権力を持つ男性が「うちは実力主義」と見る理由は資源の充足感

権力を持つ男性が「うちは実力主義」と見る理由は資源の充足感 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

The Gendered Returns to Power: How Gender, Structural Power, and Perceived Resource Sufficiency Shape Meritocracy Perceptions in Organizations

Sonya Mishra, Julia L. Melin, Laura Kray, Cameron Anderson / Journal of Organizational Behavior (2026年) / DOI: 10.1002/job.70122

邦題(編集部訳): 権力がもたらす利得のジェンダー差:ジェンダー、構造的権力、資源充足感の認識が組織の実力主義認知をどう形づくるか

結論

同じ役職上の権限を持っていても、男性のほうが自社を実力主義的だと見なしやすく、その差は「役割を果たすのに十分な資源がある」という感覚の違いで説明されました。資源が足りていると感じるほど実力主義の見方は強まり、公平性を高める施策への支持は弱まります。権限の付与だけでは不十分だと示す結果です。

女性が権力ある地位に就きにくいのはなぜか。この研究は、権限そのものではなく、権限に見合う資源が伴っているかどうかに注目します。男性は権限が大きいほど自社を実力主義的だと捉えやすく、その背景には、役割を果たすだけの資源が自分にはあるという認識の男女差がありました。資源が足りているという感覚は、実力主義の見方を通じて公平性向上の取り組みへの支持を弱めていました。

この論文の要点

  • 男性は権限が大きいほど自社を実力主義的だと見る傾向がありました
  • その差は、権限に見合う資源があるという認識の男女差で説明されます
  • 資源が足りている感覚は、公平性向上施策への支持を弱めていました

研究の問い

組織の上位職に女性が少ない状況は長く続いています。その理由としては採用や昇進の慣行、家庭生活との両立などが論じられてきましたが、この研究は別の入口から問いを立てます。役職に伴う構造的権力、つまり組織の中で人や予算を動かせる立場に就いたとき、その経験がもつ意味は男女で同じなのか、という問いです。もし権力を得た経験が「この組織は努力や実力に報いる」という見方を男女で違うかたちにするのなら、権力格差は単に放置されるだけでなく、当事者たちの認識を通じて再生産されうることになります。著者らはその出発点として、権限に資源が伴っているかどうかに着目しました。

調べ方

著者らは、既存データの分析、記述内容の質的な分析、実験という異なる方法を組み合わせた4つの研究(合計99,293名)を行いました。前半の研究では、回答者の役職上の権限の大きさと、自社を実力主義的だと見る程度、そして役割に必要な資源が足りているという認識との関係を、男女で比べています。最後は事前登録実験で、資源が足りているという認識の高低を操作し、そこから何が変わるかを検証しました。

わかったこと

第一に、構造的権力が大きいほど自社を実力主義的だと見る傾向は、男性でより強く現れました。同じように権限を持っていても、女性ではその結びつきが弱いという形です。

第二に、この男女差は資源充足感——役割の要求に応え、権限を実際に行使するのに十分な手段や物的資源が自分にはあるという評価——の違いによって統計的に説明されました。男性の権限には資源が伴いやすい一方、女性の場合は権限があっても資源が伴いにくい、という構図です。

第三に、事前登録された実験では、資源が足りているという認識が高い条件でメリトクラシー認知が高まり、それを通じてキャリア投資意図は強まる一方、公平性向上施策への支持は弱まりました。制度を変えられる立場にある人ほど、変える必要を感じにくくなるという循環が示唆されます。

人事・研修担当への示唆

  • 権限を与える人事異動では、予算・人員・情報も同時に配分できているかを点検しましょう
  • 昇進者への面談で「役割を果たす資源が足りているか」を必ず尋ね、男女差を確認します
  • 公平性向上施策は、恵まれた立場の管理職ほど必要性を感じにくい前提で説明を設計します

読むときの注意点

前半の研究は関連の強さを示すものであり、そのまま因果とは読めない点に注意が必要です。因果を検証したのは資源の認識を操作した実験部分で、そこで測られたのはキャリアや施策支持の「意図」であって実際の行動ではありません。対象組織の業種や国などの詳細は抄録では明記されていないため、自社にそのまま当てはまるかは慎重に確かめてください。

キーワード解説

構造的権力
構造的権力とは、組織上の地位にともなって、人や予算などの資源配分を左右できる公式の影響力のことです。
資源充足感
資源充足感とは、自分の役割が求めることに応え、権限を実際に行使するのに足りる手段や物的資源があるという本人の評価のことです。
メリトクラシー認知
メリトクラシー認知とは、この組織は努力や実力に応じて公正に報いてくれる、と個人が受け止めている程度のことです。
キャリア投資意図
キャリア投資意図とは、自分の将来の仕事のために時間や労力、学習を注ぎ込もうとする意欲のことです。
公平性向上施策
公平性向上施策とは、機会や処遇の偏りを是正するために組織が導入する制度や取り組みのことです。
事前登録実験
事前登録実験とは、仮説や分析手順をデータ収集の前に公開登録したうえで実施する実験のことです。
権力格差
権力格差とは、組織の中で意思決定に影響を与えられる度合いが、属性によって偏っている状態のことです。

よくある質問

Q
権限を与えれば男女差は埋まりますか?
A
この研究の示唆は「肩書きだけでは足りない」というものです。権限に予算・人員・情報といった資源が伴って初めて、その立場を活かしている実感が生まれます。資源が伴わない権限は、組織への見方を変えるほどの効果を持ちにくいと考えられます。
Q
実力主義だと感じることの何が問題ですか?
A
自社が実力主義だと感じること自体は、キャリアへの投資意欲を高める前向きな効果がありました。ただし同時に、公平性を高める施策の必要性を感じにくくさせます。制度を変えられる立場の人ほどそう感じやすい点が課題です。
Q
自社で確認するにはどうすればよいですか?
A
役職層に対して、権限の大きさだけでなく「役割を果たすのに必要な資源が足りているか」を尋ね、その回答を男女別に見比べてください。権限が同等でも資源の実感に差があれば、この研究が指摘した構図に近い状態です。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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