集団で転職してきた人は定着し、元からいた社員が抜けやすくなる

集団で転職してきた人は定着し、元からいた社員が抜けやすくなる (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Newcomer and Incumbent Exit After Comobility Hiring Events

Luciana Zheng Manroop, Rhett Andrew Brymer, Aaron Hill / Personnel Psychology (2026年) / DOI: 10.1111/peps.70039 / 本文を読む(オープンアクセス)

邦題(編集部訳): 同時移籍を伴う採用の後に起きる、新規入社者と既存社員の離職

結論

他社から複数人が同時に移ってくるコモビリティ(同時移籍)では、一緒に来た人どうしが関係と仕事の型を保てるため定着しやすく、逆に受け入れ側の既存社員は職場への埋め込みが弱まって離職しやすくなると論じられます。集団が大きくリーダー格を伴うほど影響は強まるとされ、複数名をまとめて迎える採用では既存メンバーへのケアを同時に設計しておく必要があります。

他社から複数人が同時に移ってくる採用を、この研究は「コモビリティ(同時移籍)」と呼びます。研究チームは、一緒に移ってきた人どうしは以前の関係と仕事の進め方を持ち込めるため職場に根を張りやすく、離職しにくいと論じます。一方で受け入れ側の既存社員は、人間関係と仕事の構造が組み替えられることで職場とのつながりが弱まり、離職しやすくなると想定しました。この効果は移ってきた集団が大きいときや、リーダー格を伴うときに強まるとされています。

この論文の要点

  • コモビリティとは、他社から複数人が同時に入社してくる採用のかたちです
  • 同時に移った人どうしは元の関係と仕事の進め方を保てるため、定着しやすいと論じられます
  • 既存社員は関係と仕事の構造が崩れて離職しやすくなり、集団が大きくリーダーを伴うほど影響は強まると想定されます

研究の問い

中途で入った人は、まだ職場との結びつきが薄いため辞めやすい層とされてきました。企業は人を集める手段として、他社から複数人をまとめて迎え入れる採用をしばしば使います。ところが、この「どこから一緒に来たか」という所属のつながりが、入ってきた人自身の定着にどう効くのかは、これまで正面から検討されてきませんでした。さらに見落とされてきたのが、受け入れる側の既存社員への影響です。組織にとって既存社員が残るかどうかは重要な論点なのに、集団での中途採用が彼らの定着に何をもたらすかを扱った研究はごくわずかでした。本研究はこの二つの空白を埋めようとしています。

調べ方

研究チームは、コモビリティをめぐる議論と、離職を「出来事」として捉える理論を組み合わせて枠組みを立てました。検証には二つのアーカイブ分析(既存の記録をさかのぼって使う分析)を用い、対象は米国の大学フットボールのコーチ陣と、米国の法律事務所のパートナーです。期間は2001年から2018年までとされています。加えて、同時移籍が移ってきた人と既存社員の結びつきにどう働くかを探るため、米国のフルタイム就業者を対象とした業種横断のアンケートと、実際に集団で移った人への個別インタビューを行っています。

わかったこと

この研究が立てた見立ては、大きく二つです。ひとつは、同時に移ってきた人どうしは、以前の職場から持ち越した人間関係と仕事の進め方を新しい会社の中でも保てるため、職場への埋め込み(その職場に根を張っている度合い)が補強され、結果として辞めにくくなるというものです。ひとりで入るのとは違い、最初から気心の知れた相手と仕事の型がある状態で働き始められる、という理屈です。

もうひとつは、受け入れる側から見た話です。集団で人が入ってくると、既存社員がそれまで築いてきた社内の人間関係や仕事の分担が組み替えられます。その結果、既存社員の側の埋め込みが弱まり、離職の可能性が高まると論じられています。

そして、これらの効果は、移ってきた集団の人数が多いときや、その集団にリーダー格が含まれているときに、より強く現れると想定されています。なお抄録の範囲では、検証の具体的な結果や、こうした想定がどこまで支持されたかまでは明記されていません。

人事・研修担当への示唆

  • 複数名をまとめて中途採用するときは、新しく入る人だけでなく既存メンバーの離職リスクも同時に見積もりましょう
  • 受け入れ後は、既存社員の担当範囲や社内の関係が組み替わっていないかを、上長との1on1で早めに確かめてください
  • 移ってきた集団の人数が多いときやリーダーを伴うときほど、既存社員へのフォローを手厚く設計しましょう

読むときの注意点

検証対象は米国の大学フットボールのコーチと法律事務所のパートナーという、人の移動が外から見えやすい職種です。日本の一般的な企業にそのまま当てはまるとは限りません。また記録をさかのぼる分析であり、集団での転職が離職を引き起こしたと断定できる作りではない点に注意が必要です。抄録では検証結果そのものまでは示されていません。

キーワード解説

コモビリティ
コモビリティとは、他社にいた複数の人が同じ時期にまとまって別の会社へ移り、同じ職場で働き始める採用や移動のかたちのことです。
同時移籍
同時移籍とは、前の職場で同僚だった人たちが時期を合わせて同じ転職先へ移ることを指す言い方のことです。
埋め込み
埋め込みとは、人間関係や仕事上のつながりによって、その職場から離れにくくなっている状態の度合いのことです。
既存社員
既存社員とは、新しく入ってくる人を迎える側にいる、すでにその職場で働いている従業員のことです。
中途採用
中途採用とは、学校を出たばかりの人ではなく、他社での就業経験がある人を必要に応じて迎え入れる採用のことです。
離職リスク
離職リスクとは、ある社員が会社を辞める可能性の高さを、採用や配置の判断材料として見積もったもののことです。
アーカイブ分析
アーカイブ分析とは、調査のために新しく集めたデータではなく、すでに残されている記録をさかのぼって使う分析方法のことです。

よくある質問

Q
コモビリティ(同時移籍)とは何ですか?
A
他社から複数の人が同じ時期にまとまって入社してくる採用のかたちを指します。この研究では、一緒に移った人どうしが前の職場での人間関係や仕事の進め方をそのまま持ち込めるため、ひとりで入る場合より職場に根を張りやすいと論じられています。
Q
集団で転職してきた人は定着しやすいのですか?
A
この研究はそう論じています。一緒に移った相手との関係と仕事の型が残るため職場への埋め込みが補強され、辞めにくくなるという見立てです。ただし抄録の範囲では、検証によってこの想定がどこまで支持されたかまでは明記されていません。
Q
まとめて中途採用すると既存社員は辞めますか?
A
本研究は、集団での入社によって既存社員の社内の人間関係や仕事の分担が組み替えられ、職場とのつながりが弱まって離職しやすくなると想定しています。移ってきた集団が大きく、リーダー格を伴うときほど影響は強まるとされるため、受け入れ後のフォローを先に設計しておくと安全です。

原論文のライセンス: cc-by-nc-nd。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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