
紹介する論文
We Ask Men to Win and Women Not to Lose: Closing the Gender Gap in Startup Funding
邦題(編集部訳): 私たちは男性には勝つことを、女性には負けないことを求めている——スタートアップ資金調達におけるジェンダー格差の解消
結論
投資家は男性起業家には成長や可能性を問う促進焦点の質問を、女性起業家には損失回避を問う予防焦点の質問を投げがちで、起業家も同じ焦点で答えていました。予防焦点の質問を受けた起業家の調達額は低くなり、この質問の偏りが性別と調達額の関係を説明していました。質問の設計そのものが評価の格差を生む点は、面接や審査を担う人事にも当てはまります。
男性起業家と女性起業家の資金調達額の差は、投資家が投げる質問の違いから生まれていました。男性には成長や可能性を問う質問、女性には損失回避を問う質問が多く向けられ、起業家も同じ枠組みで答えます。そして損失回避を問われた起業家ほど、調達額が低くなっていました。答え方を変える介入によって、この差を縮められる可能性も示されました。
この論文の要点
- 投資家は男性に促進焦点、女性に予防焦点の質問を多く投げていた
- 起業家は質問と同じ焦点で答え、予防焦点の質問を受けた側は調達額が低い
- 予防焦点の質問に促進焦点で答え直す介入で、調達額は改善した
研究の問い
女性起業家が男性起業家より資金調達で不利になりやすいことは以前から指摘されてきましたが、その原因がどこにあるのかは決着していませんでした。能力や事業内容の差なのか、それとも評価する側のふるまいなのか。著者らは、人が物事を「利得を得る」方向で捉えるか「損失を避ける」方向で捉えるかを扱う制御焦点理論を手がかりに、投資家が起業家に投げる質問そのものに偏りがあり、それが調達額の差につながっているのではないかと考えました。評価される側の努力ではなく、評価する側の問いかけに目を向けた研究です。
調べ方
著者らは、スタートアップの登壇イベントで実際に交わされた投資家と起業家の質疑応答を対象にフィールド調査を行いました。質問と回答が促進焦点(利得志向)か予防焦点(損失回避志向)かを分類し、その後の資金調達額との関係を調べています。対象は著名なピッチイベントで、複数年分のやり取りが含まれます。さらに、予防焦点の質問に対する答え方を変える介入を、実験によって検証しています。
わかったこと
まず、投資家の質問には焦点の偏りがありました。男性起業家には事業の伸びや獲得できる機会を問う促進焦点の質問が多く、女性起業家にはリスクや損失をどう避けるかを問う予防焦点の質問が多く向けられていました。そして起業家の側も、投げられた質問と同じ焦点で答える傾向がありました。
この違いは結果に直結します。予防焦点の質問を受けた起業家は、促進焦点の質問を受けた起業家より調達額が低くなりました。予防焦点の質問が一つ増えるごとに資金調達は難しくなり、この質問の偏りが性別と調達額の関係を完全媒介していました。つまり性別そのものではなく、性別によって変わる質問の焦点が差を生んでいたということです。
一方で、対処の余地も示されました。予防焦点の質問を受けても、促進焦点の答え方に切り替えて応じた起業家は調達額を伸ばせることが、実験で確認されています。
人事・研修担当への示唆
- 面接や選考の質問リストを見直し、候補者全員に同じ促進焦点の質問を配分できているか点検します
- 面接官研修で、予防焦点の質問に偏る癖と、質問が評価結果を左右することを共有します
- 昇進審査や社内提案の場では、リスク確認だけでなく成長機会を問う質問を必ず入れます
読むときの注意点
フィールド調査の部分は投資家と起業家のやり取りを観察したもので、質問の焦点が調達額を変えたと断定するには限界があります。介入の効果は実験で示されましたが、対象は特定のピッチ場面であり、社内の面接や評価にそのまま当てはまるかは検証されていません。質問の偏りが意図的なものかどうかも、抄録では明記されていません。
キーワード解説
- 制御焦点理論
- 制御焦点理論とは、人が目標に向かうとき、利得の獲得を重視するか損失の回避を重視するかで、行動や判断が変わると考える理論のことです。
- 促進焦点
- 促進焦点とは、成長や獲得といった望ましい結果を手に入れることに意識が向いた状態のことです。挑戦的な選択をしやすくなります。
- 予防焦点
- 予防焦点とは、失敗や損失を避け、安全や責任を守ることに意識が向いた状態のことです。慎重な選択をしやすくなります。
- 完全媒介
- 完全媒介とは、二つの要素の関係が、その間に入る別の要素によってすべて説明されてしまう状態のことです。
- 資金調達
- 資金調達とは、事業を進めるために、投資家や金融機関などから必要な資金を集める活動のことです。
- 質疑応答
- 質疑応答とは、発表者に対して聞き手が質問し、発表者がそれに答えるやり取りのことです。評価の場面で頻繁に生じます。
- フィールド調査
- フィールド調査とは、実験室ではなく実際に物事が起きている現場に入り、そこでの行動やデータを集めて分析する方法のことです。
よくある質問
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Q女性起業家の資金調達が少ないのはなぜ?
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Aこの研究では、投資家が向ける質問の焦点の違いが原因として示されました。女性起業家には損失回避を問う予防焦点の質問が多く、そうした質問を受けた起業家ほど調達額が低くなる傾向がありました。能力の差ではなく、評価の場のやり取りに原因を求めた点が特徴です。
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Q予防焦点の質問にはどう答えればいい?
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A研究の実験では、予防焦点で聞かれても促進焦点で答える、つまりリスクの話を成長や機会の話に置き換えて返すと、調達額が伸びました。質問の枠組みに引きずられず、自分の焦点で語り直すことが有効だと示されています。
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Q採用面接にもこの知見は使えますか?
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A直接検証されたのは投資の場面ですが、質問の焦点が偏ると評価が変わるという構図は面接にも通じます。候補者ごとに質問の中身が変わっていないかを点検し、質問リストをそろえるところから始めるとよいでしょう。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


