一人で遊ぶ販促ゲームは、対戦型より倫理的だと感じられる

一人で遊ぶ販促ゲームは、対戦型より倫理的だと感じられる (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Ethical Judgment Toward Gamified Marketing Campaigns

Samaan Al‐Msallam, Nannan Xi, Juho Hamari / Journal of Business Ethics (2026年) / DOI: 10.1007/s10551-026-06420-7

邦題(編集部訳): ゲーミフィケーションを用いたマーケティングキャンペーンに対する倫理的判断

結論

ゲーム要素を取り入れた販促は、一人で完結する設計のほうが、他の参加者と関わる設計より倫理的だと評価されました。複数人で遊ぶ場合でも、競い合う設計より協力し合う設計が好意的に見られます。結果が腕前で決まるか運で決まるかという違い自体は、評価を分けませんでした。研修にゲーム要素を入れる際、順位を争わせる設計は納得感を下げうると示唆されます。

ゲーム要素を使った販促キャンペーンを、消費者はどこまで公正だと感じるのでしょうか。オンライン実験の結果、一人で完結する設計は、他の参加者と関わる設計より倫理的だと評価されました。複数人で遊ぶ場合でも、競い合う設計より協力し合う設計のほうが好意的に受け止められています。一方、結果が腕前で決まるか運で決まるかという違いは、それ自体では評価を分けませんでした。

この論文の要点

  • 単独で完結するゲーム設計が、複数人で関わる設計より倫理的だと評価されました
  • 複数人型の中では、競争を軸にするより協力を軸にするほうが好意的に見られます
  • 腕前か運かの違いだけでは差が出ず、他の条件との組み合わせで効いていました

研究の問い

販促の現場では、ポイントやくじ引きなどゲームの仕組みを取り入れる手法、いわゆるゲーミフィケーションが広く使われています。参加者の関与を高める効果はよく知られている一方で、受け手がその手法をそもそも公正だと感じているのか、つまりどのような倫理的判断を下しているのかは十分に検討されてきませんでした。とりわけ、設計上のどの要素が評価を左右するのかは不明なままでした。そこで本研究は、他の参加者と関わるかどうかという社会的ダイナミクスと、結果が自分の腕前で決まるかという主体性の二つに注目し、この空白を埋めようとしています。

調べ方

オンライン上での実験が行われました。参加者は「Spin to Win」というルーレット型のゲームを題材にした六つの条件のいずれかにランダムに割り当てられ、その販促に対する倫理的判断を回答しています。条件は、一人で遊ぶか、他者と協力するか、他者と競争するかという社会的ダイナミクスと、結果が腕前で決まるか運で決まるかという主体性の組み合わせです。ゲームには金銭的な報酬が用意されていました。参加者は871名、最終的な分析対象は735名です。道徳観の個人差として理想主義相対主義も測定されました。

わかったこと

最も明確だったのは、社会的ダイナミクスの影響です。人は、一人で完結する単独型の設計を、他の参加者が関わる複数人型よりも倫理的だと評価しました。

複数人型の中でも差がありました。他者と協力する設計は、他者と競争する設計より倫理的だと受け止められています。誰かを出し抜く構図そのものが、キャンペーンへの見方を厳しくしていた可能性があります。

意外だったのは主体性です。腕前で結果が決まる設計と、運で決まる設計との間には、統計的にはっきりした差は見られませんでした。ただし、主体性と社会的ダイナミクスの間には交互作用が確認され、そこには理想主義と相対主義という道徳観の水準が関わっていました。腕前か運かの意味づけは、誰と一緒に遊ぶ設計なのか、そして受け手がどんな道徳観を持つのかによって変わる、ということです。

人事・研修担当への示唆

  • 研修にゲーム要素を入れるなら個人完結型を基本に置き、ランキング掲示は目的が明確な場合に限りましょう
  • チーム単位にするなら競争より協力を軸に設計し、他者を出し抜く要素を減らすと納得感が保てます
  • 抽選など運の要素の是非は単独で判断せず、誰と競うかや受け手の道徳観と併せて確認しましょう

読むときの注意点

オンライン実験でルーレット型ゲームという特定の題材を扱った研究であり、対象は消費者です。人材育成の場面にそのまま当てはまるとは限りません。また測定されたのは実際の行動ではなく評価であり、長期的な影響については抄録では明記されていません。日本の職場での再現性も確かめられていません。

キーワード解説

ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションとは、ポイントや競い合い、報酬といったゲームの仕組みを、遊び以外の活動に取り入れて人の意欲や関与を高める設計手法のことです。
倫理的判断
倫理的判断とは、ある行為や仕組みが道徳的に正しいか、公正かを人が評価し、その良し悪しを見極める心の働きのことです。
社会的ダイナミクス
社会的ダイナミクスとは、参加者が一人で取り組むのか、他者と手を組むのか、勝敗を争うのかといった、人と人との関わり方の設計のことです。
主体性
主体性とは、ここでは結果が自分の腕前や工夫で決まるのか、それとも運で決まるのかという、本人が結果に関与できる度合いのことです。
理想主義
理想主義とは、誰かを傷つけない結果を常に求め、道徳の原則は例外なく守られるべきだと考える道徳観の傾向のことです。
相対主義
相対主義とは、道徳の正しさは状況や文化によって変わると捉え、絶対的な規範をそのまま当てはめない道徳観の傾向のことです。
協力
協力とは、参加者が互いに助け合い、共通の目標に向けて成果を分かち合う関わり方のことです。
競争
競争とは、参加者が限られた報酬や順位をめぐって、互いに勝ち負けを争う関わり方のことです。

よくある質問

Q
ゲーミフィケーションは倫理的に問題がありますか?
A
手法そのものが問題という結果ではありません。この研究が示したのは、同じ仕組みでも設計次第で受け手の評価が変わるということです。特に他の参加者と関わらせる設計は、一人で完結する設計より倫理的だと感じられにくい傾向がありました。
Q
協力型と競争型ではどちらが望ましいですか?
A
複数人が関わる設計を選ぶなら、この研究では協力を軸にした設計のほうが競争を軸にした設計より倫理的だと評価されました。チーム対抗の企画を組むときは、勝敗を強調するより、助け合いで成果が積み上がる形にするほうが受け入れられやすいと言えます。
Q
運で決まる抽選は不公平に見えますか?
A
腕前で決まる設計と運で決まる設計の間に、はっきりした差は見られませんでした。ただし他者との関わり方や受け手の道徳観と組み合わさると影響が現れています。運の要素は単独ではなく、企画全体の構造とセットで考えるのが妥当です。

原論文のライセンス: cc-by。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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