
紹介する論文
Glass ceiling goes boundaryless: a three-decade review of gender and career studies in the early, pre and post pandemic context
邦題(編集部訳): ガラスの天井のバウンダリーレス化——コロナ禍の初期・以前・以後の文脈におけるジェンダーとキャリア研究の三十年レビュー
結論
ジェンダーとキャリアの研究は蓄積が増え続け、ジェンダー化された組織や不平等、ガラスの天井という論点が今も中核にあることが確認されました。一方でコロナ禍以降は、女性起業や国際キャリア、組織の枠を越えるキャリアへの関心が高まっています。人事担当者にとっては、昇進の壁への対処と、社外にも広がる働き方の支援を同時に設計する必要があるという示唆になります。
ジェンダーとキャリアに関する学術研究を長期にわたって集め、地図として整理した論文です。研究の量は増え続けており、中心にあるのは「ジェンダー化された組織」や不平等、昇進を阻む「ガラスの天井」といった主題でした。同時に、コロナ禍やデジタル化、ギグエコノミーを背景に、女性起業や国際キャリア、バウンダリーレス・キャリアへの関心が高まっていることが示されています。
この論文の要点
- ジェンダーとキャリアをめぐる研究の発表数は増加傾向にあります
- ジェンダー化された組織・不平等・ガラスの天井が今も中核テーマです
- コロナ禍以降、女性起業や国際キャリア、越境的な働き方の議論が伸びています
研究の問い
働く女性のキャリアをめぐる研究は、長年にわたり多くの分野で積み重ねられてきました。しかし、ジェンダー化された組織のあり方、昇進を阻むガラスの天井、女性起業、国際キャリアなど扱われる主題は分散しており、全体としてどこまで解明され、どこが空白なのかを見渡すことが難しい状態でした。さらにコロナ禍やデジタル化、ギグエコノミーの広がりは、働き方そのものを変えつつあります。この論文は、こうした変化の前後を通じて研究の地図を描き直し、今後どこを掘るべきかを示すために行われました。
調べ方
著者らは、ジェンダーとキャリアをテーマに公表された学術論文を対象に、二段階の手順で分析しています。第一段階では、引用のつながりをたどる書誌分析によって、研究がどのように発展し、現在どこにあるのかを追跡しました。第二段階では、抽出された研究クラスターの内容分析とテーマの地図づくりを行い、中心的なテーマ、変化しつつあるテーマ、そして空白となっている論点を整理しています。最後に、理論・文脈・特性・方法(TCCM)という枠組みで、今後の研究課題をまとめています。
わかったこと
まず、ジェンダーとキャリアに関する研究の発表数は、増加傾向にあることが示されました。分析からは、いくつかの研究クラスターが浮かび上がっています。ジェンダー化された組織と不平等、取締役会への登用やSTEM(科学・技術・工学・数学)分野でのキャリアにおける障壁とガラスの天井、国際キャリア、女性起業、そしてバウンダリーレス・キャリアとその恩恵、という広がりです。
このうち、ジェンダー化された組織、不平等、ガラスの天井といった論点は、依然として研究の中核に位置し続けています。一方で、女性起業や国際キャリア、バウンダリーレス・キャリアは、コロナ禍、デジタル化、ギグエコノミーの広がりを受けて存在感を増している、と著者らは述べています。つまり、古くからある壁が解消されたのではなく、そこに境界を越える新しい働き方の議論が重なってきた、という構図です。
人事・研修担当への示唆
- 昇進候補者の選抜基準と運用を点検し、ガラスの天井が生じていないか階層ごとの通過状況で確認しましょう
- 社外経験や越境的な働き方も評価に含め、社内一本道ではないキャリアの選択肢を明示しましょう
- 女性起業や国際キャリアの支援策を、育成メニューの中に位置づけて対象者に案内しましょう
読むときの注意点
この研究は既存の論文を集めて整理したレビューであり、特定の施策の効果を検証したものではありません。分析対象は学術データベースに収録された論文に限られるため、現場で起きている変化のすべてが映るわけではなく、クラスターの区分けや解釈にも研究者の判断が入ります。傾向をつかむ地図として使うのが適切です。
キーワード解説
- ガラスの天井
- ガラスの天井とは、能力や実績とは別の要因によって、女性などが組織の上位職に進みにくくなる、目に見えない障壁のことです。
- ジェンダー化された組織
- ジェンダー化された組織とは、働き方や評価の仕組みに男女の役割観が組み込まれ、結果として機会の偏りが生まれている組織のことです。
- バウンダリーレス
- バウンダリーレス・キャリアとは、一つの会社の内部にとどまらず、組織や職種の境界を越えながら築いていくキャリアのことです。
- 国際キャリア
- 国際キャリアとは、国境を越えた勤務や異動、海外との関わりを含みながら形づくられる働き方や経歴のことです。
- 女性起業
- 女性起業とは、女性が自ら事業を立ち上げて経営していく活動、およびそれを支える条件を扱う研究領域のことです。
- 書誌分析
- 書誌分析とは、論文の引用関係や公表の動向を集計し、研究分野の構造や広がりを目に見える形にする手法のことです。
- 研究クラスター
- 研究クラスターとは、扱うテーマや引用のつながりが近い論文どうしを、ひとまとまりの集団として捉えたもののことです。
よくある質問
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Qガラスの天井はもう解消されたのですか?
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Aこの研究では、ジェンダー化された組織や不平等、ガラスの天井は依然として研究の中核テーマであり続けていると報告されています。取締役会への登用やSTEM分野のキャリアにおける障壁も、主要な論点として位置づけられています。解消された、とは言えない状況です。
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Qコロナ禍で研究のテーマは変わりましたか?
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A中心テーマは大きく変わっていませんが、女性起業や国際キャリア、バウンダリーレス・キャリアといった主題の存在感が増している、と著者らは述べています。背景として、コロナ禍に加えてデジタル化やギグエコノミーの広がりが挙げられています。
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Q人事はこの論文をどう使えばよいですか?
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A施策の効果を測った研究ではないため、打ち手の答えを直接得るものではありません。自社の課題が、昇進の壁の側にあるのか、社外に開かれた働き方の支援の側にあるのかを整理し、議論の観点を洗い出す地図として使うのが現実的です。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


