働く人のストレスを『資源の増減』で読み解く理論、30年の到達点

働く人のストレスを『資源の増減』で読み解く理論、30年の到達点 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Conservation of Resources in the Organizational Context: The Reality of Resources and Their Consequences

Stevan E. Hobfoll, Jonathon R. B. Halbesleben, Jean‐Pierre Neveu, Mina Westman / Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior (2017年) / DOI: 10.1146/annurev-orgpsych-032117-104640

邦題(編集部訳): 組織の文脈における資源保存理論——資源の実像とその帰結

結論

資源保存(COR)理論は、人が大切な資源を守ろうとするという前提で、燃え尽きから強いトラウマ性ストレスまでを一つの見方でつなぎ、組織心理学・組織行動で最も多く引用される理論の一つになりました。職場で使うJD-Rもその大部分がこの理論を土台にしています。人事・研修担当は、施策を『どの資源が増えて何が減るか』で語り直せます。

職場のストレスをめぐる研究には、燃え尽き(バーンアウト)から強い衝撃を伴うトラウマ性ストレスまでを一つの見方でつなぐ理論があります。それが資源保存(COR)理論で、人は自分にとって大切な資源を守ろうとし、失うことを避けようとする、という前提から働く人のストレスを捉えます。本論文はこの理論の原則と派生命題を整理し直し、組織行動の研究がどう使ってきたかをたどった総説です。

この論文の要点

  • 燃え尽きから強いトラウマ性ストレスまで、幅広いストレス研究で使われてきた理論です
  • 職場で広く使われる『仕事の要求度‐資源モデル(JD-R)』の土台になっています
  • 資源を一つに絞らないため、具体的な仮説を幅広く立てられるのが強みです

研究の問い

職場のストレスを説明する理論はいくつもありますが、多くは裁量権(コントロール)のように中心となる資源を一つに定めるか、逆に資源を漠然とひとまとめに語ってきました。前者は扱える現象が狭くなり、後者は具体的な予測が立てにくくなります。資源保存(COR)理論はその間を埋める枠組みとして、組織心理学・組織行動の分野で最も多く引用される理論の一つになりました。広く使われている理論だからこそ、原則がどう組み立てられ、それに基づく研究が何を明らかにしてきたのかを、あらためて確認しておく意味があります。本論文はその整理を目的としています。

調べ方

本論文は新たにデータを集めた調査ではなく、理論の解説とこれまでの研究の総説です。著者らはまずCOR理論の原則と、そこから導かれる派生命題(コロラリー)を示し直します。そのうえで、この理論を土台にした組織行動分野の研究を見渡し、どのような仮説が立てられ、検証されてきたかを整理します。対象となった人や職場、レビューした研究の件数といった詳細は、抄録では明記されていません。

わかったこと

資源保存(COR)理論は、この30年ほどのあいだに組織心理学・組織行動の分野で最も多く引用される理論の一つになりました。扱われてきた範囲は広く、燃え尽き(バーンアウト)のような慢性的な消耗から、強い衝撃を伴うトラウマ性ストレスまで、ストレス研究のさまざまな領域で使われています。

さらに、職場のストレスを説明する代表的な理論である『仕事の要求度‐資源モデル(JD-R)』も、その大部分がCOR理論を土台にしています。研修や職場改善の場面で使われる『要求』と『資源』という言い方の背後には、この理論があるということです。

著者らが挙げる大きな利点は、具体的な仮説を幅広く立てられることです。裁量権(コントロール)のように中心となる資源を一つに絞る理論や、資源を一般論としてしか語らない理論に比べ、COR理論からはより広い範囲の予測が導けます。本論文は、その仮説のもとになる原則と派生命題を確認し、それに依拠してきた組織行動研究を見渡しています。

人事・研修担当への示唆

  • 施策を説明するとき『何の資源が増えて、何が減るのか』を一文添えると現場に伝わります
  • JD-Rで研修や職場診断を設計しているなら、土台のCOR理論まで遡って前提を確認しましょう
  • ストレス対策を裁量権など一つの打ち手に絞らず、複数の資源を並べて選択肢を広げます

読むときの注意点

本論文は総説であり、個々の職場で効果を検証した実験ではありません。広く引用されていることは、理論の正しさが証明されたことを意味しません。原則や派生命題の具体的な中身、レビュー対象となった研究の範囲は抄録では明記されていないため、実務に当てはめる際は原文にあたることをおすすめします。

キーワード解説

COR理論
COR理論とは、人が自分にとって大切な資源を守り、失うことを避けようとするという前提から、働く人のストレスを捉える考え方のことです。
JD-R
JD-Rとは、仕事の要求度と資源という二つの側面から職場のストレスや働きがいを説明するモデルのことです。日本語では仕事の要求度‐資源モデルと呼ばれます。
バーンアウト
バーンアウトとは、仕事のなかで心身の力が続かなくなり、意欲や関心が失われていく状態のことです。日本語では燃え尽きと呼ばれます。
トラウマ性ストレス
トラウマ性ストレスとは、事故や災害のような強い衝撃を伴う出来事によって生じる、心理的な負担の大きいストレスのことです。
派生命題
派生命題とは、理論の基本となる原則から論理的に導かれる、より具体的な言い換えや予測のことです。コロラリーとも呼ばれます。
裁量権
裁量権とは、仕事の進め方や時間配分を自分で決められる度合いのことです。コントロールとも呼ばれ、職場のストレス研究で古くから扱われてきました。
組織行動
組織行動とは、職場で働く人や集団のふるまいを、心理学や経営学の視点から研究する分野のことです。

よくある質問

Q
資源保存(COR)理論とは何ですか?
A
人は自分にとって大切な資源を守ろうとし、失うことを避けようとする、という前提から働く人のストレスを捉える理論です。本論文によれば、この30年ほどのあいだに組織心理学・組織行動の分野で最も多く引用される理論の一つになりました。
Q
COR理論とJD-Rはどう関係しますか?
A
本論文は、職場のストレスを説明する代表的なモデルであるJD-R(仕事の要求度‐資源モデル)の大部分が、COR理論を土台にしていると述べています。研修や職場診断で使う『要求』と『資源』という言い方の背後に、この理論があるということです。
Q
人事の実務ではどう使えますか?
A
施策を説明するときに『何の資源が増えて、何が減るのか』を一文添えると現場に伝わりやすくなります。またストレス対策を裁量権など一つの打ち手に絞らず、複数の資源を並べて選択肢を広げられます。ただし本論文は総説で、個々の職場で効果を検証したものではありません。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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