エコシステムを「構造」として定義し直すと、似た言葉との違いが見える

エコシステムを「構造」として定義し直すと、似た言葉との違いが見える (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Ecosystem as Structure

Ron Adner / Journal of Management (2016年) / DOI: 10.1177/0149206316678451

邦題(編集部訳): 構造としてのエコシステム

結論

エコシステムを「誰がどの活動でつながり、何を一緒に生み出すか」という構造として定義し直し、その構造を書き表すための文法を示した論文です。ビジネスモデルやプラットフォームなど隣接する概念と並べ、この言葉が新しい見方を足す場面とそうでない場面を切り分けました。人事・研修担当にとっては、社内外の相互依存を語る言葉を選び直す土台になります。

「エコシステム」という言葉は、この20年ほどで経営戦略の議論に広く入り込みました。本論文はその言葉を、組織や活動のあいだの相互依存を表す「構造」としてとらえ直し、明確な定義と、構造を書き表すための文法、そしてエコシステム戦略ならではの論点を示します。さらにビジネスモデルやプラットフォームといった近い概念と突き合わせ、この言葉が議論に何を足し、何を足さないのかを切り分けています。

この論文の要点

  • エコシステムを、組織や活動のあいだの相互依存を表す「構造」として定義し直しています
  • 構造を書き表すための「文法」と、エコシステム戦略ならではの論点を示します
  • プラットフォームやサプライチェーンなど、近い言葉との違いを整理しています

研究の問い

エコシステム」という言葉は、この20年ほどのあいだに経営戦略の議論で当たり前に使われるようになりました。学術の場でも実務の場でも同じです。その広がりの背景には、組織のあいだ、活動のあいだにある相互依存へ、研究者と実務家の双方が関心を寄せてきたことがあります。ただし言葉が広く使われるほど、それが何を指しているのかは曖昧になりがちです。指す範囲が定まらないままでは、すでにあるビジネスモデルプラットフォームといった概念と何が違うのかも判断できません。そこで著者は、構造主義の立場からこの言葉の中身を定め直すことを試みました。

調べ方

本論文はデータを集めた実証研究ではなく、概念を組み立て直す理論研究です。著者はまずエコシステムに明確な定義を与え、次にその構造を書き表すための「文法」、つまり誰がどの活動でどうつながっているかを記述する共通の言い方を用意します。そのうえでエコシステム戦略ならではの論点を示し、ビジネスモデル、プラットフォーム、コーペティション、多面市場、ネットワーク、技術システム、サプライチェーン、価値ネットワークといった近い概念と突き合わせました。扱った事例や文献の範囲は、抄録では明記されていません。

わかったこと

著者の出発点は、エコシステムを構造として見ることです。組織のあいだ、活動のあいだにある相互依存を、誰がどの活動を担い、それらがどう組み合わさってひとまとまりとして成り立つのか、という形で描きます。参加者の顔ぶれを並べることではなく、活動のつながり方をとらえることが要点です。

この見方に立つと、構造を書き表すための共通の言い方、つまり「文法」を用意できます。文法があれば、違う業界の事例を同じ土俵に並べたり、自社の位置づけを描いたりできます。あわせて著者は、エコシステム戦略の独自な側面がどこにあるのかを示します。その具体的な中身は、抄録では明記されていません。

そのうえで本論文は、ビジネスモデル、プラットフォーム、コーペティション、多面市場、ネットワーク、技術システム、サプライチェーン、価値ネットワークとエコシステムの関係を正面から検討します。狙いはエコシステムを持ち上げることではなく、この言葉が戦略の議論に洞察を足す場面と、足さない場面を線引きすることにあります。

人事・研修担当への示唆

  • 社内で「エコシステム」と言うときは、参加者名ではなく「誰がどの活動でつながるか」を一枚に描いてから話しましょう
  • 協業や外部連携の企画書では、プラットフォームやサプライチェーンとの違いを一行で書き分けると議論がぶれません
  • 人材施策も現場・人事・外部パートナーの相互依存として構造を描くと、どこが止まると全体が止まるかが見えます

読むときの注意点

本論文は概念を整理する理論研究であり、特定の企業で効果を測った実証研究ではありません。示されるのは考えるための枠組みであって、成果につながる手順ではない点に注意が必要です。定義や文法の具体的な中身、比較の根拠となった事例は抄録では明記されていないため、自社に当てはめる前に原文にあたることをおすすめします。

キーワード解説

エコシステム
エコシステムとは、複数の組織や活動が互いに依存しながら、ひとまとまりの価値を生み出している状態を指す言葉のことです。
相互依存
相互依存とは、片方の動きがもう片方の成果を左右する関係にあり、単独では目的を達成できない状態のことです。
構造主義
構造主義とは、個々の要素そのものより、要素どうしの関係やつながり方に注目してものごとを説明する考え方のことです。
ビジネスモデル
ビジネスモデルとは、誰にどんな価値を届け、その対価をどう受け取るかという事業の仕組みを表した見取り図のことです。
プラットフォーム
プラットフォームとは、複数の参加者が乗り入れて取引や連携を行うための、共通の土台となる仕組みのことです。
コーペティション
コーペティションとは、同じ相手と競争しながら同時に協力もするという、競争と協調が併存する関係のことです。
価値ネットワーク
価値ネットワークとは、ある製品やサービスが顧客に届くまでに関わる企業や活動のつながり全体を指す言葉のことです。

よくある質問

Q
エコシステムとプラットフォームは何が違いますか?
A
本論文は、この二つを含む近い概念どうしの関係を正面から検討しています。プラットフォームが参加者の乗り入れる共通の土台を指すのに対し、エコシステムは活動のつながり方という構造そのものに目を向けます。どちらが正しいというより、説明したい対象によって使い分ける言葉です。
Q
エコシステムという言葉はいつから広まったのですか?
A
本論文によれば、この20年ほどのあいだに、学術の議論でも実務の議論でも当たり前に使われるようになりました。その広がりは、組織や活動をまたぐ相互依存に、研究者と実務家の双方が関心を寄せてきたことと重なっています。
Q
人事の仕事にエコシステムの考え方は使えますか?
A
本論文は経営戦略の議論を対象としており、人事の実務そのものは扱っていません。ただし「誰がどの活動でつながっているか」を構造として描く発想は、部門や外部パートナーをまたぐ人材施策を設計し直すときにも当てはめられます。

原論文のライセンス: cc-by-nc。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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