
紹介する論文
Regulatory Balancing Acts: Lobbying and Medical Device Approval
邦題(編集部訳): 規制のバランス調整——ロビイングと医療機器の承認
結論
規制当局への働きかけは、平均すると医療機器の承認までの期間の短さと関連していました。ただし製品回収を経験した後は関係が反転しうる一方、革新的だという評判がある企業では加速の効果が強まります。働きかけの効き方は、相手がそれをどう解釈するかで変わる。この視点は、社内で提案を通す立場の人にも通じます。
企業が規制当局に働きかけるロビイングは、承認を早めることもあれば、かえって審査を慎重にさせることもあります。本研究は、当局が「早すぎる決定」と「遅すぎる決定」の両方で批判されうる立場にあり、自らの評判を守るために審査の時間を裁量的に使うと考えました。米国FDAの医療機器承認データの分析では、ロビイングと承認の速さの関係が、企業のリコール歴や革新性の評判によって変わることが示されています。
この論文の要点
- ロビイングは平均すると承認までの期間の短さと関連していました
- リコールを経験した後は、この関係が反転しうると示されました
- 革新的だという評判があると、承認が早まる効果は強まります
研究の問い
企業が規制当局に働きかけるロビイングは、非市場戦略の代表格です。しかしその評価は割れてきました。判断材料を提供して規制の質を高めるものと見る立場もあれば、行政の判断を歪めるものと見る立場もあり、実証結果も一貫していません。本研究はここで視点を変え、働きかけを受け取る側である規制当局の事情に注目します。当局は決定が早すぎても遅すぎても批判されるため、審査にかける時間を裁量的に使って評判リスクを管理しようとします。この見方に立てば、ロビイングは説得の手段というより、継続的な関与を通じて当局の確信の度合いに影響するものになります。では、その解釈は企業側の評判の手がかりによってどう変わるのでしょうか。
調べ方
著者らは、米国FDA(食品医薬品局)による医療機器の承認を対象に、2002年から2021年までを扱う新しく構築したデータセットを分析しました。企業のロビイング活動と、承認が下りるまでの速さとの関係を調べたうえで、その関係が企業側の評判の手がかりによって変わるかどうかを検討しています。手がかりとして取り上げられたのは、製品のリコール(市場からの回収)を経験したかどうかと、革新的な企業だと外部に示すシグナルです。
わかったこと
まず平均的な傾向として、ロビイングを行っている企業ほど承認スピードが速いという関連が見られました。著者らはこれを、説得によって審査の判断が曲げられた結果というより、継続的なやり取りを通じて「予見できるリスクは洗い出され、手当てされている」という当局側の確信が高まった結果として解釈しています。
ただしこの関係は一様ではありません。製品のリコールを経験した後の企業では、効果が反転しうることが示されました。過去に問題を起こした企業からの働きかけは、当局から見ると「見当違いの自信」と映り、後で自らの評判を損ないかねない決定を避けるために、かえって審査を慎重にする方向に働くと説明されています。
逆に、革新的な企業だというイノベーション評判の手がかりがある場合には、加速の効果が強まりました。速やかに承認したことを外部の関係者に説明しやすくなるためだと論じられています。
人事・研修担当への示唆
- 経営層や他部門への働きかけは、一度きりの説得ではなく継続的な関与として設計しましょう
- 自部門が失敗を出した直後は、強い提案より再発防止の説明を先に置くほうが通りやすくなります
- 提案を承認する相手が誰に説明責任を負うのかを確認し、その相手に説明しやすい材料を添えましょう
読むときの注意点
本研究が示すのは関連であって、働きかけが承認の速さを引き起こしたと断定するものではありません。対象は米国の医療機器承認という特定の制度環境で、他の業界や国、まして企業内部の意思決定にそのまま当てはまるとは限りません。効果の大きさや条件の詳細は抄録では明記されていません。
キーワード解説
- ロビイング
- ロビイングとは、企業などが政府や規制当局に働きかけ、規制や政策の決定に有利な影響を与えようとする活動のことです。
- 非市場戦略
- 非市場戦略とは、製品や価格の競争ではなく、政治や制度、世論といった市場の外側の環境に働きかけて有利な条件をつくる戦略のことです。
- 規制当局
- 規制当局とは、法令に基づいて企業の製品や活動を審査・監督し、承認や是正の判断を下す立場にある公的機関のことです。
- 評判リスク
- 評判リスクとは、ある判断や行動が外部からの評価を損ない、組織の信用や正当性を低下させてしまう可能性のことです。
- リコール
- リコールとは、安全性や品質の問題が判明した製品について、企業が市場から回収したり修理・交換したりする措置のことです。
- 承認スピード
- 承認スピードとは、企業が申請してから規制当局の審査を経て許可が下りるまでにかかる時間の速さのことです。
- イノベーション評判
- イノベーション評判とは、その企業が革新的な技術や製品を生み出す存在だと外部の関係者から認識されている状態のことです。
よくある質問
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Qロビイングをすると承認は早くなりますか?
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Aこの研究では、平均するとロビイングを行う企業ほど承認までの期間が短いという関連が見られました。ただし常にそうなるわけではなく、企業がどのような評判を持っているかによって、関係が弱まったり反転したりすることが示されています。
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Qなぜリコールの後は逆の効果になるのですか?
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A著者らは、規制当局が自らの評判リスクを管理している点に理由を求めています。過去に製品回収を出した企業からの働きかけは、根拠の乏しい自信の表れと受け取られやすく、後で問題になりうる決定を避けるために審査が慎重になると説明されています。
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Q人事や研修の仕事とどう関係しますか?
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A承認する側が「自分の判断を後で説明できるか」を気にしている、という構図は社内提案でも同じです。相手の説明責任を意識し、継続的に情報を共有しておくこと、そして自部門の直近の実績が受け取られ方を左右することを踏まえて動くと効果的です。
原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。


