ビジネスモデル革新の研究は、言葉の定義がそろっていない

ビジネスモデル革新の研究は、言葉の定義がそろっていない (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Fifteen Years of Research on Business Model Innovation

Nicolai J. Foss, Tina Saebi / Journal of Management (2016年) / DOI: 10.1177/0149206316675927 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): ビジネスモデル革新に関する15年間の研究

結論

著者らは2000年から2015年に公表されたビジネスモデル革新の査読論文150本を整理し、この分野が概念の定義でつまずき、何が革新を促し、どんな条件下で成果につながるのかの解明も足りないと結論づけました。人事・研修担当にとっては、社内で事業変革を語る前にまず言葉の意味をそろえる作業が要る、という示唆になります。

ビジネスモデル革新は、この15年ほどで研究者にも実務家にも注目されてきたテーマです。しかし著者らが2000年から2015年の査読論文150本を見直したところ、この分野には理論的な土台が乏しく、実証研究も積み上がっていないことが浮かび上がりました。何がきっかけで革新が起き、どんな条件でどんな成果が出るのかは、まだ十分に描かれていません。

この論文の要点

  • ビジネスモデル革新の研究は増えたが、理論の土台が弱いままです
  • この概念が何を指すかの定義が研究ごとにぶれています
  • きっかけ・条件・成果のいずれにも解明の空白が残っています

研究の問い

ビジネスモデル革新、つまり自社が誰にどんな価値をどう届けて稼ぐかという仕組みそのものを作り替える動きは、この15年ほどで経営研究でも実務でも大きな関心を集めてきました。ところが、研究が急速に増えた一方で、その土台となる理論は十分に整っていません。著者らは、個々の実証研究が互いに積み上がらず、知見が散らばったままだという問題意識を持ちました。そこで、ばらばらに進んできた研究の現在地を確かめ、次に何を調べるべきかを示すため、査読論文を対象にした体系的レビューが必要だと考えたのです。

調べ方

著者らは、2000年から2015年までに公表されたビジネスモデル革新に関する査読論文150本を集め、体系的レビューとして分析しました。単に文献を並べるのではなく、それぞれの研究がこの概念をどう定義し、何を原因とし何を結果として扱っているかを読み解いたうえで、批判的に評価しています。そのうえで、今後の研究が取り組むべき論点を提示するという進め方です。

わかったこと

第一に、著者らは構成概念の明確さに問題があると指摘します。ビジネスモデル革新という言葉が何を指すのかが研究ごとにぶれており、結果の比較や知見の積み上げが難しい状態にあるということです。

第二に、何がビジネスモデル革新を引き起こすのかという先行条件の解明が不足しています。加えて、どんな状況ならうまくいくのかという調整要因、そして最終的にどのような成果が生まれるのかについても、空白が残っていると論じています。

第三に、著者らはその空白を埋める手がかりとして、複雑性理論やイノベーション研究をはじめとする隣接領域の考え方を取り込むことを提案しています。ビジネスモデルは要素どうしが絡み合う仕組みであるため、部分ではなく全体の組み合わせとして捉える視点が有効だという方向づけです。

人事・研修担当への示唆

  • 事業変革の研修を設計する前に、自社が使う「ビジネスモデル」の定義を一枚の図にそろえてください
  • 新規事業人材の評価軸を、アイデアの数ではなく稼ぎ方の仕組み全体を описать描けるかで設計しましょう
  • 他社の成功事例を持ち込む際は、自社に当てはまる調整要因を先に書き出して条件を確認しましょう

読むときの注意点

本論文は新しくデータを集めた実証研究ではなく、既存研究を整理したレビューです。したがって示されるのは「研究がどこまで分かっているか」であり、特定の施策が成果を生むという因果の証拠ではありません。対象は2015年までに公表された査読論文に限られており、それ以降の動向は含まれていない点にも注意が必要です。

キーワード解説

ビジネスモデル革新
ビジネスモデル革新とは、誰にどんな価値をどう届けて対価を得るかという事業の仕組みそのものを、意図的に作り替えることです。
構成概念
構成概念とは、直接は目で見えないものを研究上で扱うために定義した考え方の単位のことです。定義が曖昧だと測定も比較もできません。
先行条件
先行条件とは、ある現象が起きる前に存在し、その発生を促したり妨げたりする要因のことです。原因側の条件を指します。
調整要因
調整要因とは、原因と結果の結びつきの強さや向きを変える第三の要因のことです。「どんなときに効くのか」を説明します。
体系的レビュー
体系的レビューとは、あらかじめ決めた手順で対象文献を集め、偏りを抑えながら研究成果を整理・評価する方法のことです。
複雑性理論
複雑性理論とは、多数の要素が互いに影響し合う仕組みを、部分の足し算ではなく全体の振る舞いとして捉える考え方のことです。
査読論文
査読論文とは、同じ分野の研究者による事前審査を通ったうえで学術誌に掲載された論文のことです。一定の品質確認を経ています。

よくある質問

Q
ビジネスモデル革新とは何ですか?
A
誰にどんな価値を届け、どう対価を得るかという事業の仕組み自体を作り替えることです。ただしこの論文は、その定義が研究ごとにそろっておらず、共通の理解が確立していない点を課題として挙げています。
Q
この論文を読めば成功のやり方が分かりますか?
A
分かりません。これは既存研究を整理したレビューで、何が革新を引き起こし、どんな条件で成果につながるかについては研究上の空白が残ると指摘する内容です。実行手順を示すものではありません。
Q
人事担当が読む意味はありますか?
A
あります。事業変革を掲げる研修や人材要件を設計する際、土台となる概念自体が学術的にも定まっていないと知っておくことで、社内で言葉の定義をすり合わせる工程を最初に置く判断がしやすくなります。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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