人種の多様性が高い法律事務所ほど高業績、その多様性は若手層に集中

人種の多様性が高い法律事務所ほど高業績、その多様性は若手層に集中 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Racial diversity and its asymmetry within and across hierarchical levels: The effects on financial performance

Stephen Smulowitz, Manuel Becerra, Margarita Mayo / Human Relations (2018年) / DOI: 10.1177/0018726718812602

邦題(編集部訳): 階層レベル内および階層間における人種的多様性とその非対称性:財務業績への影響

結論

米国の法律事務所を分析した結果、組織全体で人種的多様性が高い事務所ほど財務業績も高い傾向が見られました。ただし、多様性の効果は経営層で特に強いわけではありませんでした。また、最も収益性の高い事務所では、多様性が若手層に偏っていました。人事・研修担当者は、多様性を全社の平均だけでなく、階層ごとの分布として把握する必要があります。

多様性は本当に業績につながるのか。この長年の問いに、米国の法律事務所のデータで答えた研究です。人種的多様性が高い事務所ほど財務業績が良いという関連は確認されました。一方で、その効果はトップ層ほど強まるという著者らの予想は支持されませんでした。さらに、最も収益性の高い事務所ほど、多様性がアソシエイト(若手弁護士)層に集中していることもわかりました。

この論文の要点

  • 組織全体の人種的多様性が高い法律事務所ほど、財務業績が高い傾向がありました
  • 多様性と業績の関連は、若手・中堅・パートナーの3階層でほぼ同じ程度でした
  • 最も収益性の高い事務所では、人種的多様性が若手層に偏って集中していました

研究の問い

組織の多様性が持つ利点と欠点は、研究者と実務家の双方が長く議論してきたテーマです。多様性が業績につながるという「ビジネスケース」(経営上の利点の根拠)はよく語られます。しかし、多様性が組織のどの階層にあるかで効果が変わるのかは、十分に検討されていませんでした。著者らは、意思決定を担う上位層ほど多様性の効果がはっきり現れると考えました。そのうえで、組織全体の人種的多様性と、階層による多様性の偏り(非対称性)が、財務業績とどう関係するかを問いました。

調べ方

対象は、専門サービス企業(専門知識を提供して対価を得る企業)の代表例である米国の法律事務所143社です。2008年から2012年のデータを使っています。事務所内をアソシエイト(若手弁護士)、中堅層、パートナー(共同経営者にあたる上位の弁護士)の3つの階層レベルに分けました。そして、組織全体の人種的多様性と、階層ごとの多様性の偏りが、事務所の財務業績とどう関連するかを分析しました。多様性の測り方や業績指標の詳細は、抄録では明記されていません。

わかったこと

第一に、組織全体の人種的多様性が高い事務所ほど、財務業績も高いという正の関連が確認されました。著者らはこれを、多様性のビジネスケースを強く支持する結果と位置づけています。ただし、これは相関関係です。多様性が業績を直接高めたとまでは言えません。

第二に、当初の予想に反して、多様性の効果は組織の上位層で特に大きいわけではありませんでした。アソシエイト、中堅、パートナーの3階層で、多様性はおおむね似た効果を持つようでした。

第三に、最も収益性の高い事務所は、全体の多様性が高いだけではありませんでした。その多様性がアソシエイト層に大きく集中していたのです。つまり、高業績の事務所では「上位層ほど多様性が低い」という階層間の非対称性が目立っていました。著者らはこの意外な結果について、複数の解釈の可能性を論じています。

人事・研修担当への示唆

  • 多様性の指標を全社平均だけで見ず、若手・中堅・管理職などの階層レベル別に集計して、偏りを見えるようにしましょう
  • 若手層では多様性が高いのに上位層では低い場合、昇進や定着の過程に障壁がないか人事データで点検しましょう
  • 多様性施策の意義を経営層に伝えるときは「業績と関連がある」にとどめ、相関関係を因果と誤解させない表現にしましょう

読むときの注意点

対象は米国の法律事務所に限られます。業種や国、人種構成のとらえ方が異なる日本企業に、そのまま当てはまるとは限りません。また結果は相関関係なので、業績の良い事務所ほど多様な人材を採用しやすいという逆向きの可能性も否定できません。多様性が若手層に集中していることがなぜ高収益と結びつくのかについても、著者ら自身が複数の解釈を示すにとどまっています。

キーワード解説

人種的多様性
人種的多様性とは、組織やチームの中に、異なる人種的背景を持つ人がどの程度混ざっているかを表す度合いのことです。
ビジネスケース
ビジネスケースとは、ある施策や取り組みが、業績や競争力など経営上の利益につながることを示す根拠や論理のことです。
階層レベル
階層レベルとは、組織の中での職位や役職の段階のことです。若手、中堅、管理職、経営層などに分けてとらえます。
非対称性
非対称性とは、ある特徴が組織の各部分に均等に分かれておらず、特定の層や部分に偏っている状態のことです。
専門サービス企業
専門サービス企業とは、法律事務所やコンサルティング会社のように、専門職の知識や技能を顧客に提供して対価を得る企業のことです。
アソシエイト
アソシエイトとは、法律事務所などで経営権を持たずに雇用されて働く、主に若手から中堅の専門職のことです。
相関関係
相関関係とは、一方が変化するともう一方も変化する傾向がある関係のことです。どちらかが原因であることまでは意味しません。

よくある質問

Q
人種の多様性が高い企業は業績も良いのですか?
A
この研究では、米国の法律事務所で、組織全体の人種的多様性が高いほど財務業績も高いという正の関連が確認されました。ただし相関関係であり、多様性が業績を直接高めたとは断定できません。また、ほかの業種や国にもそのまま当てはまるかは検証されていません。
Q
多様性は経営層にある方が効果が大きいのですか?
A
著者らは上位層ほど効果が大きいと予想していました。しかし結果はそうなりませんでした。若手、中堅、パートナーの3階層で、多様性はおおむね似た効果を持つようでした。経営層だけに注目するのではなく、組織全体の多様性を見る視点が大切だといえます。
Q
若手に多様性が集中している状態は望ましいのですか?
A
最も収益性の高い事務所で若手層に多様性が集中していた、という事実が示されただけです。それが望ましい状態だとまでは言えません。著者らもこの結果に複数の解釈があると論じています。人事としては、上位層への昇進に障壁がないかを点検する材料として読むのが妥当です。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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