上司のワーカホリズムの悪影響は部下の「同一視」で和らぐ

上司のワーカホリズムの悪影響は部下の「同一視」で和らぐ (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

More identification, less pain? Leader identification helps followers reduce burnout when facing leader workaholism

Yu Zhu, Fan Luo, Yang Jing, Yanfei Wang / Journal of Managerial Psychology (2026年) / DOI: 10.1108/jmp-03-2024-0186

邦題(編集部訳): 同一視が強いほど痛みは小さい?――リーダー同一視は、上司のワーカホリズムに直面する部下のバーンアウト軽減を助ける

結論

上司がワーカホリズム(仕事に強迫的にのめり込む傾向)を示すと、部下は仕事への強迫的情熱を強め、その先でバーンアウトに近づきやすくなります。ただし上司に自分を重ねる「リーダー同一視」が強い部下では、この結びつきが弱まることが示されました。部下側の受け止め方も燃え尽き対策の対象になる、という示唆です。

働きすぎの上司のもとで部下が疲弊するかどうかは、部下がその上司をどう受け止めているかによって変わるようです。本研究では、上司のワーカホリズムが部下の強迫的情熱を高め、それがバーンアウトへとつながる経路が確認されました。一方で、上司に自分を重ねるリーダー同一視が強い部下では、この経路が弱まっていました。

この論文の要点

  • 上司のワーカホリズムは、部下の強迫的情熱を経てバーンアウトと結びつきます
  • リーダー同一視が強い部下では、その結びつきが弱まっていました
  • 部下側の受け止め方も、燃え尽き対策の打ち手になりうるという知見です

研究の問い

働きすぎの上司のもとでは、部下の心身の負担が高まりやすいことがこれまでの研究で指摘されてきました。ワーカホリズムの強い上司は、休まず働き続ける姿を通じて職場の暗黙の基準をつくり、部下の働き方にも影響を及ぼすためです。ただし従来の議論は、上司から部下への悪影響を描くところで止まりがちで、受け手である部下の側に何かできることがあるのかは十分に検討されてきませんでした。本研究は視点を部下の側に移し、上司をどう受け止めるかによってバーンアウトに至る道筋が変わるのかを問い直しています。

調べ方

複数の時点にわたって回答を集めるマルチウェーブ方式の実地調査が行われ、フルタイム勤務の従業員292名から回答が得られています。上司のワーカホリズム、部下のリーダー同一視、部下の強迫的情熱、そしてバーンアウトを測定し、同一視の程度によって上司のワーカホリズムと強迫的情熱の関係が変わるかを検討しました。調査が行われた国や業種、時点の間隔については抄録では明記されていません。

わかったこと

上司のワーカホリズムが強いほど、部下の強迫的情熱、つまり仕事から気持ちを離せない切迫した没頭が高まりやすいという関係が確認されました。そしてその強迫的情熱の高まりを経由して、バーンアウトが高まるという間接効果もみられています。

注目されるのは、この経路が誰にでも同じように働くわけではない点です。上司を自分の一部のように感じるリーダー同一視が強い部下では、上司のワーカホリズムと強迫的情熱の結びつきが弱まり、それに伴ってバーンアウトへの間接効果も弱まりました。著者らはこの結果を、自己決定理論でいう統制的動機づけの内部にも質の違いがありうることを示す手がかりとして位置づけています。

ただしこれは、同一視があれば影響が消えるという話ではなく、結びつきの強さが変わるという水準の知見です。

人事・研修担当への示唆

  • 上司のワーカホリズムだけでなく、部下側の強迫的情熱の兆候も面談やサーベイの確認項目に入れましょう
  • リーダー同一視は健全な範囲にとどめ、上司の働き方をそのまま真似させない境界づくりを研修で扱いましょう
  • 管理職研修では、自分の働きすぎが部下のバーンアウトの入口になりうる点を具体例で共有しましょう

読むときの注意点

示されているのは変数間の関連と、同一視による結びつきの変化であり、因果関係が確定したわけではありません。対象者の国や業種、調査時点の間隔は抄録では明記されていません。また、リーダー同一視をどの水準まで高めるのが適切かという線引きについても、抄録の記述からは読み取れない点に注意が必要です。

キーワード解説

ワーカホリズム
ワーカホリズムとは、内側からの強い衝動に駆られて働き続け、仕事から気持ちを切り離すことが難しくなる状態のことです。
リーダー同一視
リーダー同一視とは、部下が上司を自分の一部のように感じ、上司の価値観や姿を自分の自己像に重ね合わせる心理状態のことです。
強迫的情熱
強迫的情熱とは、やらずにいられないという内的な圧力から仕事にのめり込み、自分では切り上げにくくなる情熱のあり方のことです。
バーンアウト
バーンアウトとは、負荷のかかる状態が続くことで心身の力が尽き、疲弊感や仕事への冷めた態度が強まっていく状態のことです。
自己決定理論
自己決定理論とは、人の動機づけを自律的なものと統制的なものに分けて捉え、その質が行動や健康に及ぼす影響を説明する理論のことです。
統制的動機づけ
統制的動機づけとは、外からの圧力や内面化された義務感に押されて行動が生じる、自律性の低い動機づけのことです。
間接効果
間接効果とは、ある要因が結果に直接届くのではなく、途中にある別の変数を経由して結果に影響を及ぼす経路のことです。

よくある質問

Q
上司がワーカホリズムだと部下は必ず燃え尽きますか?
A
必ずではありません。上司のワーカホリズムは部下の強迫的情熱を介してバーンアウトと結びつきやすい一方で、その強さは部下のリーダー同一視の程度によって変わると報告されています。全員に同じ影響が出るわけではない、というのが本研究の要点です。
Q
リーダー同一視は高いほど良いのですか?
A
本研究では、同一視が上司のワーカホリズムの悪影響を和らげる働きをしていました。ただし著者らは、健全で境界のある同一視を育てることを勧めており、無制限に高めればよいとは述べていません。上司への一体感と、自分の働き方の線引きを両立させる視点が要ります。
Q
強迫的情熱と仕事熱心さはどう違いますか?
A
強迫的情熱は、やらずにいられない切迫感に駆り立てられて仕事にのめり込む状態を指し、自分で選んで打ち込む熱心さとは区別されます。自己決定理論では前者は統制的動機づけに位置づけられ、本研究ではバーンアウトにつながる経路として扱われています。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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