チーム研修で個人が学べるかは「チーム内の役割志向」で決まる

チーム研修で個人が学べるかは「チーム内の役割志向」で決まる (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

We Succeeded, But Did I Learn? How Team Role Orientations Affect Individual‐Level Transfer of Team Training

Erich C. Dierdorff, Tyree Mitchell, Robert S. Rubin, Rhett Andrew Brymer / Personnel Psychology (2026年) / DOI: 10.1111/peps.70038

邦題(編集部訳): 私たちは成功した、しかし私は学んだのか——チーム役割志向が個人レベルのチーム訓練転移に与える影響

結論

チーム研修の成果は、メンバーがチームの中でどんな役割志向を持つかによって個人差が生まれます。実行役の志向は課題そのものの知識・スキルの習得を、関係づくり役の志向はチームワークの学びを高める一方、段取り役の志向はいずれの学びも妨げる方向に働いていました。研修設計では、チームの成果だけでなく、誰がどの役割に寄りやすいかまで見て個人の学びを守る必要があります。

チーム単位の研修がうまくいったからといって、参加者一人ひとりが学べているとは限りません。本研究は、シミュレーション型のチーム訓練に取り組んだ学生チームを対象に、メンバーの役割志向が個人の学習成果とどう結びつくかを調べました。実行役・関係づくり役・段取り役という三つの志向で学びの中身が分かれ、自分の貢献を振り返る調整的学習行動がその一部を説明していました。

この論文の要点

  • 実行役(Doer)の志向が強いメンバーほど、課題遂行そのものの知識とスキルを習得していました
  • 関係づくり役(Team Builder)の志向は、チームワークのスキルと知識の習得を高めていました
  • 段取り役(Organizer)の志向は、複数の学習成果を逆に妨げる方向に働いていました

研究の問い

チーム単位の研修は、チームの成果を高めることが多くの研究で確かめられてきました。しかし、そこに参加した一人ひとりが何をどれだけ学べたのかは、これまで十分に検討されていません。研修は集団で行っても、学びを職場に持ち帰るのは個人です。本研究は役割理論と自己調整の理論を手がかりに、メンバーが「チームの中で自分はどう振る舞うべきか」という役割志向を持ち込むことで、認知的・行動的な資源の向け先が変わり、その結果として個人の学習転移が助けられたり妨げられたりするのではないかと考えました。チーム訓練における個人の学びを左右する条件を明らかにすることが狙いです。

調べ方

対象は、シミュレーションを用いたチーム訓練プログラムに取り組んだ学生チームで、抄録によれば84チーム・330名が分析されています。研究では、メンバーそれぞれが持つ役割志向(実行役、関係づくり役、段取り役)を測り、訓練で狙われたタスクワークチームワークの知識・スキルの獲得との関係を検討しました。あわせて、自分の貢献を計画し、評価し、調整する調整的学習行動を媒介の仕組みとして、チーム学習有効性をチームレベルの条件として組み込んでいます。なお、測定の時期や尺度の詳細は抄録では明記されていません。

わかったこと

メンバーが持つ役割志向によって、チーム訓練から持ち帰る学びの中身が変わっていました。課題そのものを進めることを重視する実行役(Doer)の志向が強いほど、タスクワークの知識とスキルの習得が高まりました。メンバー間の関係づくりを重視する関係づくり役(Team Builder)の志向は、チームワークのスキルと知識の習得を高めていました。

一方、段取りや調整を引き受けようとする段取り役(Organizer)の志向は、タスクワークの知識とスキル、そしてチームワークの知識の習得を抑える方向に働いていました。役割志向は、学びを助けることも妨げることもあるわけです。

こうした違いを説明する仕組みとして、著者らは自分の貢献を計画し、評価し、調整する調整的学習行動を想定しました。この媒介は、実行役と関係づくり役の志向について支持されました。さらに、チーム学習有効性が高いチームでは、実行役と段取り役の志向が学習成果に及ぼす影響がより強く現れていました。

人事・研修担当への示唆

  • チーム研修の効果測定を、チーム成果だけでなく個人ごとの知識・スキル習得まで広げましょう
  • 事前に各メンバーの役割志向の傾向をつかみ、偏りがあれば担当分担や振り返りの設計で補いましょう
  • 研修中に「自分の貢献を計画し、評価し、調整する」時間を明示的に組み込みましょう

読むときの注意点

対象はシミュレーション訓練に参加した学生チームであり、職場の研修にそのまま当てはまるとは限りません。分析は変数間の関連を示すもので、役割志向が学習成果を引き起こしたと断定はできません。媒介の仕組みも実行役と関係づくり役に限って支持されており、段取り役については同じ説明が確かめられていない点に注意が必要です。

キーワード解説

役割志向
役割志向とは、チームの中で自分が担うべき役割について、本人が抱いている考え方や構えのことです。
調整的学習行動
調整的学習行動とは、チームへの自分の貢献を計画し、進み具合を評価し、やり方を調整していく学び方のことです。
タスクワーク
タスクワークとは、チームが取り組む課題そのものを遂行するために必要な知識や技能のことです。
チームワーク
チームワークとは、メンバー同士が協力して動くために必要な知識や技能、態度のことです。
チーム学習有効性
チーム学習有効性とは、チーム全体としてどれだけうまく学べているかを表す、集団レベルの状態のことです。
学習転移
学習転移とは、研修で身につけた知識やスキルが、実際の仕事の場面で使われるようになることです。
チーム訓練
チーム訓練とは、メンバーが協働して成果を出せるようになることを目的に、チーム単位で実施する研修のことです。

よくある質問

Q
チーム研修は個人の学びにもつながりますか?
A
つながる人とつながりにくい人がいます。本研究では、チーム訓練を受けても、メンバーが持つ役割志向によって身につく知識やスキルの中身が分かれ、志向によっては学習成果が抑えられる場合もあることが示されました。チームの成功と個人の学びは別物として見る必要があります。
Q
役割志向とは何ですか?
A
チームの中で自分がどう振る舞うべきかについて、本人が持っている構えのことです。本研究では、課題遂行を重視する実行役、関係づくりを重視する関係づくり役、段取りや調整を引き受ける段取り役の三つが扱われ、それぞれ学びの伸び方が異なっていました。
Q
段取り役タイプは研修に向かないのですか?
A
そうとは言い切れません。本研究では段取り役の志向がいくつかの学習成果を抑える方向に働きましたが、これは学生チームのシミュレーション訓練という場面での関連です。段取り役が担う調整はチーム運営に必要な働きであり、本人の学びをどう確保するかが課題だと読むのが妥当です。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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