1では、既存の公開データを用いたアーカイバル分析により、企業の社会的業績が願望水準を下回ったり上回ったりしたときに、その後の社会的責任活動と無責任な行動がどう変化するかという主効果を検討しています。研究2では一連の実験を行い、経営者が抱く企業イメージと道徳的自己イメージが順番に媒介役を果たすという心理的な道筋を確かめています。サンプル数や対象国、対象期間などの詳細は抄録では明記されていません。
わかったこと
自社の社会的業績が願望水準に届かないと、経営者は自社のイメージが傷ついたと受け止めます。この認識が本人の道徳的自己イメージを揺るがし、埋め合わせようとする道徳的浄化の行動につながります。企業レベルでは、社会的責任活動が増えたり、無責任な行動が減ったりする形で表れます。
反対に、社会的業績が願望水準を上回ると、経営者は自社のイメージが高まったと感じ、道徳的自己イメージも底上げされます。すると「自分はすでに十分やっている」という感覚が生まれ、道徳的ライセンシングと呼ばれる緩みが起きます。企業レベルでは、社会的責任活動が減ったり、無責任な行動が増えたりする方向に振れます。
つまり社会的業績フィードバックは、経営者の道徳的自己規制を作動させるスイッチとして働きます。評価の良し悪しがそのまま次の行動を同じ方向へ押すのではなく、逆向きに揺り戻す力になり得る、というのが本研究の見立てです。
人事・研修担当への示唆
- 評価が良かった直後こそ緩みが起きやすいと想定し、好調な時期にも倫理研修や内部監査の頻度を落とさない設計にしましょう
- 目標を「前年比」に置くか「同業他社比」に置くかで振れ方が変わります。願望水準の置き方を意識的に決めましょう
- 社会的責任活動の増減を、担当部門の熱意ではなく直前の外部評価と結びつけて振り返る場をつくりましょう
読むときの注意点
研究1は既存データの分析であり、関係が見られたことと因果を示したこととは同じではありません。研究2の実験は仕組みを確かめるための設定であり、実際の経営現場そのものではない点にも注意が必要です。対象となった企業や参加者の規模・属性は抄録では明記されておらず、どこまで一般化できるかは原典で確認する必要があります。
キーワード解説
- 社会的業績フィードバック
- 社会的業績フィードバックとは、自社の社会面での成績を過去の実績や同業他社と比べ、目標に届いたかどうかを知らせる情報のことです。
- 願望水準
- 願望水準とは、企業や個人が「これくらいは達成したい」と考える基準で、実績の良し悪しを判断するものさしになる目標値のことです。
- 道徳的自己規制
- 道徳的自己規制とは、人が「自分は道徳的な人間だ」という自己像を保とうとして、自分の行動を無意識のうちに調整する心の働きのことです。
- 道徳的浄化
- 道徳的浄化とは、自分の道徳的な自己像が傷ついたと感じたときに、善い行いを増やして埋め合わせようとする反応のことです。
- 道徳的ライセンシング
- 道徳的ライセンシングとは、善い行いをした実感があると「これくらいは許される」と感じ、その後の行動が緩んでしまう現象のことです。
- 企業イメージ
- 企業イメージとは、その会社が世の中からどう見られているかについて、経営者や従業員が抱いている認識のことです。
- 道徳的自己イメージ
- 道徳的自己イメージとは、自分がどれだけ倫理的で善い人間かという、本人自身が持っている自己評価のことです。
- 企業の社会的責任
- 企業の社会的責任とは、企業が利益の追求だけでなく、環境や地域社会、従業員などへの配慮を果たすべきだという考え方のことです。
よくある質問
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Qなぜ評価が良い企業ほど気が緩むのですか?
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Aこの研究では、社会面での成績が目標を上回ると経営者が「自社は十分に良い」と感じ、自分の道徳的な自己像が満たされることで、その後の行動が緩みやすくなると説明されています。良い評価そのものが油断を生む経路がある、という見方です。
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Q道徳的ライセンシングとは何ですか?
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A善い行いをしたという実感が「これくらいは許される」という感覚を生み、その後の倫理的な行動が緩む現象です。本研究では、自社の社会面での成績が目標を上回ったと受け止めた経営者に、この緩みが起きると論じられています。
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Q善行を増やすのと問題行動を減らすのは同じですか?
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A本研究は、社会的責任活動が増えることと無責任な行動が減ることを、別々の表れ方として並べて扱っています。どちらか一方、あるいは両方の形で現れうるとされており、善行を足すことと問題を減らすことは異なる選択肢として区別されています。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


