
紹介する論文
Is general mental ability still the best predictor of job performance? Integrating contemporary meta-analytic evidence
邦題(編集部訳): 一般知的能力は依然として職務業績の最良の予測指標か:現代のメタ分析的証拠の統合
結論
三つの新しいメタ分析のデータをすべて統合して再分析した結果、一般知的能力と職務業績の関係を示す操作的妥当性は.18〜.22の範囲に収まり、著者らは要約値として.20を提案しています。かつて語られてきた.50前後とは、はっきり異なる水準です。採用で知的能力の検査を使うなら、単独で合否を決める根拠としては弱く、他の指標と組み合わせる前提で設計する必要があります。
一般知的能力は長らく「職務業績を最もよく予測する単一の指標」と語られてきました。本研究は、1990年以降の研究を扱った三つのメタ分析のデータをすべて集め直し、重複を整理したうえで再分析しています。その結果、操作的妥当性は.18〜.22の範囲にとどまり、著者らは.20を現代の要約値として示しました。さらに、知的に複雑な仕事ほど予測力が高いという通説も、そのままでは支持されませんでした。
この論文の要点
- 一般知的能力と職務業績の操作的妥当性は.18〜.22、要約値は.20です
- .50前後という従来値は、範囲制限の補正方法と古いデータに依存していました
- 認知的複雑性(Data)の高さは、妥当性の高さと結びついていませんでした
研究の問い
一般知的能力(いわゆる知能・認知的な処理能力の総合的な高さ)は、数十年にわたり職務業績を最もよく予測する指標だとされ、メタ分析では補正後の妥当性が.50前後と報告されてきました。しかし近年、この結論には二つの批判が寄せられています。一つは方法論上の問題で、過去の研究が範囲制限(採用された人だけを分析するため能力のばらつきが狭まる現象)の補正を甘く見積もっていたという指摘です。もう一つはより根本的で、根拠となったデータの多くが1980年より前に集められたものだという点です。1990年以降を対象とした三つのメタ分析はいずれも従来より低い値を報告しており、現代データでの包括的な推定が必要でした。
調べ方
著者らは、1990年から2022年の研究を扱った三つの近年のメタ分析の元データをすべて入手しました。これらは互いに一部重なりつつ、それぞれ他には含まれない独自の研究も抱えていたため、全体を統合して新たにメタ分析を行っています。分析対象は合計で研究数212、対象者数109,396でした。さらに、O*NETから導かれた職務複雑性の三次元(Data=データ、People=人、Things=もの)が推定値のばらつきを説明するかを、調整変数として検討しています。
わかったこと
複数の分析を通じて、全体的な職務業績に対する一般知的能力の操作的妥当性は.18〜.22の範囲に収まりました。著者らはこれをふまえ、現代の知見を要約する値として.20を提案しています。かつて示されてきた.50前後という水準とは、はっきり異なる大きさです。
調整変数の分析では、通説とは異なる姿が見えました。認知的な複雑性を表すDataや、対人的な要素を表すPeopleは、妥当性の高さとほとんど関係していませんでした。一方、手作業の要素を表すThingsとは正の関係がみられ、DataとThingsの両方が高い仕事で妥当性が相対的に高くなっていました。つまり「認知的に複雑な仕事ほど一般知的能力が効く」という単純な理解は、今回のデータでは支持されていません。著者らは、現代の知見を古いデータと分けて報告することを勧めています。
人事・研修担当への示唆
- 知的能力検査のスコアを単独の合否基準にせず、構造化面接など他の指標と組み合わせて使ってください
- 社内で予測妥当性を説明するときは、.50ではなく.20前後を出発点の目安にしましょう
- 職務複雑性の高さだけを理由に検査の有用性を決めつけず、自社の職種ごとに確かめてください
読むときの注意点
今回の結果は、既存の三つのメタ分析が集めた研究をまとめ直したものです。相関にもとづく推定であり、知的能力が高いから業績が上がるという因果関係を示したものではありません。また複雑性の分析はO*NETの分類にもとづくもので、個々の職場の実態と一致するとは限りません。著者らも、古いデータと現代の知見は分けて扱うよう注意を促しています。
キーワード解説
- 一般知的能力
- 一般知的能力とは、言語・数理・推論など幅広い課題に共通して働く、認知的な処理能力の総合的な高さを指す概念のことです。
- 職務業績
- 職務業績とは、担当する仕事において求められる行動や成果がどれだけ達成されているかを、評価や指標で表したもののことです。
- 操作的妥当性
- 操作的妥当性とは、選考で実際に使う検査の得点が、その後の業績をどの程度予測できるかを補正して表した指標のことです。
- 範囲制限
- 範囲制限とは、採用された人だけを分析対象にすることで能力のばらつきが狭まり、検査と業績の関係が小さく見える現象のことです。
- メタ分析
- メタ分析とは、同じテーマを扱う多数の研究の結果を統計的にまとめ、より安定した全体像の推定値を得る手法のことです。
- 調整変数
- 調整変数とは、二つの要因の関係の強さが、条件によってどう変わるかを説明する第三の要因のことです。
- 職務複雑性
- 職務複雑性とは、その仕事が扱う情報・人・ものに関して、どれだけ高度な判断や作業を求めるかの程度のことです。
- 予測妥当性
- 予測妥当性とは、選考時点で測った指標が、将来の業績や定着といった結果をどの程度言い当てられるかの程度のことです。
よくある質問
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Q知能検査は採用で使う意味がないのですか?
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A意味がないわけではありません。一般知的能力と職務業績の関係はゼロではなく、要約値として.20が示されています。ただし従来語られてきた水準よりは小さいため、単独で合否を決めるのではなく、他の指標と組み合わせて使うのが妥当です。
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Qなぜ以前は.50前後とされていたのですか?
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A過去の推定は、範囲制限の補正を甘く見積もっていたという方法論上の批判と、根拠となるデータの多くが1980年より前に集められていたという二つの問題を抱えていた、と本研究は整理しています。
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Q複雑な仕事ほど知的能力が効くのでは?
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A今回の分析では、認知的複雑性を表すDataや対人的なPeopleは妥当性とほとんど関係していませんでした。手作業を表すThingsとは正の関係があり、DataとThingsがともに高い仕事で妥当性が高めでした。
原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


