気候アクティビズムは事業と両立する形だけがキャリアに報われる

気候アクティビズムは事業と両立する形だけがキャリアに報われる (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

A Bourdieusian perspective on internal activism and professional careers

Katharina Hug, Stefanie Gustafsson, Katharina Chudzikowski / Human Relations (2026年) / DOI: 10.1177/00187267261477600

邦題(編集部訳): 内部アクティビズムと専門職のキャリアに関するブルデュー的視座

結論

専門職が社内で行う気候アクティビズムは、活動で得たものをキャリアに読み替えられるかどうかで扱いが分かれ、事業と両立する形は報われる一方、抵抗的な形は評価の外に置かれると論じられています。人事にとっては、有志活動をどう評価し、どう組織の意思決定につなぐかという設計次第で、変化の芽が育つか押し込められるかが変わるという示唆になります。

社内で気候変動に取り組む専門職の活動は、どんな形なら評価され、どんな形なら見過ごされるのか。本研究は、専門サービス企業で働くコンサルタントらへの聞き取りから、活動の進め方には三つの型があり、事業と両立しやすい形ほどキャリア上の見返りを得やすいことを示しました。抵抗的な活動は評価されにくく、社内の変化は小幅なものにとどまりやすいと論じられています。

この論文の要点

  • 社内の気候アクティビズムには三つの実践パターンがある
  • 事業と両立する活動は評価され、抵抗的な活動は認識されにくい
  • 個人のキャリア追求として進めると取り込まれ、変革が小幅化しやすい

研究の問い

社会や環境の課題を、自分のキャリアを通じて変えていきたい。そう考える働き手が増えています。ただ、専門職の世界には「何が正しい仕事か」を決める職業上のルールや、昇進をめぐるキャリア規範があります。こうした規範が、社内で声を上げ行動する動き——本研究でいう内部アクティビズム——の形をどう縛り、その活動が本人のキャリアにどう跳ね返るのかは、これまでほとんど分かっていませんでした。本研究は、コンサルティングなどの専門サービス企業を舞台に、社会学者ブルデューの理論を手がかりとして、この空白を埋めようとしたものです。

調べ方

調査の対象は、社内の気候アクティビストのグループに関わる専門職の方々です。中心はマネジメント・コンサルタントで、合わせて58件のインタビューが行われました。研究チームは、語られた経験をブルデューの理論枠組み——専門職の世界に共有された規範と、個人に染みついた性向——から読み解き、活動の進め方に共通するパターンを型として取り出しています。統計で効果を測るのではなく、当事者の語りから意味を組み立てる質的研究です。

わかったこと

著者らは、専門職が内部アクティビズムに取り組む際の実践パターンを三つに整理しています。一つ目は、活動を本業やキャリアの前進に組み込んでいく型。二つ目は、キャリア上の立場や影響力を使って活動を広げる型。三つ目は、活動を組織内のキャリアから切り離し、社会的な目的そのものを追う型です。

これらを支えているのが、二つの仕組みだと述べられています。活動を通じて知識・人脈・評判といった資源を積み上げる資本蓄積と、それを組織内で通用する評価や機会に読み替える資本転換です。両者を通じて、活動に由来するキャリア資本が形づくられます。

ただし報われ方は一様ではありません。事業と両立しやすい形の活動は評価される一方、既存のやり方に抵抗する形の活動はキャリア上ほとんど認識されない、と論じられています。その結果、社内の動きは抜本的な変革よりも小幅な改善へと流れやすく、集団の行動ではなく個人のキャリア上の計画として進められた場合には取り込みが起こり、変えようとしたはずの構造をかえって支えてしまう可能性が指摘されています。

人事・研修担当への示唆

  • 社内の気候・社会課題活動を評価する際、事業と両立する提案だけが報われていないか評価基準を点検しましょう
  • 有志活動を個人の手柄で終わらせず、部門横断の集団的な取り組みとして位置づける場を用意しましょう
  • 活動で得た知識や人脈を、配置転換や育成計画につなぐ道筋を人事側から明示しましょう

読むときの注意点

対象は主にコンサルタントなど専門サービスの現場で働く人であり、製造業や公的機関にそのまま当てはまるとは限りません。インタビューに基づく質的研究のため、どの型がどれくらい多いか、キャリアにどの程度効くのかといった量的な比較は行われていません。因果関係を測定した研究ではない点にも注意が必要です。

キーワード解説

内部アクティビズム
内部アクティビズムとは、組織を辞めたり外から批判したりするのではなく、社員として内側から社会や環境の課題解決を働きかける活動のことです。
専門サービス企業
専門サービス企業とは、コンサルティングや会計、法務など、専門知識そのものを商品として顧客に提供する企業のことです。
キャリア資本
キャリア資本とは、仕事の中で蓄えられ、次の機会や評価につながっていく知識・人脈・評判といった資源のことです。
資本蓄積
資本蓄積とは、活動や経験を通じて知識・人脈・評判といった資源を少しずつ積み上げていく過程のことです。
資本転換
資本転換とは、ある場面で得た資源を、別の場面で通用する価値へと読み替え、使える形に変えることです。
性向
性向とは、育ちや職業経験を通じて身につき、その人のものの見方や振る舞いの癖として表れる傾向のことです。
取り込み
取り込みとは、体制を変えようとする動きが、既存の枠組みに都合よく取り入れられ、批判する力を失うことです。

よくある質問

Q
社内の環境活動はキャリアに有利になりますか?
A
本研究では、活動の形によって扱いが分かれると論じられています。事業と両立しやすい形はキャリア上の見返りにつながりやすい一方、既存のやり方に抵抗する形は評価として認識されにくいとされています。
Q
なぜ社内の取り組みは小幅な改善で終わりがちですか?
A
活動が個人のキャリアに読み替えられる過程で、組織にとって受け入れやすい形が選ばれやすくなるためだと説明されています。結果として、抜本的な変革よりも小幅な改善へ流れやすいと論じられています。
Q
人事は有志の気候活動をどう扱えばよいですか?
A
本研究の含意としては、活動を個人の手柄に閉じ込めず集団の取り組みとして扱うこと、そして評価の基準が事業と両立する提案だけに偏っていないかを見直すことが手がかりになります。

原論文のライセンス: cc-by-nc。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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